ヒューズが落ちてしまったのか、
と確認するもそこには何も異状はなくて、
どうしたことかと表をみました。
ついたばかりの外灯も今は消えてて、
まわりのお店も電気が切れてる。
停電でした。
あとで分かったコトでしたけど、
ボクらのお店があった地域に送電している
送電システムが過通電で
そこだけ停電してしまっていた。
まだ外は落ちたばかりの太陽の名残でぼんやり薄明かり。
昼の名残が店の中にもさしこんできて、
まだ真っ暗という状態にはなってはなかった。
けれどそれも時間の問題。
たちまち暗くなっていくのは目に見えていた。
お客様に説明します。
このままですと、
いつものサービスが提供できなくなります。
まことに申し訳ありませんが、
今、お帰りになるのであれば
お代は頂戴いたしませんので‥‥、と。
ありがたいことに、誰ひとりとして、
ならば‥‥、という人はいませんでした。
どうせ、今帰っても電車も動いてないだろうから。
ひとりで暗いところにいるよりも、
みんなでいたほうが安心だからと、理由はそれぞれ。
けれどそれからは大変でした。
完全に暗くなってしまう前に、
テーブルの上だけでも明るくする準備をしなくちゃ‥‥、
と、お店の中にあった
中国茶のポットを温めるための固形燃料を総動員。
耐熱ガラスのボウルにお水を張って、
そこに浮かべて火をつける。
窓のない、厨房の中はもっと大変。
調理用のガスをつければ
そこは明るくなって調理はできはするけれど、
冷蔵庫や冷凍庫の中の食材は使い物にならなくなります。
さぁ、どうしよう。
この状態でそれでもここに残ってやろうと、
おっしゃるお客様を、
よし、喜ばせるグッドチャンスだと
思うほかはありません。
さて、ご相談です。
こうして残っていただいた皆様の好意に甘えて、
今日は冷蔵庫、冷凍庫の在庫整理に
付き合っていただきたいのです。
お代は最初にお約束したお値段そのまま。
なにぶん厨房の盛り付け台が真っ暗で、
できた料理をいつも通りに盛り付けることも
ままならぬかもしれませんが、
それで良ければ精一杯の料理を提供いたします‥‥、と。
誰ともなく、拍手がおきます。
全て了解の合図でしょう。
しかもそれに続いて、こんなコトをおっしゃる方が。
それなら大きなお皿にドンッと盛ってくれれば、
ボクらでそれを分けましょうよ。
通路が暗くて、サービスするのも大変だろうから、
どうでしょう。
テーブルを寄せ集めて、
大きな一つのテーブルにすれば、
たのしく食事もできるでしょう。
再び拍手。
そして客席ホールの真ん中に、
固形燃料の明かりがともる大きなテーブルが出来上がる。
ユラユラ揺れるほのかなあかり。
次々、出来上がってくるいつもと違った
ダイナミックな中国料理の数々に、
ワイン、それから紹興酒。
料理の内容を説明しながら、
料理を取り分け、その取り分けられた料理のお皿が
手から手へ手渡されていくステキな景色。
料理のお皿がてわたされるのと同時に
笑顔も伝わっていく。
とてもおだやか。
そしてシアワセ。
サービスする側と、
サービスされる側がひとつにとけ合うような、
素晴らしい夜。
すべてのテーブルが
訳ありテーブルになってしまった夜は、
すべてのテーブルがひとつになった夜でもあった。
レストランとはみんなが笑顔で助け合いつつ、
みんなでシアワセになってく場所であるべきなんだ‥‥、
とその夜、ボクらは思い知る。
せっかくだから心置きなくたのしもう。
たのしむための協力と、
創意工夫を惜しみなく発揮しようとするお客様に、
「訳ありの席」はそもそも無いのだって、
そう実感したのがその夜、最高のゴホウビでした。
さて、来週。
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