BOOK
男子も女子も団子も花も。
「婦人公論・井戸端会議」を
読みませう。

家を建てるあなた、建てない私
(シリーズ5回)

第1回 家ブームはどこから?

第2回
建築家は予言者

服部 素朴な疑問ですけど、建築家って、
一部の有名な方々は別として、市井の方だと、
「私はこういう仕事をしています」
というのが見えにくいですよね。
建築家は自分の仕事をPRしちゃいけないとか、
そういう規制はあるんですか。
ぜんぜんないですよ。ただ、広告する建築家って、
いかがわしく見えるから、しないんじゃないかな。
それに建築家は、頼まれてやらないと
カッコつかない商売なんです。
自分から「設計させて」って言うのはどうも……という。
糸井 「作家性」ということですか。
ええ、家は何十年も暮らすわけで、
「あなたにはこういう家がふさわしい」と言うのは、
「あなたは何十年でこういうふうになる」
と言う予言者みたいなものだから、依頼者に対して
特権的な立場に立たないと成立しないんです。
服部 神というか、お告げというか。
そうそう。でも、実際には相手からお金をもらう
業者なわけね。業者でありながら、ある特権的な立場で
予言するような物言いをしないと成立しないという
二面性を持ってるわけです。
その場合、自分から広告なんかしたら、
その二面性がなくなってしまう。
服部 面白いですね。
いわゆる住宅メーカーには二面性はなく、
業者に徹しています。
今、建築家の予言者的なポジションはどんどん危機に
さらされていましてね。
服部 予言を聞かない人々が出てきた。
今まで建築家がしてきた予言というものが、
インチキっぽく思えてきたということじゃないかな。
そして、予言がインチキだっていうことを、
実は建築家自身がいちばんわかっているんです。
その証拠に、自分の家を自分で建てている人って
あまりいないんですよ。(笑)
糸井 自分の家は難しいですか。
難しい。だから服部さんのように、
昔の家を持ってくる人が多いんですね。
日系アメリカ人で世界的な建築家になったミノル・ヤマサキ
という人は、古いアメリカの民家をひいてきて
自分の家にしていましたし、
日本でも新高輪プリンスホテルを設計した
村野藤吾という大建築家は、日本の古い民家を持ってきて、
自分でぐちゃぐちゃに手を加えていました。
ゼロから家を建てるという行為は、自分でやってると、
ものすごくウソっぽいんですよ。
自分の人生の可能性の中から一個選びとって、
あとは排除して建てるなんて、できない。
だけども、世間に対しては営業的に予言者の顔を
しなきゃいけないんです。
服部 カリスマたるためのものを、実際のモノとして
見せてしまうのは、恥ずかしいって感じなんでしょうか。
そう、すごく恥ずかしい。
糸井 バレちゃう。僕、物見遊山でサイババに
会いに行ったことがあるんですが、
どういう家に住んでいるかというと、
「ケーキの家」なんです、見た感じのイメージが。
お菓子のコトブキみたいな家というか。
で、ウサギやヤギといった白い小動物がいっぱいいる。
やたらメルヘンチック。
そこにE.T.みたいな顔をした背の低い男が、
オレンジ色の服を着て逆光の中から出てくるんですけど、
家を見たときに、ウソだな、予言なんかできないな
と思った(笑)。
“自分にふさわしい家とは何か”を
本人が知ってて住んでるとすれば、
あの程度までしかいかないんだというのが、
普通の人にはわかっちゃう。
ところが本当に困りぬいて集まってきた人には、
ケーキのような家が、「これこそ夢の世界だ」と思える
二重構造になってて、家って恐ろしいと思いました。
だから建築家が自宅を設計していたら、
家に来られるとアウトなんです。サイババです(笑)。
逆に、思い切って俗物的にするのが今の時代の予言者の
スタイルかなって気もします。
それを実践したのが麻原彰晃。
それまでの新興宗教は、本殿みたいなものを
超越的な建築物にしようとしたわけですね。
湯水のごとくお金をかけて切り妻七段何とか造りとか。
糸井 お雛さまの段飾り。
そういう超越性を表現しようとすればするほど、
今はインチキだと思われる可能性が強い。
それに対して麻原は、あのサティアンみたいに、
倉庫にしか使わないような安い建築材料を組み立てて、
アンチ特権的な建築をやったんですね。
日常的なスタイルも、ファミリーレストランで
エビフライ食べたり、徹底的に俗物的なところを
見せていたわけでしょう。広告もそうじゃないですか。
豊島園の広告で「史上最低の遊園地」というコピーが
ありましたが、それが実は最高の広告になっている
という逆説があるわけで、俗物的なものの中にこそ
真実を感じるみたいな方向に移行しているのに、
建築家は、昔ながらの予言の仕方しかしていない。
糸井 人類どうあるべきかとか、「べき」がないと予言は
できませんね。ところが今の人たちは、その「べき」
という啓蒙がイヤなんです。化粧品もそう。
女の人が高校卒業するとき、化粧はこうするべき
というのを化粧品会社が学校にタダで教えに
来るらしいですね。女性に学ばせておいて、
さあ、うちで商品を売ってますよ、
ということなんでしょうけど、今、化粧って
ストリートから来ちゃう。街を歩きながら、
あの人のがいいなと思って、
それが流行ったりするから、あの啓蒙パターンが
効果を持たなくなった。
そういう変化に、建築家は対応できないんです。
糸井 なるほどね。実際に設計を頼まれたとき、
相手の要望をきいていたらキリがないと思いますが、
そのあたり、どう折り合いをつけるんですか。
恋愛と似ていて、この人とはうまくやっていける
という気分さえ相手に抱いてもらえれば、
要望を全部聞かなくてもいいようなものでね。
悪いことを言うのも大事です。
「これ、見た目はカッコいいけど、
水がぜったいに漏れますよ」とか。
この人は嘘を言わないと思わせることは、
予言者には必要なことです。(笑)

(つづく)

第3回 男は遠慮がちに住む

第4回 構造を知りたい

第5回 家を持つ人、持たない人

1999-06-26-SAT

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