もしまだお飲みになれるようであれば、
今の季節にふさわしいカクテルを
ひとつお作りしましょう。
いかがでしょうか? と。
季節は秋になったばかりの9月のはじめ。
ジンがおいしくなる季節です。
ちょうど手元にビターズがある。
コレを使って、ジンをおいしく味わうカクテルを
お作りしたくてしょうがない‥‥、と、
そういう彼の笑顔に応えぬ理由はボクらにありはせず。
お願いしますと言うボクに、エマが一言。
「ところでジンは、何をご用意いたしましょう?」
ウィリアムのユッタリとした南部訛りを真似てそういう。
ははは、一本とられましたな‥‥、
といいつつ彼はこう答えます。
クルボアジェがお好きであれば、
ジンはタンカレーがお好みかと存じますが‥‥、と。
そして深い緑のボトルを棚から取り出して、
小さなグラスにちょっとだけ。
テイスティングをなさいますか?
と、手渡すグラスをみんなでひと舐め。
回し飲む。
薬草くさき深い香りが口の中へと飛び込んできて、
それがユックリ、口に広がり風味を変える。
ハッカのような爽快感のある香りとか、
うがい薬のような刺激臭。
とっつきづらい香りではある。
けれどそれが時間が経つとおだやかになり、
甘みと豊かな緑の香りを残して消える。
味わい深く、ホッと溜息が自然とでてくる
確かに今の季節のお酒。
ちなみに、もしみなさまが
銘柄を指定せずにご注文されれば
こんなジンをご用意いたします。
と、彼は派手なラベルが貼られた透明な瓶をとりだし、
トクッと注ぐ。
舐めると、カーッと頭に向けて鋭い匂いと
アルコールの刺激臭が突き抜ける。
「バーバーショップでうがい薬を飲んだみたいだ」
と、ジャンがひとこと。
要はヘアートニックを飲んだみたいな、クセのある味。
クルボアジェの延長線上にあるのは最初のタンカレーで、
なるほど一つのお酒の縁で好みのお酒に知り合える。
それではタンカレージンで
作らせていただいてもよろしいですな。
そういい、彼は小さなグラスにビターズを注ぎ、
グルンとグラスを回しながらその内側に
まんべんなくビターズを塗りつける。
ここでタンカレージンの出番でございます。
‥‥、とそう言いながらウィリアムは
カウンターの上に出していた緑色のボトルを手に取り、
それをグラスに注ぐのかと思うまもなく、棚に戻した。
えぇっ!
どうしたの。
この日最後のサプライズ‥‥、その顛末はまた来週。
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