第4回
女の出番 |
糸井 |
祭りは日常を壊すものという話がありましたけど、
僕、台風報道を見ると気持ちが高ぶるんです。
風がおさまる寸前に車で外に出て行って、
街路樹の枝が道にいっぱい落ちているのを
踏みしめながら、スローで走るときの喜び。
あれ、アーバンな祭りみたいな気がするなぁ。 |
森田 |
日常が壊れて、カオスになるわけですからね。 |
糸井 |
なんか、普段、ストレスが高いほど、
祭りって嬉しい。 |
みうら |
自分の中での祭りはいいけど、
祭り自体は基本的に体育会系ですからね。
あのパワーは、
文科系として生きてきた僕からすると、
ちょっと怖いですよ。
その上、酒飲んでますから、ずーっと。
相撲大会なんかに
ぜったいに駆り出されたくないって感じ。 |
糸井 |
僕も、自ら御輿を担いでみたいとか、
そんな気持ちはないですね。
祭りには、一応、
基本のかたちがあるじゃないですか。
様式があって異界に行くときには、
その様式のところで
守らなきゃいけない事柄がまたある。
それが好きじゃないんですね。 |
森田 |
僕も、祭りの研究なんかしてると、
お祭り好きだとよく誤解されてます。
いえ、嫌いじゃないですよ。
でも自分が中に入ってしまったら、
祭りについて書けなくなります。
みうらさんもそうだと思うけど、
ツッコむためには、少し離れていないとね。 |
糸井 |
祭り気質が濃いような地域って、あるんですか?
なんか関西あたり、濃そうな気がしますけど。 |
森田 |
かもしれませんね。
ただ祭りそのものに関しては、
地域色があるかと思えば、
全国に祇園祭の系統が見られたり、
水かけや泥かけのように
広く分布している奇祭もある。
祭りを始めるときに、
そのときどきの流行を取り入れるでしょう。
とくに後世になるほど
情報が行き渡るようになりますから、
同じようなものが各地に伝播するんですね。 |
みうら |
とんまつり、それもエロ系に関しては、
愛知が多いですよ。
やっぱり、愛を知る……。(笑) |
糸井 |
祭りというと
男がハジケちゃう話ばかりになりますが、
女の人はどうなんでしょう。
ハレとケで言えば、
ケを守る役割ばかりを押しつけられてますが。 |
森田 |
祇園祭だと、ちまきをつくるとか、
伝統的に裏方は女の人がしてますね。 |
糸井 |
ちまきつくるんじゃ、ハジケられないですねぇ。 |
森田 |
ハジケてたら、ちまきはできません。(笑) |
糸井 |
どうしましょ。 |
森田 |
昔は自分が支えることで
ダンナがハジケてくれたらいいわ、というので
話はすみましたけど、今はそうはいきません。
それで、自分も表に出ていく。
参加自由型の「よさこいソーラン」系では、
7、8割が女の人です。
圧倒的に女性のほうが多い。 |
糸井 |
あれは、踊るんですか? |
森田 |
踊ります。 |
みうら |
コギャルがやってるパラパラですよね。 |
森田 |
パラパラより、もっと激しいでしょう。
全身運動だし。 |
みうら |
ダイエットも入ってるんじゃないですか。
足腰をひねる金魚運動もある(笑)。
そう言えば沼田の『天狗祭り』では、
ものすごいデッカイ鼻をした天狗のお面を
女の人が担ぐんですよ。 |
糸井 |
群馬は女が男だからね。 |
みうら |
それで女の人がメインになる。 |
森田 |
伝統的な『だんじり祭り』でも、
神戸あたりでは、
ちょっとずつ女の人が入ってきてます。
長老の人たちに聞くと、
「しょうがないなあ、時代だから」と。
実際、今は茶髪とか紫髪の若い人たちが
やってたりしますからね。 |
糸井 |
奉納相撲があったり、
相撲も神事の祭りからきてると思いますけど、
土俵に女の人を上げないというのも、
昔からのしきたりの問題ですよね。 |
森田 |
そうなんです。
伝統と時代性、
そこの兼ね合いが難しいところですね。 |
みうら |
相撲と言えば、愛媛県の大三島で
“一人相撲”を見ましたよ。
『抜き穂祭』という秋祭りでやってるんです。
言葉ではよく
「それは一人相撲だな」って聞きますけど。 |
糸井 |
そこでは文字通り……? |
みうら |
一人で相撲をとる。
「一力山」と呼ばれる人が闘うのは、
見えない「聖霊山」という神様なんです。
インビジブルな相手と
がっぷり四つに組んだり、投げられたり。
見てて、プーッと吹き出すじゃないですか。
だけど俺一人笑ってて、
まわりはクスリとも言わない。
もう麻痺してんのか、拍手するだけでね。
それで、神様が2本勝って、人間が1本勝つ。 |
糸井 |
神様と2勝1敗って、よくできてるね。
お父さんと子どもの相撲で、
「お父さん、負けちゃったよ」というような。 |
みうら |
わざと1本は負けてね。 |
森田 |
日本の神様は、
人間とかなり近いところがありましてね。
大阪の今宮神社だと、お参りに来た人が、
「えべっさん、お賽銭あげたんやから、
ちゃんと聞いとくれなはれや」
と言って、みんなドンドン蹴飛ばしていくし、
全国のえべっさんの本社と言われている
西宮戎では、
えべっさんがお饅頭の形になってる。
神様が蹴飛ばされたり、
食べられたりしてるのって、
あんまり他の国ではないですね。 |
みうら |
日本の神様は心が広いです。
お祭りは無礼講だし。 |
(つづく)