ボクは一度、成功したのか失敗したのかわからないほど
不思議な接待をとりおこなったことがある。
場所はうなぎの名店でした。
完全個室。
見事な庭園を囲むように離れの座敷がしつらえられてて、
接待の場としては最高。
‥‥、のように思えたその店で、季節は夏。
まさにうなぎがおいしい季節に、
お客様を接待ランチにそこに誘った。
ランチですから、接待とはいえ
1時間から1時間半ほどで食事を終えることが相当で、
たのんだメニューはうな重に鯉こくがつく
一番簡単な定食でした。
天然うなぎを使ったとても贅沢な値段のランチで、
店の雰囲気と相まって、接待気分がグイッとたかまり、
喉ならしつつうなぎがやってくるのを待った。
ところが‥‥。
待てど暮らせど料理がやってくる気配なく、
まずは鯉こくが30分ほどした頃合いでやってきて、
お腹がすいているものだから、
それをゴクリとあっという間にみんなが飲み干す。
そして再び、待てど暮らせど料理がこない。
そればかりか、座敷まわりに人の気配がまるでなく、
捨て置かれたようなさみしさすら漂ってくる。
1時間ほど待ちました。
仕方がないから無粋と思いながらも仕事の話をしながら、
お茶を片手にじっと待ち、
大きな咳払いと共にふすまがそっと開き、
恭しくも大きなお重にうなぎとご飯。
お重の底は上げ底で、
そこにはお湯が注ぎ込まれてご飯が湯煎の状態にある。
だからいつまでもさめずに熱々をたのしめるという、
サービス精神旺盛で、上等にしてうなぎの味は一流でした。
けれど予定の時間を大幅に越え、
お客様はあっという間にうなぎをお腹の中に収めて、
それでは後日と席を立つ。
ただ、うなぎを待っている1時間ほどで
接待の目的部分はシッカリ果たし、
会議の後にうなぎを食べた!
って感じのランチではあったわけです。
この接待って、成功したのか、失敗したのか
どうなんでしょうと、師匠に聞いた。
答えはこうです。
その店は、政治家が密談をするのに
好んで使う店なんですよ。
だから、タップリ時間をかけて
お客様のプライベートな時間を作る。
うなぎができてくるまでは、
お店の人がやってくることは無いというのが
暗黙の了解であって、
だから心置きなく秘密の話をできるのですね。
大昔‥‥、江戸時代くらいまでさかのぼりますか。
座敷にあがってうなぎを食べるということは、
とても色っぽいイベントで
食事をするための座敷の横に、
布団がひかれていることがあったほど。
うなぎが出来上がるまでの時間、
大人の時間をたのしむ風習。
それが転じて、お客様の時間を邪魔せぬ
プライバシー満点の不思議なサービスの店に
なったというコトなのでありましょう。
今でもそのときのコトを思うと、
居心地が悪くなるのでした。
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