お見合いレストランとデートレストラン。
どんなレストランが、
それぞれの役目を果たすのにふさわしいのか。
そのコトをまずは整理してみましょう。

「お見合い」と「デート」の違いといえばそれは
「距離感」じゃないかと思うのです。
大きなテーブルの端と端に座って互いを観察しあう。
それがお見合い。
デートになると、2人の距離はほんの少しずつ近づいて、
最後は手をつなげるほどに親密な距離になっていく。
お見合いレストランには「距離」が必要。

接待で使おうかと思っているレストランに、
こんな風に電話をしたとしましょう。

「そちらは、ご接待にふさわしいお店でしょうか?」

あぁ、この人は接待というモノがわかっていない。
接待なれしてない人だなぁと、
思われるのがオチじゃないかと思うんですネ。
例えば極端な話、「そちらはおいしいお店でしょうか?」
という問い合わせの電話をしてしまうのと同じコト。
いや、うちはおいしいお店じゃありません‥‥、
とは答えられない。
かと言って、うちはおいしいお店ですよと
即座に答えるコトができるかというと
それもさすがに気が引ける。
「おいしいとおっしゃるお客様が
 たくさんお越しいただいています」
のような、言葉を選んで答えるしかない。
直接的すぎる質問は、
それを受けた人を戸惑わせてしまうモノです。
なによりまるで粋じゃない。
お店の人も困って逆にあなたに質問をしてしまうでしょう。
「どのようなご接待をお望みですか?」と。
レストランの人たちをはじめ、
お客様にサービスを提供することを
至上の喜びをしている人たちにとって、
「質問され、命令される」ことこそ仕事。
特にサービスがこれからはじまるという
タイミングにおいて、質問と命令を待つ立場の人に、
質問をさせるようなコトをするのは
野暮と心がけなくてはならないのです。




「大切なお客様のおもてなしを考えているのですが、
 隣のお席との間隔のユッタリしたお席が
 あればと思っているのですけれど」

プライバシーを大切にしたいという意思表示です。
お見合い接待に適したお店は、通路が広くできているもの。
隣のテーブルの会話が耳を澄ませなくても
聞こえてくるようでは、
自分たちの会話も隣のテーブルに筒抜けだということ。
声が筒抜けにならない距離感のみならず、
他のお客様と直接目線が合わないような
テーブル配置の配慮をしている。
飾り気の無いシンプル過ぎるインテリアでは、
そこに座っているお客様たちが
唯一の装飾品の役目を果たす。
人の目というものは、どんなところに置かれても
目立つ何かを探すようにできているモノ。
だからおしゃれが映えるシンプルモダンなお店は
お見合い接待には絶対不向き。
立派な額の絵。
派手な壁紙。
意匠を凝らした柱やテーブル、そして椅子。
隣の人を見なくてすむよう、
目のゴチソウが飾り立てられたお店の中なら、
お客様が装飾品の役目を果たす必要がない。

まぁ、もっと直接的に
ついたてだとかで目線が隣のテーブルに向かぬように
なっているお店もありはします。
個室というのがならば最適かというとこれがご注意。
「個室をご用意いただきたいんですが」と言って予約をし、
これでプライバシーをたのしむことができると
思って行ってみたら、小さな小部屋。
壁一つ向こうには隣の小部屋のテーブルが置かれてあって、
そこの会話が筒抜けだったなんて、
笑うぬ笑えぬ状況に陥ることがあったりもする。

テーブルとテーブルの間がユッタリしていて、
会話や視線に邪魔されぬところで
おもてなしをしたいのです‥‥、
というコトを正しく伝える。
それと同時に
「大きなテーブルを
 ゆったり使わせていただきたいのですが」
とつけくわえてみます。
これはおもてなしするお客様とワタクシたちは
まだ親密な関係ではないのです‥‥、という意思表示。

インターネットでお店の情報が
容易く手に入るようになった今。
いい接待をしようと、
そこにでているメニューの値段や客単価、
あるいはお店に対する評価得点をたよりに
接待レストランを選ぼうとする人たちを多く見受ける。
手がかりとしては悪くない。
けれど、例えば同じビルの中に出店しているお店が
2軒あるとしましょう。
どちらもビルのワンフロアーを占めていて、
つまりお店の大きさは同じサイズ。
客席の数を調べて、その片方が80席、
もう片方が110席だとしたらまず、
80席のお店の方に電話をかけます。
ココで述べた、通路が広くてテーブルサイズが大きいから
同じ面積で少ない客席しかとれなかったと推察できる。
電話をします。
ときに厨房やバーの面積が以上に大きく、
それで席数が少ないお店もあるので必ず電話で確認。
先に挙げたような質問をいくつかしてみて、
その答えが満足できるモノだったらば、そこを選びます。
結果はほとんどはずれなし。




そしてなによりお店へのアプローチが
ドラマティックであればあるほど、
接待レストランとしての格がたかまる。
玄関から客席までの道のり‥‥、それがアプローチ。
通りに面したところに玄関。
ドアを開けるともう客席‥‥、
というのではこれからはじまる
「特別な時間」への期待を作り出すことができないのです。

かつて「先味・中味・後味」という
飲食店における3つの味の話を
ココでしたことがありました。
食事を実際にはじめるまでに、
どれだけ期待をしてもらえるか。
期待のないところに感動は生まれない。
だから先味を大切にと、
レストランの人たちはお客様をお出迎えして、
料理を提供するまでのさまざまな工夫や仕掛けを
店にほどこす。
うつくしいテーブルセッティングもそう。
お店を満たす音楽や、快適で居心地の良い室温などもそう。
中でも、お店の敷地を入って
テーブルにつくまでのアプローチは、そのまま後味‥‥、
つまりお客様をお見送りする経路にもなる。
タップリ時間をかけてお店の雰囲気を味わって、
タップリ時間をかけてたのしかった時間の
余韻を味わうためにも、
長くドラマティックであることが良い。

例えばホテルのレストランを
接待レストランとして重宝する人たちがたくさんいます。
ボクもホテルのレストランにはお世話になった。
ホテルのドアを開けてから、
大きなロビーをユックリ歩き
日常的な空気を吐き出し、
体の中をホテルというゴージャスにして
非日常的な場所の空気で満たすに十分な
レストランへのアプローチ。

さて来週です。
すばらしきアプローチがどんな奇跡を起こすのか、
ステキなお話をいたしましょう。



2013-06-20-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN