BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。


お祭り進化論
(全5回)


日本人が知らない、
外国で大人気の愛知の奇祭とは?
給食も、台風も、
はたまた“ちまき”作りも祭りだ!?

ゲスト
みうらじゅん(漫画家)
森田三郎(甲南大学教授)

構成:福永妙子
写真:和田直樹
(婦人公論2001年2月22日号から転載)


みうらじゅん:
漫画家・
イラストレーター・
エッセイスト・
ミュージシャン。
1958年
京都府生まれ。
武蔵野美術
大学在学中に
『ガロ』で
デビューを飾り、
以後ジャンルに
とらわれない
多彩な
活躍を続ける。
森田三郎:
甲南大学文学部
社会学科教授。
1945年京都府生まれ。
京都大学大学院
博士課程修了後、
長崎大学教養部
助教授を経て現職。
専門は文化人類学・
地域文化論・
映像人類学。
著書に、
人類学の視点から
祭りと人、
祭りと都市の
関係を論じた
『祭りの
 文化人類学』
などがある
糸井重里:
コピーライター。
1948年、

群馬県生まれ。
「おいしい生活」など
時代を牽引したコピーは
衆人の知るところ。
テレビや雑誌、
小説やゲームソフトなど、
その表現の場は

多岐にわたる。
当座談会の司会を担当。

第1回
今どきの祭りは……
糸井 みうらさん、
今年はもう祭りを見に行きました?
みうら あ、明日、
『髭なで祭り』というのに行くんですよ。
今年一発目。
千葉県の佐原なんですけどね。
午後1時半から。
とにかく髭をなでるぐらいしか
情報はありません。
糸井 『髭なで祭り』
……先生、ご存じでした?
森田 いや、知りません。
髭のなで方で勝負でもするんでしょうか。
みうら 僕も本で初めて知ったんですけど、
どうも酒を飲ませ合っては
自分の髭を
(チャールズ・)ブロンソンのように触って、
みんなで“マンダム状態”になる祭りみたいです。
「最近は付け髭になってきた」
とも書いてありましたね。
糸井 面白いのかなぁ……。
みうら まあ本には「滑稽」と書いてあるんで。
「滑稽」は僕、
とりあえず見に行くことにしてますから。
糸井 ヘンな祭りばかり、
次々と見に行ってますよね。
みうら はい。
トンマな祭り――“とんまつり”と
呼んでるんですけど、
「おいおい!」とか「どーかしてるよコレ!」と
ツッコミたくなるような祭り、
そういうのをこの目で見たいんですよ。
糸井 とんまつり鑑賞。
みうら とにかく、すごいんですから。
奈良・明日香村で見た『おんだ祭り』なんて、
天狗とお多福のお面をつけた二人が、
神社で夫婦和合の
リアルな行為を披露するんですよ。
それもノリノリ。
ハッキリ言ってシャレになんないです。
最後には、天狗が
自分とお多福の股間を紙で拭いて、
その紙を観客に投げつける。
それを観客は喜んで奪い合ってた。
「拭くの紙」で「福の神」というオヤジギャグね。
どーかしてるでしょ?
糸井 いや、たまらんですねぇ。
みうら 一応、五穀豊饒を祈る、
種付けの儀式っていうことらしいです。
糸井 米が増える、子どもが増える……、
生殖がらみの祭りって、多いのかなあ。
みうら バチが当たった人が直してもらう、
みたいなのもありました。
『蛙飛行事』といって、
神仏を冒涜した人間がカエルに変えられて、
お坊さんの説教で人間に戻してもらうという……。
でも、主役のカエルは着ぐるみ丸だし。
ピョンピョン飛ぶのかなぁーと思ってたら、
ズリズリ這ってるだけでした。
糸井 中身、人だもんね。
みうら 人間に戻るときも、
張りぼてのカエルの頭を取って、
おっちゃんの顔だけあらわれて、
おいおい、まだ体は人間に直ってないぞ!
みたいな状態で。
糸井 ツッコミたくなるね。
先生、お祭りって、
もともとどういう意味があるんですか。
森田 農村の祭りは、一つは「予祝」ですね。
あらかじめ、
いろんなことがうまくいくようにと。
お米がたくさんとれますように、
虫や洪水などの被害が出ないように、
などと祈念する。
もう一つは、
みうらさんのお話にもあったように、
何か悪いことが起こったときに
「直す」という意味ですね。
先祖を粗末にしてたから、
祀ることをしなかったから、
悪いことが起きたんだと。
それで、そういうのをちゃんとしよう、
というのが恒例になった。
糸井 分類しきれない、
「これ、どーすんのよ」
みたいなのってありました?
みうら 頭に鍋ををかぶるのがあるんですよ。
滋賀県の『鍋冠祭り』。
平安時代からやってるらしくて、
「女の人が交わった男の数だけ鍋をかぶる」って
本に書いてある。
「枚数を誇る」と。
誇っちゃいないだろう(笑)。
なんでも、それで一人前になったのを
判断したそうなんです。
でも、今は小学校低学年の女の子が
鍋を一つだけかぶって、
ねり歩くことになってる。
森田 でも、「鍋かぶってどうする!」っちゅうのが
ありますよね。
みうら 鍋に、なんかあるんですかね。
糸井 鍋だけに、
「たくさん食べられてよかったね」って、
食につながってるような気もするし……。
みうら 昔は何枚もかぶったということは、
今、渋谷のセンター街あたりでそれやったら、
すごい数の鍋かぶって
首グラグラいわしてる女の人たちが
並んだりするわけです。
それを、お稚児さんで
鍋1枚にすり替えてる。
どこかで、ちょっと
「おいおい!」が出たんでしょうね。
森田 たぶん最初はいろんなアイデアから、
まぁ鍋もかぶってみた。
二つかぶったやつがおったら、
そいつがウケたとか。
糸井 「いいな」と。
森田 そう、「いいな」って感じで。
そのうち、
「でもそれじゃあんまり……」というので、
今のかたちになったんでしょう。
祭りって、ずいぶん変わってきてるんですよ。
よく、
「昔はこうじゃなかった。今どきの祭りは」
と言いますね。
だけど昔だって、
そのときどきで「今どきの祭りは」って
必ず言われてたと思うんです。
変わり続けていて、江戸時代で
いったん固定するものが多いんですけど、
当初のかたちからするとどんどん変わってます。
行進のコースから、やってる内容から。
糸井 それって未来的な感じもしますね。
変化していくこと自体に価値がある。
森田 そうですね。
僕が初めて本格的に研究したのが
『長崎くんち』で、
これは江戸時代に
諏訪神社を再建して始まった祭りです。
今は“自分たちの祭り”というかたちに
なっていますが、
もともとはキリシタンから
町を奪還する意図をもって、
幕府が企画したものだったんです。
調べてみると、
最初に祭りをやるべしとなったとき、
どうやるかというので、
大分で行われていた祭りの形式をモデルにしたり、
当時、流行ってたものを
もってきたりしてましてね。
試行錯誤しながら、
30、40年ほどでかたちができてくるんですけど、
その後もけっこう変化してるし、
現在も出しものが、どんどん変わってます。
糸井 そんなに変わってますか。
森田 ええ。
本踊りより、船を引っぱたり回したほうが
華やかだというので、
それに変わるとか、あそこで評判いいから、
それを取り入れてみようとか。
糸井 文化祭みたいだ。
森田 同じようなもんですね。
伝統的な祭りといえども、
歴史を調べると変化もあるし、淘汰もある。
そしてやっぱり、ウケる系統のものが
残っていくんです。
(つづく)

第2回 おそるべし“とんまつり”

第3回 人みなハジケる

第4回 女の出番

第5回 消えるもの、残るもの

2003-03-21-FRI

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