- ほぼ日
- さて、ようやく、たどりつきました。
『ブレイキング・バッド』の話をしましょう。
これ、どんなドラマなんですか?
- ジョージ
- うーん、そうね‥‥白ブリーフを履いた、
たぶん更年期障害でイライラしているおじさんが、
とある悪さをして、キレて、
ドンパチやりましたっていう物語なんだけど!
- 杉山
- ある意味合ってますが、すごいまとめ(笑)。
- ほぼ日
- あ、「予告編」くらいの内容は大丈夫です。
たとえば高校の化学教師であるとか。
- 原園
- 見ていくとわかりますけど、
そうとう企画が練られているんですよ。
- ジョージ
- そうね、まず、
このドラマが撮れたこと自体がすごい。
最初はおどおどしてる普通のおじさんが、
どんどん悪い顔になっていくのよ。
ま、基本的には白ブリーフなんだけど。
- ほぼ日
- 基本的には白ブリーフ。
- 原園
- 主人公のウォルターは、服についた臭いから
家族に麻薬の製造がばれてしまわないように、
ブリーフ一枚になって、製造するんです(笑)。
- 杉本
- そしてその、しがないおじさんが、
全部で5シーズンのドラマですけど、
シーズンを追うごとに、一貫して
どんどん悪くなっていくんです。
ドツボにハマって、さらに悪くなって‥‥という。
- ジョージ
- しかも、そう、
自分だけじゃなくて周りもみんな引き連れて、
全員で地獄に向かっていくのよ。
- 原園
- そして、たった2年間の話のはずなんだけど、
ぜんぶ見終わると、
大河ドラマを見たような感じすらするんです。
- ジョージ
- 誕生日の朝食のシーンがあるんだけど、
ベーコンがおいしそうなんだよね。
分厚くてガリガリで、真っ直ぐ持ち上がるやつ。
ネタバレするわけにはいかないし、
それ以上言えないけど(笑)。
- 杉本
- あとバスタブのシーンとかもいいですね。
- 原園
- あぁ、いいですねぇ。
- 杉山
- うわ、いろいろ言いたいのに言えない(笑)。
‥‥だけどこのドラマ、
もう、ほんとうになんか、すばらしいんですよ。
- 原園
- わかる。すばらしい。
- ジョージ
- だけど『ブレイキング・バッド』って、
たくさんある海外ドラマの中でも
ほんとうに独自の話なんだよね。
海外ドラマのストーリーって、
わりと「○○系」みたいに分類できるのね。
たとえば、
『パーソン・オブ・インタレスト』みたいな
「男二人組がそれぞれの得意技を駆使して
事件を解決していく」
というシャーロック・ホームズ系の話があったり。
『アンダー・ザ・ドーム』みたいな、
みんなが非日常空間に放り出されて、
人間関係が発展していくという話があったり。
『ロスト』みたいな
最初なにが起こっているかわからないのが
だんだんと謎が明らかになるタイプの話が
あったりとかするのね。
- 原園
- ええ、あるていど型はありますね。
- ジョージ
- そうなの。
そして、そういう基本のストーリーが、
宇宙にいくとああで、大昔にいくとこうで、
未来の話だとこうで、ファンタジーだとこうなって
‥‥みたいなのがあるんだけど、
『ブレイキング・バッド』みたいな話って、
なかなかないんだよ。
- 原園
- ほかのドラマに例えられないですね。
「あ、『ゴッドファーザー』系ね」とか、
「この流派」みたいなものが
まったくないような気がします。
- ジョージ
- だから最初見はじめると、
「これ、いったい何の物語なんだろう?」
って思うのよ。
それなのに、ぐいぐい引き込まれて
最高におもしろくなるからすごいのね。
- 原園
- あと「わかりやすい客寄せがいない」のも
突出してますね。
ハンサムもいないし、若手の美人もほぼ出てこない。
ストーリーに感情移入させやすい
小さな子どももめったに出てこないし、
動物も出てこない。
これでよく、最初に企画が通ったなと(笑)。
- ジョージ
- まぁ亀出てきたけどね。
ひどい亀だけ。
- 原園
- あ、あの亀(笑)。
- 杉本
- あと、配役もすばらしくて、
主人公のウォルターおじさん役の
ブライアン・クランストンもいまは有名人ですけど、
もとは全く注目されていなかった
地味な俳優だったんです。
だから最初、AMCというテレビ局と、
製作のソニー・ピクチャーズ・テレビジョンは、
「彼は使いたくない」と言ってたらしいんです。
それをプロデューサーのヴィンス・ギリガンが、
「いや、昔『Xファイル』で
1話だけ登場してもらったときに、
すごくいい演技をしてたから、彼を使いたい」
と強く主張して、こうなったわけですし。
- 杉山
- あと『ブレイキング・バッド』は
主人公以外の配役についても、
「無名の人のほうがリアリティがある」と、
あえてそういう俳優を選んだと聞きました。
- ジョージ
- そうよね。だって見ていて
「この人リアルにこういう人かもな?」
って思うときがあるもん。
ギャングとかも、
「やだ、このひと本物じゃない?」
みたいなこと、思ったよ。
- 杉本
- 俳優の話で言えば、主人公の片方である
ジェシー・ピンクマン(アーロン・ポール)も
シーズン1で消える予定だったのが、
やってみたら「こいつ、いいんじゃない?」って
主役のひとりに格上げになったりとか。
- 杉山
- そして、そうやって採用された彼が
エミー賞で最終的に
助演男優賞を3回も受賞してるんです。
- 原園
- そうだ。あと、このドラマははじめから、
「人気が出ても絶対に
シーズンを伸ばすことはしない」と
決めていたと聞きました。
ファイナルシーズンが第5シーズンですけど、
それで全部もう終わり。
人気絶頂の時に終わらせちゃってるんです。
- ほぼ日
- それ、伸ばさなかったんだ。
すごいですね。
- 杉本
- そう、いろいろすごい話なんですよ。
- ジョージ
- 『ブレイキング・バッド』は、
映像もすごくきれいなのよね。
荒野のシーンが出てくるたびに
「まっ。きれいっ!」って思うもの。
- 杉本
- 色がすごくいいですよね。
全編じゃないですけど、たしかシーズン3から
フィルムで撮っているんです。
このドラマって、けっこう地味な話じゃないですか。
だから、シーズン1・2あたりはまだ
予算がすくなかったらしいんです。
でもだんだん人気が出て、
シーズン3からお金がかけられるようになって、
カメラもセットも、すごく良くなってます。
- 原園
- このドラマ、舞台をよく
ニューメキシコにしたと思っていたけど、
結局あれは予算の話だったと聞きました。
ほんとうはカリフォルニアでやりたかったけど、
ニューメキシコだと州がちょっと
制作費を負担してくれるんで、そこになったと。
- 杉山
- でも、結果的には、
ニューメキシコで大正解というか、
もうあの場所以外、考えられないですよね。
- 原園
- ほんとにそう。
アルバカーキ以外、もう考えられない。
- 杉本
- そうだ。あと、おもしろかったのが、
番組制作元のソニー・ピクチャーズ・テレビジョンから
プロデューサーのヴィンス・ギリガンに
Fワード‥‥つまり、
「ファック」という言葉を番組内で
使わないでほしいと要請があったらしいんです。
- ジョージ
- え、そうなの?
- 杉本
- ‥‥でも、どうも話し合いの結果
「どうしてもと言うなら、
1回だけだったら、使っていい」
ってことになって。
- ほぼ日
- 1話につき1回?
- 杉本
- ええ、1話につき1回だけなら、って(笑)。
だから『ブレイキング・バッド』は、
その、Fではじまる言葉の使い方に
重みがあるらしいんです。
- 一同
- (笑)
- ジョージ
- じゃあ、いちばん効果的なところで
ワーッとぶつける、みたいな。
- 杉本
- そうらしいんです(笑)。
- ジョージ
- だけど、この内容で
「Fワード」を使っちゃいけないというのも
けっこう難しいでしょ?
麻薬販売とか、ギャングとかの話なのに。
- 杉山
- だから、主人公のジェシーの口癖の
「ビッチ」があるんですね。
あれだって使っちゃいけない言葉ですけど、
「Fは使ってないから、いいでしょ?」
っていう話なんですよね。
- ジョージ
- そっか、だから口癖が
「なんとかなんとか、ビッチ」なんだ。
- 杉山
- そう、そしてそれを、
とんでもない数、言わせてるんです。
- 原園
- すごい。おもしろいなあ。
特に軽いミステリーや法廷物をよく見ます。
基本吹き替え版を見るので、
字幕で本来の声を聞いて、
新鮮に感じることが多々あります。
以前『ザ・ホワイトハウス』に
がっつりはまったのですが、
大統領役の小林薫さん、
報道官役の夏木マリさんの吹き替えがとてもうまく、
未だに『深夜食堂』をみても、
「ああ、バートレット大統領」と思ってしまいます。
(ぱた)
ジョージさんは同じドラマを
「吹き替えと字幕の両方で見ることがある」
そうです。
『ブレイキング・バッド』はなんと
全エピソードを吹き替え・字幕の
両方で見た(!)そうで、
「ウォルターの声は本物より
吹き替えの声のほうが合ってるわよ」
と言ってました。
ほんとうにびっくりしました。
あと「吹き替えで見るのが面白いドラマと、
字幕のほうがハマれるドラマと両方ある」
ともおっしゃられてましたね。
海外ドラマのさまざまな意味での
容赦のなさが気に入って、見ているうちに
いつしかハマってしまいました。
特に好きなのは刑事ドラマや犯罪ドラマです。
『クリミナル・マインド』のDVDを
1度に5枚くらい借りて、1日5時間以上、
殺人鬼と対峙するFBIの活躍を見たりしてました。
Huluは気になってるけど、サービスに加入したら
1日中何もせずに見ていること間違いなしなので
加入してません‥‥気になってるけど。
(もてきち)
廃人状態になったんですよ。
土日の朝から晩までずーっと見て、
さらに平日は会社に来る前に
毎日2話ずつエピソードを見る生活をしてて、
「‥‥さすがにこれはやめよう」と思いました。
「家に帰ったらすぐ見たい!」と思える
ドラマがある感じは、シアワセですよね。
たのしいんですよね~。
と言ってもWOWOWかミステリーチャンネルで
放送されるものしか見ていないのですが、
「エンデバー」とか「ドクター・フー」とか
「シャーロック」が面白すぎて、
吐きそうです。
(スズムラミサキ)
メールのなかで「おすすめです!」と
書いてくださってますね。
ずいぶん昔からイギリスで放映されている
SFコメディですね。
いい意味でくだらなくて、そこがおもしろい。
「モンティ・パイソン」とかが好きなら好きかも?
書いてくださっている人が多いですよね。
ぜんぜん違うドラマ、という気がします。
ただ、雑誌とかで、
いっしょに紹介されていることが多いので、
「シャーロック」を入り口にして知って、
見てみたらおもしろかった
‥‥というかたが多いのではないでしょうか。
でもとにかく、わたしは大好きです。
(コラムも、つづきます。)
「おおこれは!」
と一人で勝手に大興奮していたら、
「あ、そういえば鴨さん
海外ドラマ好きなんですよね。
何か書いてくださいよ」
と言われ、いやそんなこと言われても、
僕はただすごく好きだっていうだけで、
系統立てて見ているわけでもないし、
評論なんてできないしと尻込みしていたのだけれども、
せっかくだから思い切って
僕がここ数年間に見てきた海外ドラマの中で、
ちょっと気になったものを
あれこれ書いてみることにしました。
海外ドラマというと、
どうしてもアメリカ、それもハリウッド制作ドラマが
話題の中心になってしまいがち。
でも、実は最近、そのハリウッドが
お手本というか、
どうやら見本にしているっぽい国があるのです。
ここしばらくの間、アメリカのドラマは
脚本をチームで書いている作品が多くて、
全体を貫く大きなテーマはあるものの、
一話ごとにエピソードが閉じる
「一話完結型」がメインだったんです。
複数の脚本家に競争をさせるから
一話ごとにかなり力の入った脚本になるし、
見逃していた人が途中からでも
入って来られるような設計もできるわけで、
その合理的な感じがいかにもアメリカ的です。
ところが、最近はネット配信の普及で、
見逃していた人も
初めから一気に見られるようになったせいか、
少しずつ脚本の体制が
変わり出しているような気がしています。
もちろん一話ごとにちゃんとエピソードを
閉じているものが多いのには変わりありません。
ですが、少しずつ
「いわゆる連続ドラマ」が
復活し始めているんじゃないかなと。
そんな動きが見え隠れする中、
ハリウッドのプロデューサーたちは
世界中に目を配って
新しいドラマのネタを探しています。
そして、どうやら彼らが最近目をつけているのが
北欧とイギリスなんですね。
昔からイギリスのドラマは
アメリカで数多くリメイクされていますが、
脚本が緻密で印象的な映像の多い
北欧ドラマが気になるのもよくわかります。
北欧のドラマをよく見ていると、
いくつか面白い特徴があります。
まず基本的にロケ撮影です。
セットを使わないんですね。
室内も実際の建物を借りて撮影しているし、
あまり照明も焚きません。
レフ板などは使っていますが、
そこにある自然の光だけで映像を撮っています。
そしてカットを細かく割らず、
手持ちカメラでの撮影が多いんですよ。
実はこれって、
「ドキュメンタリーの撮影手法」なんですね。
イギリスの『ジ・オフィス』にも
そういう手法が使われていますが、
俳優がまるでその空間の中で
本当に生きているかのような撮り方をしているのです。
露出はローキー気味で低コントラスト。
デジタルで撮っているのに
なぜかアグファのフィルムで
撮ったような色が出ているのも不思議で、
やっぱり緯度の高いところで撮影すると、
太陽光線に含まれている波長にも
差があるのだろうなあなんてことを考えてしまいます。
この特徴って、たぶん北欧の監督たちは、
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や
『メランコリア』でお馴染み、
ラース・フォントリア監督が提唱している
ドグマ95の手法を意識しているからなのかなと、
密かに僕は思っています。
北欧ドラマをまとめると
「渋い」という一言に尽きます。
アメリカのドラマのような
説明的なセリフがほとんどないので、
見る側はセリフを聞きながら、
ちゃんと俳優の表情や身振りから、
いったい何が起きているのかを
読み取らなければならないし、
ある程度話が進んでも、
状況がよくわからなかったりするのですが、
そのリアルな感じにハマると、
とんでもなくハマります。
派手な展開はありませんが、
伏線が絶妙なので脚本を読み解く楽しみもあります。
◎ロケ撮影
スタジオのセットなどで撮影するのではなく、実際の風景や場所、店舗などを利用した撮影のこと。
◎『ジ・オフィス』
2001、2002年放映のシニカルなシチュエーションコメディ。ロンドン郊外の町の製紙会社の支社を舞台に、無神経な上司に振り回されるオフィスの日常を描く。
◎ローキー
適正露出の明るさよりも暗く撮影し、被写体に「重厚感」「シャープさ」「冷たさ」などを出す撮影手法。
◎アグファのフィルムで撮ったような色
とくに個性的な「赤」で知られるアグファ(Agfa)社のフィルムで撮ったような独特の発色。
◎『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
歌手のビョークが主演した2000年公開のデンマーク映画。
◎『メランコリア』
2011年公開のデンマーク映画。
◎ドグマ95の手法
「撮影はすべてロケ撮影で」「カメラは必ず手持ち」「照明効果は禁止」「時間的、地理的乖離は禁止(回想シーンなどの禁止)」といった「純潔の誓い」と呼ばれる、10個の重要なルールを守り、映画を作る手法。
2015-06-16-TUE