「もし、失礼でなければ、今日のディナー、
どのくらいだったのか、
お教えいただくコトはできますか?」と。
ステキなお店で、料理もおいしく、
ぜひ、近々伺いたいと思っているのですけれど、
いくらぐらいの心づもりをすればいいか、
聞いておきたくお尋ねします‥‥、
と、続けてボクに聞くのです。
ボクはクレジットカードの伝票を、そっと彼に手渡す。
2人で3万円ちょっと手前の数字が
そこには書かれていました。
「今日は本当に、おごちそうさまでした」
と、ボクに頭を下げるお客様。
「前から飲みたくてしょうがなかった、
ちょっと贅沢なワインを思い切って抜いたので、
ちょっと値段がはってしまいました」
と、ボクは言い訳。
不思議なモノで、身の程過ぎた出費で
接待をしたと思われたくない気持ちを
そのとき感じたのです。
その様子を見て、マダムがボクらの
テーブルのオーダー伝票を手にしてやってくる。
伝票には、その夜たのんだ料理の名前が
丁寧にかきこまれ、そればかりでなく、
ボクのカジキのローストは
皮をパリパリに焼き上げるようにとか、
あるいはノルマのパスタはちょっと辛めに仕上げるだとか、
細かく調理手順が付け加えられてた。
ひとつひとつの料理に値段がかきこまれ、
確かにたのんだメルローが
その日の出費の半分近くをしめていた。
この値段であのお料理がいただけるなんて。
これはサカキさん用の
スペシャルディスカウントプラスじゃないですよネ‥‥、
って彼は聞いて笑った。
そしてズボンのポケットから名刺を一枚。
マダムに渡し、
「サカキさんと一緒に仕事をさせていただいている、
タカギともうします」と挨拶をする。
そういえば、お客様の名前のコトを言わずの接待。
反省します。
そして続けて、
「来月の一番最初の週末に、
妻と一緒に来ようと思うのですけれど、
その日はお席をいただけますか?」と。
ボクはマダムから会社名前の領収書をもらい、
タカギさんはオーダー伝票を今日の記念にともらって帰る。
ホストとゲストの一体感とでもいいますか。
ボクにとっての「オキニイリ」を分け合う接待。
それがおそらく「本当の究極の接待」なのだろうと
今でもボクは思っています。
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