BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


永久グルメの「酸いも甘いも食べ分けて」
(全5回)

第1回 舌戦スタート!

第2回
箸と私の愛情カンケイ

山口 触るということで言うと、われわれと違って、
世界には手で直接食っている人たちがいますね。
東南アジアやインドとか。
里見 指でつかむとき、
うまいかまずいかわかるんでしょう。
山口 と言うか、愛撫なんでしょうね。
食物の温かさ、肌ざわりをまず楽しむ。
前戯が入ってるわけです。
糸井 その前に、目でも楽しんでる。
山口 その点、触らないで箸でいきなり口に放り込むのって、
野蛮ですよね(笑)。
箸と言えば、一時期、エコな人たちが
割り箸廃止運動というのをやってましたよ。
私は絶対そんなこと無理だと思った。
恐るべき文化的無知だと思いましたね。
この国では、昔から、箸とその使い手とは
完全に一夫一婦制なんです。
糸井 日本では個人に所属する食器を持ってますね。
かなり特殊な文化だけど。
山口 そうです。
お父さんの箸は黒くて太いやつ、
僕のはドラえもん。
そういう一夫一婦制を維持するために、
割り箸というものが必要になる。
糸井 ははぁ……。外では別の相手と。
山口 でも、家には妻(夫)がいますから。
割り箸はすぐにそこで折って、
それっきりにしなくちゃいけない。
糸井 怖い顔して折ってます、みんな。
山口 もったいないとか、エコロジーとか、
そんな近代主義的な話じゃなくて、
あれには文化的必然があるんです。
糸井 そういう意味があるのか。
山口 私が考え出したんですけど。(笑)
里見 そうなのか。
アイスキャンデーの芯にさせないために
折ってるんじゃなかったのか。
山口 折るという行為は、深いですよ。
糸井 使い終わったことをハッキリさせるでしょ。
そのベースには、日本人だけが持つ
唾液への禁忌もあるんじゃないかと思うんです。
ところが今、若い人と一緒に食事をすると、
「それ、おいしそう」って、 他人の皿から直接食べる。
僕はわりに古い人間なんで、
そういうときは箸を逆さに持って、
いったん自分の皿にとる。
そうして唾液を交換しないようにするんです。
昔はそうだったでしょう。
でも今は、「汁だけ飲ませて」とか
平気でガンガンやってる。
恋人でもないのに。
山口 ストローなんかもやってますね。
糸井 おっ、部族化してるな、
何か大きなタブーが変化したなと思ったんです。
山口 唾液、もっと言えば
口唇への禁忌が薄れてきたんでしょう。
例の「路チュー」ですか? 
若い子が路上でキスをする。
われわれが子どもの頃は、
アイスクリームや何かを歩きながら食うのも、
やっちゃいけないことだった。
糸井 いけなかったですよぉ。
山口 まずそれが崩れて、次が路チューです。
人前でベロを使うのが「あり」になってしまった。
女の子に「それ一口いいですか?」
なんて言われると、この子、もしかして……。
糸井 俺のこと愛しているんじゃないか。
それで唾液の交換を……。
山口 求めてる。
糸井 ところが、違うんですね。
山口 たいした意味はないんです。
里見 考えすぎちゃいけないんだ。
山口 それと、最近の子は何か知らない食べ物が出ると、
皿を持ち上げるみたいにしてすぐ匂いを嗅ぐでしょ。
私、ファミリーレストラン研究家なもので、
そういう光景、しょっちゅう見てます。
里見 嗅覚の鈍いA級グルメの評論家が、
こんなこと(手であおぐ)やって香りを嗅ぐけど、
それとは違うわけですね。
山口 ええ。イヌみたいにクンクン。
「これは何だ?」というような。
最近の子はクサいかどうかが
差別感の中心なんですね。
それでまず匂いを嗅ぐ。
だから高級レストランなんて連れていけないです。
糸井 そのとき値段は消えているわけですね、
部族のあいだでは。
山口 フォアグラでもレバニラでも、
クサいものはクサい。(笑)
里見 五感が退化したのか進化したのか。
糸井 味覚が独自にもっている奥深さみたいなものが、
嗅覚と等価になってる。
山口 今度、若い子を観察してみてください。
みんな匂い嗅ぎますから。

第3回 そばを迎え撃て

第4回 夜の孤独が酢を求める

第5回 勝負する家庭料理

2000-05-06-SAT

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