カリフォルニアのサンフランシスコの郊外。
ソノマカウンティーに
ワインと料理の好きな人たちに有名なホテルがあって、
何よりスパプログラムがすばらしいので評判だった。
ビジネストリップでなく、
ただただ気持ちをリフレッシュさせるために
いつか行きたいなぁ‥‥、と密かに思ってた。
そこに偶然、母のお友達という人が、
泊まって相当、感動したというのです。
あなたも行ってらっしゃいよ‥‥、と勧められて
一人で行くのはさみしいから、
一緒にいかない? と母が言う。
たまたま当時、
アメリカでしていた大きな仕事がそろそろ完成。
それじゃぁ、ついでに付き合うよと
親子旅行をすることになる。
今のようにインターネットで
意思の疎通が時間と空間を越えていくような
時代じゃなかった。
だから手紙で。
母のとても無邪気で贅沢な希望を
ホテルに伝えることにしたのです。
日本からアメリカに行く最大の目的は
あなたのホテルの泊まるコト。
せっかくだからおいしいモノを
お腹いっぱい食べたいコト。
でも太りたくない。
できることなら10才くらい若返りたい。
そんなあれこれを手紙に書いて送ったら、
返事がきました。
このチャーミングなおかぁ様の写真を
一枚、お送りください。
おかぁ様らしい写真を一枚。
それをみながらホテルのみんなで、
どんなサービスをしてさしあげるのか考えながら
準備をさせていただきたいのです‥‥、と。
旅の準備に忙しく、
それでボクはホテルの宛名を書いた封筒を母にわたして、
かぁさんらしい写真を一枚、
コレにいれて送っておいて。
エアーメイルのスペシャルデリバリーで
よろしくネ‥‥、って。
そうしてボクらは旅の空。
サンフランシスコから電車と車を乗り継いで、
ホテルに到着したのが夕方4時くらいのこと。
母はまず長い空旅で乾燥をした肌のトリートメントをと、
早速、スパに消えていく。
それが終われば食事という2時間ほどをぼんやりボクは、
部屋のお風呂に入ってすごす。
いいホテルだとはきいていたけど、
ボクらの部屋は思ってた以上に良くて、
だって大きなリビングルームを挟んで
ベッドルームが2つある、つまりスイート。
普通にシングルルームを2つとお願いしてたはずなのに、
おそらくラッキーアップグレードなんだろうなぁ‥‥、
ってぼんやり思った。
プルプル肌で、
5才は若返って見える姿で戻ってきた母をエスコートして
メインダイニングで食事をはじめる。
好き嫌いを伝えてあった、料理はどれも口にあうモノ。
体を、中からうつくしく‥‥、がテーマの料理で、
だから油も調味料もとても控えめ。
素材の持ち味がいかされた、
なるほどこの料理を食べるために
ワザワザ旅する人がいるのもうなずける、
と感心させられる料理ばかりでありました。
けれどなぜだか不思議なことに、
すべての料理が大きな皿に盛り込まれてて、
シェアするようにサーブされてる。
他のテーブルの人達は決してそんなコトはなく、
一人一皿。
ボクらのテーブルだけがとりわけ。
とりわけにくい料理は
ウェイターが見事な手際で目の前で、
キレイにとりわけ、一皿づつにしてくれる。
とりわけやすい料理はそのまま。
どうぞ自由に召し上がれ‥‥、というコトなのだけど
オモシロイことに、母の手前にお皿があったり、
ボクの手前に置かれたり。
料理によって大きなお皿が置かれる場所が微妙に違う。
見目麗しい一口大の前菜や、野菜の料理は母寄りで、
自然と母がボクのお皿によそってくれる。
力を要する肉のようなモノは逆にボクの前。
だからボクが母のを切り分け‥‥、というコトになる。
ワタシはそれは少なめでネ‥‥、
なんて母の注文うけつつ取り分けてると、
とても仲良い親子に見えたのでありましょう。
周りに座って見ていた他のゲストから、
ニッコリされたり、
どこから来たの? と話しかけられたり。
気づけばボクらのテーブルが、
その日のそこのメインのテーブルに
なっていたのでありました。
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