原因は会社本部の何気ない行動でした。
コストダウンをお客様に迷惑がかからない範囲でしよう。
同時に働く人が犠牲にならぬよう
利益を増やすために
できることをしようじゃないか‥‥、と。
つまり原料費や人件費を下げることなく
利益を増やそうという政策で、
とすると備品や消耗品を
安いモノに変更しようというコトとなる。
いくつかの仕入れ変更が行われ、
そのひとつに「洗剤」が含まれていた。
安い洗剤を使うようになったのです。
洗浄能力はそれほど変わらず、
お皿がキレイになってくれるのであれば、
お客様に迷惑をかけることはない。
利益を増やす努力は、お客様の見えぬところで、
というのがサービス業の鉄則ですから、
決して間違った政策ではなかったはず。
ところがその洗剤が、洗い場の人の手を
荒れさせてしまうことになったのです。
この会社の人たちは働く人のことを
思わなくなってしまった。
働く人の快適よりも、利益を優先する人になったんだ‥‥、
と、ご機嫌に働く気持ちがそがれていった。
そのうち洗い場の人たちが、
ひとり、そしてまたひとり。
職場を離れるようになったのです。
お客様の目に触れぬ、下働きと呼ばれる仕事。
そう言う人たちの補充はいくらでもできるし、
そんなコトでお店の業績が影響を受けるとは
誰も思わなかったのです。
違いました。
実は飲食店において。
特にチェーンストアと呼ばれる
会社が経営している大きな組織の飲食店で、
一番長く勤めている経験豊かな人は洗い場にいる、
パートさんと呼ばれる人たち。
店長と呼ばれる人は人事異動で定期的にお店を変わる。
お客様に笑顔をふりまく学生アルバイトくんたちは、
学校を卒業すれば辞めてしまう。
しかも彼らは通勤してくる人たちがほとんどで、
地元に根ざしているわけじゃない。
パートさんは地元の人です。
やりがいがあって、そのお店のことや
一緒に働く人たちがステキと思う限り、
職場を変えずずっと働いてくれる人たち。
「どうしてあのお店をやめたの?」
そう、友人に聞かれることもあるでしょう。
洗剤が変わってネ‥‥、手荒れが激しくなっちゃったの。
儲け主義になっちゃったのかもね、
と何気無く答えた言葉が、街をたちまち駆け巡ります。
お客様であるわたしたちも、「儲けの対象」としてしか
みられないようになったのかしらと、そう思い始めると
そんなお店を選ぶ理由がなくなってくる。
そして結局、お客様が減ってしまったというわけです。
安い洗剤はお皿をキレイにする役目を果たす代わりに、
お店の評判をどんどん汚していった。
これは大変と、洗い場を快適に働ける場所に
環境整備をし直して辞めてしまったパートさん達に
謝罪までして、それでもお店の評判を取り戻すのに
優に1年という月日を必要としたほど
「お店で働く人たちの評判」とは、
大きな影響を持っているのです。
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