ところでそうやって会話をはじめて、
あぁ、この人苦手だ! って思ったら、どうすればいいの?
いくらなんでも、
「時計の趣味はすばらしいけど、
仕事のセンスはあんまり関心しませんね」
とは言えないでしょう?
「そんなときには、シャンパングラスを
顔の前に捧げるようにして、ニッコリ微笑む。
そして一言、
『とてもたのしゅうございました!』と。
それが、おいとまします、
の合図のかわりにすればいいのよ」
そう言いながら、お酒のお供にと用意された
オードブルの類をボンヤリ見つめる。
見目麗しく並べられたカナッペのような料理がズラリ。
どれも一口大で、指でつまんで舌の上にピトッとおさまる。
生チョコレートのように見えた料理が実は、
豚の血を固めて作ったブータンノワールと
玉ねぎを飴色にソテしたもので作ったパテ。
ホタテのソテかと思って口に放り込んだら、
ポロネギとじゃがいものピュレを
ホタテの柱に見立てて焼いたモノであったりと、
さすが、当時のアメリカのフランス料理を代表している
シェフの仕事。
それをみながら、シャンパンを飲む。
一口つまんで、またシャンパンをコクリと飲んでいくと、
これにあわせてメインディッシュを
どこか場所を移して食べたくなる。
新しい料理を装ってはいるけれど、その味。
風合いはとてもクラシックなフランス料理そのもので、
ドッシリとしたビストロ料理。
ここの料理を前菜として、
例えばフォアグラのポワレなんかを食べるといいね。
だからコースでたべるコトを押し付けることがない、
気軽なお店。
どこが、いいかなぁ‥‥、って二人で喧々諤々。
ココがパーティー会場で、
しかもボクらは誰かとの出会いのために
来ているというのをスッカリわすれて、
料理のコトばかりを話していたら。
「それなら、ダウンタウンに
フランスの田舎料理がおいしい店の
フォアグラなんてどうですかね‥‥」
と、横から声が。
失礼かとは思いましたが、
あまりにおいしそうな話だったものですから‥‥、
と、声の方をみるとニッコリ、笑顔の紳士が立っている。
話してみると、エマの仕事のよきライバルで、
けれど一緒に大きな仕事を仕掛けることもできそうで、
偶然にしてすばらしき出会い。
胃袋がキッカケでつながる縁もあるんだねぇ‥‥、
とみんなビックリ。
彼がチームを組んで仕事をしている仲間と一緒に、
これから食事をしませんかと、断る理由はどこにもなくて、
それでパーティー会場をみんなで、エイヤとあとにする。
その紳士。
会場をあとにする直前に、腕時計をはずして、
今日は時間を忘れてたのしみましょう‥‥、と。
なるほど、そういう好意の伝え方もあるんだなぁ‥‥、
と感心しきり。
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