昼ちょっと前に成田を出て、
12時間で夕方4時のロンドンにつく。
それが行きのフライトで、
飛行場までお迎えにあがりましょう、
そのまま軽く打ち合わせをして、
食事をご一緒致しませんか‥‥、と、
それがその日のスケジュール。
さてさて、時差をどう克服してやろう。
ずっと起きていたならば、
ロンドンに着き大切な打ち合わせのときが
日本の深夜の1時とか2時。
まともな会話をその状態でする自信がボクにはない。
成田の昼は、ロンドンの4時‥‥、午前4時。
週末の夜更かしの翌日だと思い込むコトができれば、
到着してから楽になる。
まず寝ることだなぁ‥‥、とボクは思った。
ありがたいコトにファーストクラスのシートは大きく、
ほぼベッドのようになってくれます。
あぁ、ありがたい。
今日はぐっすり寝ていくぞ。
お待ちしておりました、サカキ様。
そう、うやうやしくお辞儀をしながら
「なんなりと、お申し付けください」
とニッコリほほえむキャビンアテンダントに
ボクは告げます。
「なるべくたくさん寝たいので、
クイックなサービスを
お願いできるとうれしいのですが」
と、そういうボクに、
これまた丁寧にユックリ頭を下げながら、
「心がけます」という彼女。
パリッときれいなテーブルクロスがひかれ、
シャンパンのグラスにキャビアが瓶ごとどうぞと。
あたかもひとりでたのしむ晩餐会のごとき
豪華な料理が次々運ばれて、
彼らが使う「心がけます」という言葉の意味は
「聞きはしますが対応しません」というコトなんだと、
30分ほどで気がついた。
それから延々。
味も見た目もうつくしい料理が次々運ばれて、
3時間ほどかけ食事が終わる。
デザートはいりませんから‥‥、
と椅子を倒して眠る準備を始めるボクに、
「ならばチーズをお持ちしましょうか?」。
お休みになるのであれば、
シャトー・ディケムのご用意もございますが
いかがしましょう。
この期に及んでの見当はずれに、いや、結構。
朝になるまで起こさないで‥‥、と横になる。
目を閉じながら、
ロンドンではもうスッカリ朝になったんだよネと
そう思う。
その後、寝ている間に
何度かトントンと肩を叩かれ起こされる。
最初はアイスクリームをいかがですか?
あとは、スナックの準備ができたからとか、
喉が渇かれているならお水はいかがとか、
彼らなりの心配りなのだろうけど、
ときにして、行き過ぎたサービスは
バッドサービスになってしまうんだというコトを、
このとき、思った。
特にそれが、自分たちがお客様のためにと思い込んで
押し付けてしまうサービスは、
迷惑至極なおせっかいになるのですネ。
おっと、これは、ずいぶん昔の話です。
さすがに今の彼らは、ここまで押し付けがましくはない。
けれど当時は
「お客様をどれだけ喜ばせてさしあげるか」
を一生懸命考え、実践するのが彼らの使命で、
そのお客様の喜びの中に残念ながら
「安眠」というモノはなかった。
眠るのが勿体ないほどのサービスの良さを、
必死に追求していたのです。
飲食店でも、「良いサービスのスタンダード」は、
お客様の中にあるべきで、
提供者側が勝手に決めるものではないって
思いましたよ‥‥。
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