(1)毎日でもいける店。
(2)一週間に1回くらいでも通ってしまえる気軽なお店。
(3)毎月できれば来たいなぁ‥‥、と思う店。
(4)ちょっと贅沢だから季節ごとに来れるように
   がんばろう、と思う店。
(5)一年に一度、なにかの記念日にくるとっておきの店。
(6)そして一生に一度の思い出になる憧れの店。

プライベートな飲食店は、
この6種類に分類されると言われます。
接待用のレストランだったり、
宴会やパーティーのような特別な機会に使われるための
レストランがそれ以外にもあるけれど、
そういうお店はお馴染みさんになって
いいものなのかどうか、判断に迷うコトが多いのですネ。

理由は簡単。

良いサービスや良い料理が
誰のためにあるのかというコトを
考えてみるとわかりやすい。
特に接待。
お金を払う人と、たのしんでもらう人とが別々なんです。
サービスは接待される人がよろこぶように
お店の人は心がける。
当然です。
料理は接待される側から最初に出され、
たのしんでいただけましたか? と
一番最初に聞かれるのは、当然、接待される側。
けれどお店の人の目が、
必ず最後に注がれるのは接待する側。
つまりお金を払う人。
最終的に、お金を払う人が良かったといってくれなくては、
もう一度、使っていただくコトができない。
だからお店の人は接待をする側の顔を
一生懸命覚えようとするのです。
何度か同じお店で接待を受けるようなコトがあって、
にもかかわらずお店の人はボクの顔と名前を
覚えてはくれてはいなかった。






レストランをたのしむ醍醐味。
その一番大きな部分が、お店の人とふれあって、
互いに顔や名前を知り合うコトで
「自分ならではのサービス」
を受けるコトができるようになるというコト。
だから「覚えてもらえないお店」というのは
ちょっとさみしい。

一生に一度のお店は当然、
おなじみさんになるチャンスがないのも同然。
一年に一度の記念日のような日にいくようなお店で、
名前と顔を覚えてもらうのはかなり大変。
ボクなんてとあるお店のおなじみさんになるのに
5年、かかったことがある。
上等なお店。
値段も上等で、おいそれと気軽に来れるお店ではない。
けれど料理がすばらしいのです。
ステーキハウス。
品評会で賞をとった牛を
特製の大きな窯で焼き上げ、
季節の料理と一緒に味わう。
一年に一度来ようと思った理由が、
料理のバリエーションが決して多くはないところ。
そのお店にはじめていったときが11月1日という日で、
「牛肉がおいしくなる季節に
 ようこそいらっしゃいました‥‥」と。
それまで牛肉なんかに旬があるとは思ってなかった。
けれど秋から冬にかけてが脂がのっておいしく、
夏になると肉が水っぽくなってしまうから
調理をするのも難儀するんです‥‥、と。
そう言われて食べたステーキがなるほどおいしく、
ならばこれから毎年11月1日は
勝手にステーキの日にしてしまおう。
2回目の予約のときに、こういいました。
「昨年の11月1日にもお伺いいたしました。
 今年も牛のおいしい季節を
 ことほぎにまいりたいと思います」と。
3年目も4年めも同じように電話をし、5年めのコト。
9月の中旬に電話があった。

「サカキさまでらっしゃいますか?」

電話の主は、そのステーキハウス。

「毎年11月1日にご利用いただき
 どうもありがとうございます。
 実は今年。
 11月1日は当店の定休日でございまして。
 もしどうしてもというコトであれば、
 その日を営業させていただくこともできますが、
 いかがしましょう‥‥」と。

なるほど、たしかにカレンダーをみるとその日は日曜日。
翌日でもボクは一向に構いませんが‥‥、と答えると、
「11月11日という選択肢もございますが」
と洒落っ気タップリのサジェッション。
あぁ、おなじみさんにしてもらったんだなぁ‥‥、
って経験。
それからずっと、11月1日、
あるいは11月11日はボクにとってはステーキの日。
そのお店にとっては「サカキさまの日」だったのです。
アリガタイ。






スペシャルなお店とよい付き合いをするためには、
何か一つのルールを作ってそれをお店の人と共有する。
すると自然と、お店の人があなたのコトを
心待ちにしてくれるようになるのです。
来店に関するルール。
そのルールの頻度は高ければ高いほど、
お店の人に覚えていただきやすく、
中でも「毎週いらっしゃるお客様」
「毎月お越しになるお客様」って、
早くお馴染みさんになることができるのですね。
特に月に一度のお店。
ちょっと気取りがあって、
お客様もお連れできるし普段使いもできる店。
別にカシミアのカーディガンでなくてもいいのです。
敬意を表するにふさわしい店。
しかもスーツではなく、
普段着を装った上等な服でいける雰囲気で、
しかもよそ行き料理だけでなく普段着料理もおいてある店。
5年後くらいには、毎週ここに通えるように
お給料が増えているといいのになぁ‥‥、
なんて思えるようなお店がもしもみつかったなら。
そこのお店の人に好かれるようにちょっと一工夫。
ステキな話をまた来週。

2013-04-11-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN