かつて住んでいた家から車で5分と少々。
高級な住宅街として知られている街の路地裏に、
小体なイタリア料理のお店がありました。
ワザワザやってくる人もいた。
けれど確実に、あぁ、近所の人たちなんだろうなぁ‥‥、
というお客様がいて、つまりカシミアのカーディガンが
似合うお店でもあったわけです。
アラカルトのメニューが充実していて
特に、パスタのバリエーションが豊かで
フラッと軽い食事をするだけでも
決して嫌な顔をされない気軽なお店でもあったのですネ。
あるとき。
当時、かなりの注目を集めていた作家さんが
「オススメの店」としてその店のコトを紹介した。
絶対取材を受けないというコトを
ポリシーにしていたお店で、
けれど個人の著作に登場することまでもを、
断るわけにはいかなかったというコトで、
そのせいでしょう。
予約せずとも大丈夫だろう‥‥、
と思って行ったらなんと満席。
いつもはのどかなお店のリズムも、ちょっとギクシャク。
マダムがテーブルの間を
まるで飛び回るようにサービスしてる。
「サカキさん、ごめんなさいネ」とマダムにいわれて、
いえ、また来ますからと帰ろうとするボクに向かって、
入り口近くのテーブルのお客様が、
「ちょっと待っていただけたら、
お席をお譲りいたしますよ」と。
そしてマダムに
「私たちのデザートをおみやげ用に
包んでいただけないかしら‥‥、
家に帰っていただきますので」とニッコリ笑う。
それまでご一緒いたしませんこと?
6名がけのテーブルに4人で座ってらっしゃった。
ボクらは2人で、ちょうど大きなテーブルが一杯になる。
聞くと近所にお住まいの方。
お客様が訪ねて来たので、
近所になじみのステキなお店があるんですよ‥‥、と。
それでやってきて、食事が終わって
あとはデザートというときだったというのですネ。
思いがけずも、ホームパーティーに
招かれたような気持ちになって、なんだかほのぼの。
テイクアウト用の箱や容れ物があるわけじゃない。
大きなお皿にデザートを、
キレイな盛り合わせのように飾って
フワッとラップをかけたモノを持ってきて、
「こんなふうにしかできなくて、よろしいかしら?」
と聞くマダムに、
「まるでレストランから出前をとったみたいでステキ」
と立ち上がる。
テーブルの上をキレイに一旦片付けて、
6人がけに2人で座る。
今日はちょっと商品提供に
時間がかかるかもしれないの‥‥、
と、そういうマダムに、
なんならお手伝いをいたしましょうか‥‥、と
連れの友人が腕まくりするような仕草で立ち上がる。
いやいや、そんなコトをしたら
お客さんがみんな帰ってしまうから‥‥、って、
それでワインを一本もらう。
パンをつまみにしばらくぼんやりしていますから、
余裕ができたら注文とりに来てください。
それまで何を食べるか考えてます。
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