私なんか、いつも彼より飲んじゃうけどネ‥‥、って、
不敵に笑う。
母、ゴキゲン。
「奥様はひとりでこういうバーに
お越しになることがあるのですか?」
と、一緒にテーブルを囲む女性のスタッフからの
質問が出る。
こういうバーはやっぱり殿方に連れてきていただくのが、
女性としてはありがたいわよね。
うちの息子みたいな頼りないオトコの子でも、
一人いるだけで空気がキリッとしまるもの。
でもときおり。
一人でフラッときたくなるような
シチューエーションがある。
例えば、一人で旅行にいって
ひとりで部屋に閉じこもっているのが
ちょっとさみしいようなとき。
ホテルのバーに行ってみようか‥‥、と。
そんなときには手ぶらじゃいかない。
カチッとちょっと上等なハンドバッグを手に持って、
冬ならコートを必ず着るの。
このホテルに泊まっているって
ひと目でわかるような格好で、
女性ひとりでホテルに行くのはあまりに無粋。
コートを脱がせてもらうところから、
サービスだったりするものね。
そして凛々しく背筋を伸ばして、
バーテンダーにそっと伝える。
ホテルに泊まっておりまして、
この街のコトを伺いたくて
やってまいりましたのよ‥‥、と。
良いバーテンダーは、それで了解。
話し相手をかってでてくれるモノ。
とは言えずっと、あなたの前にいてくれるかというと、
彼も本来の仕事があってそんなときにあなたは一人。
そのとき、絶対、寂しそうに見えちゃいけない。
頬杖を付く。
ため息を付く。
あるいは物憂げに舌なめずりをしたり、
化粧直しをしたりしない。
さみしいココロのスミマにつけ込むずるいオトコに、
変なメッセージを出さぬように
凛々しく振る舞うコトが必要。
でもそうした振る舞いは、
誰かと一緒にバーにきてお酒をたのしむときにも
心がけるべき作法。
考えてみれば、それって、
女性が生きていくことと同じじゃないかしら。
自分の人生に頬杖をついたり、
同情をひくためにため息をついたり、
自分を甘やかすような生き方は女らしいとはいえないの。
そして一堂、大きくうなずく。
そろそろ背中がつかれてきたわ‥‥、
おひらきにしませんこと?
と言われて時計を見たらちょうど90分ほどが経っていた。
夜を独り占めしないステキなバーというのは、
なるほどこういうお店のコト。
もし機会があれば、カシミアのカーディガンが似合うお店に
ご一緒したいと思うんだけど、あなたよろしくお願いネ。
ボクの方をみてニッコリ笑い、お勘定書きをボクに手渡す。
さて来週は、その
「カシミアのカーディガンが似合うお店」
の話をさせていただきましょう。
また来週。
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