怪・その41
「その顔は」
もう50年近く前のことです。
私が中学生だった時、
長く患っていた祖母が亡くなりました。
病院とはいえ、
今のように完全看護ではなく、
母や親戚のおばさんが付き添っての看病は
負担が大きく、
正直、ほっとしたものでした。
数か月後、家族4人で久しぶりに
泊まりがけの旅行に出掛けました。
夜になり、車を走らせていると、
道路の真ん中に工事中の柵があり、
照明がチカチカしています。
その一番端に
作業着の人がうつむいて座っていて、
私たちの車が通り過ぎようとした時に、
ゆっくり顔を上げました。
その顔は、祖母でした。
わたしは声も出ず、
誰にも言えないまま通り過ぎました。
もし工事中であれば、
下を向いて座っていることなどないはず、
というのは後から思ったことで、
じゃあなんだったのか、
確かめようもありません。
(m)