糸井 |
はじめまして、糸井重里です。
よろしくお願いいたします。
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上田 |
はい、上田でございます。
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糸井 |
とうとうお会いできちゃった。
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上田 |
ふふふ(笑)。
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糸井 |
あの‥‥上田先生のお名前って、
ドラッカーとセットで出てくるじゃないですか、必ず。
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上田 |
まあ、日本で出てるドラッカーの本は、
だいたい訳してますからねぇ。
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糸井 |
ドラッカーと「伴走してる」と言いますか‥‥。
いったいどんな人なんだろうかと。
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上田 |
いやあ。
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糸井 |
それに、先生がお書きになった
ダイヤモンド社の『ドラッカー入門』って本が、
本当に役に立つんですよ。
ドラッカーについては、
これ読んどけば、まずオッケーというくらいに。
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上田 |
‥‥悪い本じゃないと思うんだけどなぁ。
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糸井 |
はい、いい本だと思います。
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上田 |
あんまり売れないの。
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糸井 |
え、そうなんですか?
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上田 |
わたしのせい。題(タイトル)がわりィや。
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糸井 |
そうですかね?
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上田 |
入門って言いながら
べつに簡単だってわけでもないのかな‥‥
難しいって言われるの。
逆に、本格的なものを読もうとする人は、
「入門」は、手に取らないみたい。
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糸井 |
でも、だとするともったいないですね。
これを読んだら、他のドラッカーの本のことが
大づかみで、わかっちゃう内容ですから。
‥‥そっかぁ、これ、難しいって言われますか。
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上田 |
うん、難しいって言う人がいるんだな。
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糸井 |
書いてある日本語は、難しくないですよね。
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上田 |
そう思うんだけど。
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糸井 |
とにかく、ドラッカーがおもしろいって聞いたり、
実際に読んで興味を持っても、
なにしろ「著作がものすごく多い」ってところで
あきらめちゃう人が多いと思うんです。
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上田 |
うん。
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糸井 |
でも、そこで「引いちゃう」のはもったいない。
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上田 |
もったいない。
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糸井 |
ぼくには、この上田先生の『ドラッカー入門』が
「扉を開けてくれてる」って読めたんです。
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上田 |
そう言ってもらえると、うれしいなぁ。
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糸井 |
で‥‥まず、ドラッカーとの関係と言いますか、
そこから説明させていただきますと、
ぼく、ずーっとフリーで仕事してきたんですね。
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上田 |
ええ、はい、はい。
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糸井 |
いまみたいに、組織やチームで動くなんて
思いもよらなかった。
言ってみれば、「職人」だったわけです。
で、職人というのは、包丁の腕さえあれば、
どこでもやってけるんだ‥‥って
それが、誇りだったんだと思うんですよね。
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上田 |
ええ。
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糸井 |
そんなふうにしてやってきたもんですから、
正直に言いますと
「経営」って言葉には、嫌悪感すらあった。
そうですね‥‥44、5歳くらいまでは。
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上田 |
ははぁ。
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糸井 |
「経営」とか「マネジメント」ってのは、
なんか「うまいことやる」みたいに聞こえたんです。
当時、包丁一本の職人にとってはね。
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上田 |
うん、うん、うん。
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糸井 |
だから、なんとなく、
自分には縁のないものだと思ってたんです。
さらに言えば、そのまわりに出てくる
「経済」とか「利益」とか「企業」とか、
そういうワンセットが
考えちゃいけないものだと思ってました。
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上田 |
考えちゃいけない?
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糸井 |
ええ、それらを考えるってことは、
どうしても「効率」って話になってきますから、
職人にとっては「易きに流れる」というか、
楽してトクする方向に行っちゃうんじゃないかって、
そういう気持ちがあったんですよ。
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上田 |
なるほど、なるほど。
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糸井 |
でもね、そうしているあいだにも、
「ドラッカー」って名前は、知らなくはなかった。
ベストセラーに、顔を出してましたから。
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上田 |
ええ。
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糸井 |
とくに、有名になった『断絶の時代』って本は、
言葉として流行語にもなったでしょう?
だから、読んだつもりになってたんですが、
いま思うと、
本当は、何もわかってなかったと思います。
全然リアリティを持って読めてなかったんです。
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上田 |
つまり「イトイさんのドラッカー」としてね。
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糸井 |
そうそう、そうなんです。
その『断絶の時代』のほかにも
これも流行した『ネクスト・ソサエティ』だとか、
ドラッカー以外でも
アルビン・トフラーの『第三の波』とか‥‥
いちおう、読んでみたんですよ。
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上田 |
ほう。
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糸井 |
でもまぁ、リアリティなしに読むのって、
やっぱりダメなもんで、
知ったかぶりで、うなずくのにはいいんですけど、
何の意味もなかったと思う。
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上田 |
そうですか。
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糸井 |
で、ある年の正月に、バリ島へ行ったんですね。
そのときに「読み直してみよう」と思い立って、
『プロフェッショナルの条件』だったかな。
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上田 |
ええ。
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糸井 |
それと『マネジメント』を持ってったんです。
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上田 |
はい、はい。
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糸井 |
その他にも推理小説を山ほど持ってったんですが、
これがもう、どうしたことでしょう。
どの推理小説よりも、おもしろかったんですよ!
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上田 |
ははぁ。
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糸井 |
びっくりしまして。プールサイドで。
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上田 |
あはははは(笑)。
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糸井 |
それまで、ぼくのやってきた「職人仕事」も、
この人の言ってることにつながるなと思った。
ドラッカーって人の書いてることは、
他の、いわゆる「こうすると儲かるよ」って話と
全然ちがったし‥‥。
何より「おもしろいな」と思えたんですよね。
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上田 |
そうなんですよね。おもしろいの。
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糸井 |
だってまず、ドラッカーの人生そのものが、
ひとつの大きな「歴史」じゃないですか。
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上田 |
しかも、その歴史は終わってないわけで。
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糸井 |
ああ‥‥いまも続いてる。
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上田 |
うん、いまも、これからもですね。
ぼくは、5年、10年‥‥50年経っても
「ドラッカー」だと思うんだな。
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糸井 |
そう思われますか。
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上田 |
うん。誰もいなくなった‥‥としても、
ドラッカーは、いるんだ。
<つづきます> |