接待にふさわしいレストランのしつらえのコトを、
先週まで話してきました。
他のお客様との適度な距離感。
日常生活をひととき忘れるコトができる距離感や、
お客様と従業員との節度を持った距離感などなど。
おもてなしの舞台としての夢を壊さぬためには
「距離」が重要なのだというのがまとめ。

一方、ハードウェアとしてのレストランではなく、
その中身。
どんなソフトウェアを持ったレストランが
接待レストランにふさわしいのか、
あるいはふさわしくないのかというコトを、
しばらく考えてみましょうか。

飲食店のソフトウェアは
大きく2つの要素で出来上がります。
ひとつは業種。
ひとつは業態。
業種というのは「何を売っているか」というコト。
業態というのは「いくらくらいの費用がかかるか」
というコトで、つまり客単価が
ひとつに指標になるのでしょう。
客単価が高ければ高いほど、
接待に適しているかというと、
まぁ、決してそんなことはない。
度が過ぎた客単価の高さは相手に対して失礼で、
つまり「相手に失礼にならぬ程度の高さ」のお店を
いかに選ぶかというコトが重要になるのだけれど、
それは別の機会の話といたしましょう。

なので今日は「業種」の話。
接待に適した料理と、
適さぬ料理があるんだというコトをしばらく考えましょう。

まず最初に、野暮な接待と粋な接待の話から。




仕事で成果をあげるために、
レストランなどでくりひろげられるのが接待という儀式。
だからといって、テーブルに座っていきなり
「ところで例の仕事の件ですが、
 よろしくお願いいたします」
と、仕事の話をはじめたら、あまりに滑稽。
そんな話なら、会議室でしてほしかった‥‥、
ってコトになる。
だって、そこから先のせっかくの料理にも、
お店のステキなサービスにも
集中することなんてできなくなっちゃう。
せっかくの食事が台無しになっちゃいますもん。

仕事とは直接関係のない話。
例えば「最近、ゴルフの調子はいかがですかな?」とか
「ここ数日、どうも巨人の具合が良くないようですね」
とかという差し障りのない世間話で食事の席を盛り上げる。
ただときおり、そういう時間が無駄だからと、
接待ではなく最初から
「食事をしながら仕事の話をしようじゃありませんか」
と誘われることがあります。
ビジネスディナーとか、
ビジネスランチとかといわれる食事。
ボクがいた頃のニューヨークには、
ビジネスランチ専門の高級レストランが何軒もあって、
タイムイズマネーな人たちで、
いつも賑わっていたものでした。

そういう店の特徴は‥‥。
・仕事の話をしていても気にならない程度に、
 お店の中がにぎやかなコト。
・サービスがクイックであるコト。
・ウェイターやウェイトレスが、
 テーブルにまで頻繁にサービスをしにこないコト。
・テーブルの上にレポートパッドなどを
 おいておけるだけのスペースがあるコト。
などで、例えばボクがよく使っていた
ビジネスランチ用のレストランは
こんなお店だったりしました。

大きなお店、大きなテーブル。
いつ行っても必ずテーブルがあいているためには
客席がある程度、多くなくてはならないし、
同じような料理を出している大衆的なお店にくらべて、
あきらかに「高い!」と感じる価格設定。
ビジネスチャンスはあるとき突然にやってくるから、
予約なんてしていられない。
思い立ったときにテーブルがあいてなくては価値のない店。
だから「高い!」という結界を張ってくれるお店は重宝。
企画書や契約書、あるいはノートパッドを
料理のかたわらにおいておけるよう
大きなテーブルもありがたく、料理は一皿完結型。
料理がやってくれば、
あとはサービスで邪魔されることなく
仕事の話に集中できる。
サラダやサンドイッチのような
時間がたっても味が変化することない料理がメインで、
間違ってもナイフフォークで格闘しなくちゃいけない、
鳩やヒラメのソテなんかはない。
お水も驚く程に高かった。
ワインを飲むと、気持ちが大きくなって、
しなくてもいい約束をしたりするから
みんなミネラルウォーターのボトルをおいて、ランチする。
その水の瓶一本がちょっとした
テーブルワイン一本分ほどの値段がしてた。




良いビジネスランチの店の条件は、
良いレストランの条件とかなり違った。
そうそう。
高いくせしてテーブルクロスを使わぬお店が多かった。
クロスの上に置いたレポート用紙に何かを書こうとすると、
ペン先が沈んで紙を破いてしまう。
だからツルンと平べったい板のテーブル。
つまり会議室で食事をしているようなもの。
そこには数字と法律と出来上がってしまっている
アイディアがあるだけで、
世間話も、思い切って変えてみた髪型の話で
盛り上がるコトもない。
料理だって、おいしすぎて
仕事の話に集中できないコトのないよう、
ほどよき程度に収まってしまっているのじゃないか
と思えるほど。
そういうレストランで、
そういう接待をするのは「野暮な接待」。
気持ちがさめる。

一方、粋な接待と言えば、
直接的にビジネスの話をその場でするわけではない。
互いの気持ちを探り合う。
互いの気持ちをくみとりあって、一つチームになっていく。
その過程が接待を粋に感じさせるために
もっとも大切な手順で、ある意味、
アメリカのビジネスにおけるホームパーティーが
果たす役割がそれにあたるのかもしれません。
「奥様は魔女」の主人公、ダーリンが家で頻繁に行う、
取引先のお偉方を招待する、あれ、ですね。

テーブルの上で食事をしながら
ビジネスの話をするのは野暮というもの。
だからかたわらに「奥様」というクッションをおく。
映画の話。
最近話題の本の話や、
先月行ってきたばかりの海外旅行の話をしながら、
たのしく食事をすすめながら
「自分は信用するに値する人」であること。
この人になら仕事を任せてよさそうな、
そんな印象を与えるコトにダーリンもサマンサも
一生懸命気を配る。
食事を終えると、それでは男同士でと、
リビングルームでブランディーを片手に
葉巻をくゆらせながら、
仕事の件はどうぞよしなに‥‥、というやりとり。

そして実は、上等な鉄板焼きレストランという場所が
こういうまるで「仕事がらみのホームパーティー」に
とても良く似た機能を持っている。
来週、詳しく説明させていただきましょう。


2013-07-25-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN