ほぼ日刊イトイ新聞プレゼンツ モノはコトなり、コトはモノなり。 そしてコトバは、すべてをつなぐ。 |
GOODS JOCKEYのゲストとして 樹研工業代表の松浦元男さんに 4日間にわたってお話しを伺ってきました。 世界一の歯車を作っている樹研工業は これからどこへ進むのか。 松浦さんから飛び出す話は 10年後、20年後に「あの時のこれか!」と 驚くものになるかもしれません。 最終日に放送された内容をダイジェストで お届けしますので、 ぜひ日本の底力を感じてください! 【今週放送された内容のダイジェスト】 ※2月11日 世界一小さい歯車の話は 日本にパワーを与えてくれます! ※2月12日 目指すのは金メダル! 世界一の歯車はこうやってできあがった。 ※2月13日 会議自由参加、定年なし‥‥ 世界一の中小企業はこうやって動いてます。 ●中小企業は大企業の親分になれ! 糸井(糸井重里) ちょうど目の前の松浦さんの書いた 『100万分の一の歯車!』って 本の帯を読んでるんですけど、 「見よ、これが日本の底力だ!」って 書いてあるんです(笑)。 この自信たっぷりなこの帯っていうのが、 ほんっとにそうだな、と思うんです。 底力って何だろう、ですよね。 松浦元男さんの著書「100万分の一の歯車!」 松浦(松浦元男さん) よくジャーナリズムの方が、 今にも中国に乗っ取られそうだとか、 もう韓国に追い越されるとか、いろいろ言われますけど 規模と深みは日本のフェイズは ぜんっぜん違うんです。技術も。 たとえば韓国はひじょうに元気がいいんですけども、 頑張ってもせいぜい日本の10%です。 愛知県なんか、韓国全部と あんまり変わんないんですよ。 中国もすごいすごいといいながら、GDPでいくと、 日本の3分の1強ですからまだまだなんです。 日本の大企業がずいぶん非難されてます。 勝手に出てったと。下請けも従業員も切り捨て。 でも日本の大企業の今やってることは 近隣諸国に対して ものすごく大きな貢献をしてるんです。 雇用は創出する、みなさんの生活レベルは引き上げる、 投資したお金は公共投資とおんなじような働きをして 国を豊かにしてる。 あんなに近隣諸国に貢献した 日本民族の行動っていうのは、 この数千年の間になかったことだと思うんです。 これは私はプライドを持つべきだと思う。 糸井 ダムを造ったり、水道を作ったりするのと同じように、 工場を造って回ったっていうことですよね。 松浦 そうなんです。ええ。 おまえたち下請けの中小企業が 切り捨てられてどうなんだ?。 いや、これはまた別の問題。 今まで戦後5、60年間、 大企業におんぶにだっこで来たわけでしょう。 もういい加減で独り立ちしろよ、と。 こういう神の声ですよ。 糸井 下請けじゃなくて、 横請けになれっていうことなんですかね。 松浦 いや、そうじゃなくて大企業の親分になるんですよ。 向こうが頭を下げて「こういうものを作って下さい、 おたくならできるでしょう」と。 つまり、中小企業というのは大企業と違って、 配当する義務もなければ 株主にゴマを擦る必要もないんです。 だから10年20年先を考えて投資ができるんです。 大企業は四半期ごとにいろいろやらされるから、 そんなに長期の投資ができいないんですよ。 糸井 そうなっちゃったんですよね。 松浦 なっちゃったんですよね。 私たちはもう、10年20年先考えてますから、 たぶん大企業さんが、 もう来年再来年あたりは、 私どもの玄関に行列していただけると、 自信をもって、こうやってるんです。 そういう中小企業が日本にはいっぱいあるんです。 だけどお喋りするのが、僕と岡野さんだけなんです(笑)。 糸井 お喋りが苦手なんですか(笑)。 1回ネットワークしたいですねぇー! 松浦 はい。たとえば簡単な例をいいますと、 僕の同業者が豊橋にあるんです。 たった6、7人でやっていて プラモデルを作ってるんです。 ジョージ・ルーカスなんか そこしかライセンス出さないんですよ? 世界中で。 「ファインモールド」っていうんですよ。 そうかと思うと蒲郡には、 ちょと大きな会社になっちゃいましたが、 「ニデック」という会社があるんです。 ここは眼科医の使う医療機械作ってるんです。 一昨年、アメリカで8つか9つ技術裁判をやって 全戦全勝ですよ。そういうのがニュースにならない。 今は人工皮膚をやったり、 それはもう、大企業がとてもやれないようなことを とっとっとっと平気でおやりになるんです。 糸井 はぁー。そういう人同士のつながりっていうのは、 今はどうなってるんですか? 松浦 静かに下のほうではあるんです。 糸井 それ、やりたいですねぇ! そういう人が千人集まってるのを見たら、 その写真撮っただけで、国技相撲! みたいな感じしますよね。 ●次は原子単位で削って世界一へ! 松浦 中小企業メーカーというのは 何を作るかという商品テーマを追及してるメーカーと、 僕らみたいにどんな技術を持つかという キーテクノロジーを追及するメーカーと 2種類あるんですよ。 それを両方やってるのもありますけど。 我々はついこのあいだまでは、 微細加工というところに焦点を絞ったんです。 これは省エネ・省資源から始まったんです、 オイルショックの。 糸井 小さくする。 松浦 ええ。今、何考えてるかというと流行りの ナノという単位で物を削っていこうと。 どのぐらいの大きさかっていいますと 千分の1ミクロンなんですよ。 糸井 ふふっ。千分の1ミリの千分の1ですよね。 100万分の1だ! 松浦 どのぐらいかっていうと 金属原子が1つか2つなんですよ。 そういう単位でもって削っていきますと、 削った面はね、ほんっとに鏡のようにきれいです。 そこで何を作ろうかと。 ま、何も考えてないですけどね。 とりあえず削れる技術をものにしようと。 糸井 つまり、10年先を見据えてやると。 そのための原資っていうのは、中小企業だからこそ、 配当もしなくていいから貯めとけたっていう。 松浦 そうです。そうなんです。金も使っちゃうんです。 糸井 「大企業が小さくならないとできないことがあるぞ」 っていうことですよね。 楽しいな、この話は(笑)。 ●餅は餅屋。得意な分野をやってみる? 松浦 我々しかできない。 大企業に勤めたらね優秀な技術屋さんやりたい、 でも組織はやらしてくれない。 そうするとプライベートで来てくれるんです。 糸井 はぁー! 手伝いたいんだ。 松浦 大学の先生も、大学ではそんな設備買えないけども、 「おまえのとこあるんなら、 ちょっと俺、仲間に入れてくれんか?」 っていって、来てくれる。 これがまた日本の面白いとこなんですわ。 糸井 まだいいとこ残ってるってことですね。 松浦 いっくらでもあるんです。 糸井 うーん、やっぱりネットワークなんですよ、 知らなきゃ行けないですからね。 松浦 そうなんですよ。そういうものが、 今、ぼつぼつあっちこっちで煮えつつあるんです。 コブのように出てきた連中が今お互いに、 ちょっちょっと連絡取りあって 「こんなことしようと思うけど、どう? やってみる?」 なんちゅうことなんです。 糸井 今は、松浦さんはそのスポークスマンとしての役を、 相当やってらっしゃいますね。 松浦 いや、スポークスマンというか コーディネーターはコーディネーターでいるんです。 これはだいたい能力がありながら、 経営センスのないドクター。 糸井 なるほど(笑)。わかる、わかる。 松浦 この人たちが企業から大学へスピンアウトしてんですよ。 これが頼りになるコーディネーターなんです。 糸井 餅は餅屋ですね(笑)。 松浦 これがもう実に素晴らしいアイデアと コーディネーターの能力を持ってるんですよ。 糸井 その人にも会いたいですね! 面白い! 金だけ持ってる人も、 世の中にはいますからね、また。 松浦 ええ、そうそうそうそう。 また、それ、引っ張り込みゃあいんですけどね。 柳井(柳井麻希さん「GOODS JOCKEY」アシスタント) なんか面白いことに投資したいって 気持ちはきっとお持ちでしょうからね。 糸井 うん。で、儲け先じゃないぞ、 ってところで参加してくれるんだったらいいんですよ。 ●必要な投資は数億円でもすぐ決断します。 糸井 さっきのナノの技術で、鏡のキラキラっていうのは、 原子1個2個のレベルじゃないですよね、きっと。 松浦 まあ、そんなもんでしょうね。 糸井 ってことは、あらゆるものが鏡になるってことですね? 松浦 そうです。どんな金属でもそういうふうに削れば。 月の上に乗っかってる鏡って、 金属を削っただけなんです。 NASAがナノで削ったんです。 もう、ピカピカなんです。研磨したらダメなんです。 でもそういう工作機械を入れるためには振動もこない、 空気も一定の温度、気圧も一定。 そういうありとあらゆる条件を整えた 工場を造らなきゃいけない。 しかも工場に投資した金額は、相当な億の単位なんです。 それがいつ回収できるかわからないと。 そういうものはやっぱり株主に 説明しなきゃいけない企業ではやれないんですよ。 糸井 うん、うん。ほんとうの理想は、 それを理解する株主がいることなんでしょうけどねぇ。 松浦 それはもう、無理でしょうね。 だから僕らの出る幕があるんです。 糸井 松浦さんは、自分の家の屋根代わりに 金のシャチホコを載せる代わりに、 それ用の貯金をしてたんだ。 松浦 そうです。自分の1万円か2万円のクツ買うのには 4日も10日も迷って、最後にクツ屋のアンちゃんに 「もういい加減で買ったらどうだ?」なんて 言われるんですが、 ナノプロセッサーっていうんですが 「そういうものをやろう!」ってことになると だいたい数億円かかりますが、 そんなのは10分ですよ、決断は。 糸井 バイオリニストがストラディバリウスを 「必要に決まってんじゃないか!」みたいな。 松浦 そうなんです。昔、諏訪根自子(すわねじこ)さんが、 ご自分の邸宅を全部売っちゃっ お買いになったって、 あの気持ちよくわかるんですよね。 糸井 生きてるうちに何が実現するかもわからないけど、 やるんですよね。 こういう会社あるって知るだけでも、 みんな元気になると思いますねぇ。 松浦 それがね、日本中にいっぱいあるんです。 彼らはみんなお喋りじゃないんですよ。 東の岡野さんとね、西の僕がいちばんお喋りなんです。 糸井 お喋りすることで、また磨かれてくことって、 いっぱいあるんで。 やっぱりお喋りになってほしいですねー。 松浦 お喋りしないと、ネットワークができませんから。 糸井 松浦さん、最後にこの調子悪ぃーっていってる 日本のみなさんに、いち中小企業のオヤジとして、 ひとこと言うとしたら、何を言いたいですか? 松浦 やっぱり我々の今までの百年、2百年の歴史を、 もう1度しっかり見直してほしい。 それからもうひとつ、 今の若者の能力とエネルギーを、 先入観なしに見直して下さい。 素晴らしいです! ‥‥ということです。 糸井 若者よ、喜べ! 柳井 今、就職活動とか考えてらっしゃる方にとっては、 ほんっとに励みになる言葉だと思いますね。 糸井 そんな、小さくなるために小さくなるな! ということですね。 松浦 そうですね。若者も自信を持つべきですね。 ------------------------------ 来週火曜日の更新では放送終了後に飛び出した 松浦さんの話をお届けします。 どうぞお楽しみに!
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2004-02-14-SAT
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