怪・その47
「崖側に押される」
幼少期から、急に頭痛、吐き気、眩暈に襲われ、
長くても数十秒で治まる、
ということが頻繁にありました。
これは30年ほど前に、富士山に行ったときの話です。
友人の運転する車で5合目まで行き、
車を降りて少し歩こうということになりました。
車を降りたとたん、激しい頭痛、吐き気、
眩暈に襲われ、高山病かと思いました。
正直、すぐに下山したいと思いましたが、
せっかく運転してくれた友人に悪いと思い、
平静を装うことに。
向かって右側に富士山、富士山に沿って歩道、
左側は崖で柵などは無く、
その下には青木ヶ原の樹海が広がっていました。
友人は富士山側を歩き、
私は崖側を歩くことになりました。
歩き始めて間もなく、
富士山側から強風が吹いてきました。
標高が高いと風も強いのか?
などと思っているうちに、
少しづつ崖側に体が押されます。
押されるというより、
崖側に引っ張られるという感覚のほうが
近いかもしれません。
怖くなり、隣を歩く友人のほうを見ると、
友人は強風など感じていない様子で
普通に歩いており、
私の状況には気づいておりません。
「落ちそう、手を引っ張って」
と言うと、
友人は状況が飲み込めないながらも私の手を取り、
自分のほうへ引っ張ってくれました。
「もう帰ろう」と言い、早々に下山し、
気づけば頭痛などは治まり、
途中でほうとうを食べたりして帰宅の途に就きました。
後から思い返すと、
あれは樹海に引きずり込もうとする
何らかの力だったのでしょうか。
(麦空)