怪・その10
「食べたかった?」
ずいぶん前に
ラーメン店を営んでいるお客様から聞いた話です。
よくご夫婦で来られる常連さんがいたそうです。
ある時からご主人だけで来ることが何度かあり。
ラーメンと餃子、ビールを飲んでお会計をして帰る。
いたって普通な感じだったそうです。
ある時、奥様の方が一人で来店。
「今日はご一緒じゃないんですか?
何度かご主人お一人で来られてましたが」
というようなことを聞いたら、奥様が顔色を変えて、
「そんなはずはありません。
主人は入院していて
ここ半年くらい意識が戻らないんです」と。
店主の方曰く、
「あれは生きている人にしか見えなかった。
だってお金ももらったんだよ」
それからしばらくして、
そのご主人が亡くなったので、
店主の方がご自宅にお参りにうかがったところ、
祭壇のある部屋に
ご主人の洋服が掛けてあったそうです。
「あ! ってびっくりしたよ。
いつもその洋服を着て、来てたんだから」。
あんなに驚いたことはない、とおっしゃていました。
幽霊というより、生霊なのかもしれませんが、
よほど食べたかったんでしょうね。
(ちょび)