キッカケは母のいたずらゴコロ。
目の前を歩く人が、どこから来た、どんな人なのか?
ってコトを、当てあいましょうよ‥‥、と、
眠気覚ましのゲームをはじめる。
もともと人間観察が嫌いな方じゃないので、
ボクも大乗り気。
カメラを首からぶら下げた白髪うつくしい老夫婦をみて、
「アメリカの田舎町に住んでるご夫婦で、
多分、ご主人が引退なさったのよ‥‥、
その記念で夫婦水入らずのハワイ旅行なんて
ステキだわ‥‥」。
あるいは
「あの人たちってなんで
私たちはハネムーンで到着したばかりです、
って格好をしているのかしら」
と、派手な揃いのアロハを着ている
若い日本のカップルをみて嘆いてみせたり。
「あのグループはオーストラリア人。
ハワイ慣れしてるけど、ゴルフシャツを着ているのって、
なんだかおしゃれじゃないわよね‥‥」
って見事に日焼けをしたおじさんたちをみては言うなど、
手厳しい。
そうこうしているうちに、あぁ、この人たちは
ハワイに住んでる人なんだろうなぁ‥‥、
とわかるようになるのです。
特に日系人。
顔つきや体格はボクらとほとんど変わらぬ人たちが、
颯爽と歩く姿に、
「ここに住むってこんなふうに装い、
ふるまうってことかもしれない」
って思うようになってくる。
突然、母が立ち上がる。
「ワタシ、あの人にならなきゃいけないんだわ」
‥‥、ってそう言いながら、
とある女性の後姿を追いかけていく。
たしかにその人。
母と背丈がほとんど同じで、
黒髪にスッと伸びた背中の豊かな肉付きが、
遠目にみても母に似ている。
フワッとやわらかな質感の
落ち着いた色のワンピースを着て、
明るい萌黄の薄手のカーディガンを羽織った姿が
色っぽくも凛々しくて、なんだかステキにかっこいい。
彼女はショッピングセンターの中にある
アパレルショップに吸い込まれていく。
日本ではほとんど無名の婦人服の店。
何度もお店の前を通っているのに、目にも入らぬ店だった。
なのに中に入るとそこには、おしゃれな女性が
何人もニコニコしながら洋服選びをしているのです。
「何かお手伝いすることがございますか?」と言いながら、
近寄ってくるセールススタッフに、母はニッコリ。
「あまりにステキな女性をみつけて、
思わずあとをついてきたらココのお店に入ってたんです」
と、正直にいい、ワタシをステキな
ローカルレディーにしてくださらない‥‥、って。
ノースリーブに薄手のカーディガンは、
室内の冷房が強いハワイの女性が好むスタイル。
最近のレストランや商業施設は、
強い照明で昼のように明るくするのがブームだから、
お洋服は深い色のモノを選ばれた方が、
光に映えるお洒落になると存じます‥‥、と。
それで母が選んだのが、深い緑のワンピースに、
光の加減で明るいオレンジ色から
渋い柿色に色合いをかえる
麻糸を編んで作ったカーディガン。
試着室から出てきた母は、日系マダムになっていた。
そのお店のスタッフに紹介してもらった
男性用のカジュアルウェアの店でボクは、
ハリのある麻の生成りの長袖シャツを選んでもらい、
見事ローカルボーイの装いとなる。
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