第2回
おそるべし“とんまつり” |
糸井 |
お二人が祭りに興味をもったきっかけは
何だったんですか。 |
みうら |
僕、祭りなんてぜんぜん興味なかったんですけど、
3年くらい前、ヘンな絵ハガキを見つけてね。
オモロ面つけた派手な和服男が、
股間に大巨根の張り形をつけて
ポーズを決めてるやつ。 |
糸井 |
ニョッキリ系ね。(笑) |
みうら |
そうそう、ニョッキリ系。
調べたら、佐渡島の
『つぶろさし』という祭りのものでした。
そのニョッキリも、ぶら下げてるんじゃなくて、
挟んでるんです。
素股状態と言うのか。
それを上下に動かすらしく、
なんか、かなりの技があるみたいなんですね。
そんな絵ハガキ
誰に送るんだっていうのもありますけど、
どんな祭りかライブで見たいもんだ、というのが
スタートでした。 |
糸井 |
で、祭りに参加はしないのね。 |
みうら |
しないです。
僕、傍観のほうですから。
「おいおい」ってツッコミに行ってるだけ。
気持ちは“在日観光外人”なんですよ。
いろいろ説明されても、
“観光外人”にはわからないですからね。
やってることを、
見たまんま受け取るという気持ちで
見に行ってるわけです。 |
糸井 |
「これは、ぜひ見たい」と
心にひっかかる決め手みたいなものはあるの? |
みうら |
奇祭って、本にもあまり載ってなくて、
紹介してあっても20字くらい。
その中にピーンと
トンマな匂いをキャッチできるかどうかが勝負。
で、行ってみるとダメだったりするんですよ。
僕の場合、ダメっていうのは
「笑えない」ってことなんですけど。 |
糸井 |
失敗例で言うと……。 |
みうら |
『おばさま祭り』というのが
宮城県にあったんです。 |
糸井 |
楽しそうだ! |
みうら |
「おばちゃん」じゃなくて「おばさま」でしょ。
上品そうなおばさまが
御輿を担ぐのかなあと思って、
ワクワクしながら行きましたね。
そしたら……いないんです、おばさまが。
実はそこの地名が「小迫」と書いて
「オバサマ」と読む。
はるばる宮城まで行ってガックリ。(笑) |
糸井 |
先生の祭り研究のきっかけは? |
森田 |
みうらさんもそうだけど、
僕も出身が京都なんですね。
京都は『祇園祭』とか、
いろいろなお祭りをやりますけど、
「なんで、あんなことがオモロイのやろか」
ということからなんです。 |
糸井 |
金もかけるし、時間もかけるし。 |
森田 |
ムチャクチャ労働力もかけますし。
準備の段階から見てると大変な作業で、
ええオッサンが、仕事休んでまでやってる。
それで山鉾の準備をしていた顔見知りの人に
「大変ですね」って声かけたら、
「そら、神さんのことやから」
という言葉が返ってきたんです。
たしかに祇園祭は
スサノオノミコト(牛頭天王)が
御神体になっていて、
悪疫退散を頼むというかたちにはなっています。
ただ、それをしなけりゃバチが当たって
エライことになると
町の人が信じてるようには思えない。
実際、「神事これなくとも山鉾渡したし」
と書かれた中世の頃の記録も残ってますしね。
つまり神事とは関係なく、
自分たちのものとして、祭りをやりたいんだと。
にもかかわらず、その末裔の人は
「神さんのことやから」と言ってる……。
これ、どういうことやろ。
そこをもうちょっと追求してみようと思いまして。 |
糸井 |
実際には、神様のこととか
意識しないでやってる人が多いですからね。 |
森田 |
ええ。
たしかに祭りには一応、
神様という名目はあるんです。
だけど、それだけじゃない。
背景にほかに何かあるはずで、
簡単に言ってしまえば、
それは「社会」だと思うんです。
あるいはネットワークと言いますか。
祭りによって
属する集団の一員である自分を確認したり、
人から認めてもらったり、一体感を高めたり。
あのとき聞いた「神さん」というのは、
その社会性のことじゃないでしょうか。
これが神主さんに取材すると、
「由来はこうで」という話になりますが、
それはあくまで祭りをやることの
理由づけ、権威づけみたいなことでね。 |
みうら |
村人も由来がまるでわからずやってるのも
ありますもんね。
長崎の五島列島に
『ヘトマト』って祭りがあるんです。
カタカナでヘトマト。
村の人に聞いても意味がわからないって。
その祭り、褌男たちによる相撲大会、
スス付け合戦、綱引き大会なんかが、
脈絡もなく延々と続くんです。
そのうち褌男たちに担がれた
巨大な草鞋が登場して、
それに見物の女の人を放り投げては、
ゴロンゴロンさせている。
訳わからずにいろんなことやって、
やってる人はヘトヘト、
見てる側もヘトヘトマトになる
ってことなのかなあと、
勝手に納得して帰ってきたんですけどね。 |
糸井 |
「今日はヘトマトになっちゃった」。 |
みうら |
そう、そんな感じです。
で、最後までポカーン。
「WHY? なぜに?」ってカンジです。
祭りって、年に1度の
パンク行為かなぁーって思った。 |
糸井 |
日本人が小津安二郎の映画に出てくるような
人ばかりだと思ったら大間違いで、
パンクなこともやるのが
人間本来の普通の姿かもしれないですね。
はじける理由なんか、
あとででっち上げればいいし。
「これで来年も豊作じゃ」とか。 |
森田 |
あとで理由をくっつけたものは
けっこう多いですよ。 |
みうら |
それでも理由がつかない祭りって、
人柱的なものがかなりあるみたいですね。
東京・大田区の『水止舞い』って、
降り続く雨を止めることから
始まったみたいですけど、
縄で体中ぐるぐる巻きにされた男が
法螺貝吹いてるんですよ、路上に転がされて。
これ、人柱だと思うんですけどね、昔は。 |
糸井 |
だったら、縄で括られてる理由もわかる。
だけど今は、
人柱はいけないという社会になってるから……。 |
みうら |
そこをツッコまれると、
イタかったりするんでしょうね。
「あんまり聞くな」と。
まあ、やってる最中は、
みんなトランス状態に入ってて、
何のためにやってるか、
わかんなくなってますから。 |
(つづく)