新しいお客様を獲得するための宣伝とは違った宣伝。
それは、お客様に
「もう一度やってきていただくため」
にする宣伝ということになります。

飲食店は、お客様との付き合い方によって
2つの種類に分類される。
ひとつは
「ワンジェネレーションレストラン」と呼ばれるお店。
渋谷や原宿のような場所にたくさんあります。
10代半ばから20代の若い女性ばかりが集まる、
カフェのような店。
そこに集まるお客様は、20代の終わりがくると
そろそろ私たちが来る店じゃなくなったと思って
卒業していく店で、絶えず新しいお客様で満たされる。
その世代の人たちだけのコトを考えればいいから、
突き抜けたコンセプトや特徴を発揮することができ、
目立つんですね。
ライバル店とも戦いやすい。
けれど、新しいお客様に絶えず関心をもたれるためには、
かなりのコストを必要とします。
若い人たちが集まる場所、目立つロケーションに、
忘れられないようにと話題作りにお金をかける。
宣伝にお金をたっぷりかける分、
原料費を節約することが多くて、
だから商品自体は貧弱なことが多かったりする。


もうひとつのお客様との付き合い方が、
一人のお客様と何十年も付き合い続ける
努力をするするというコト。
飲食店は「おなじみさんビジネス」なんだと
言われることがある。
新しいお客様をひとり獲得することにかかるコストと、
一人のお客様にもう一度来ていただくことにかかる
コストを考えるなら、圧倒的に後者の方が安くすむ。
だからチェーン店も、
一人のお客様と長い付き合いができればいいなぁ‥‥、
と思ってお店の仕組みを作る。

例えばマクドナルドというチェーン。
日本に彼らがやってきたとき。
その広告のほとんどは、子供に向けたモノでした。
「味なことやる、マクドナルド♪」
という軽快なメロディーにあわせて微笑むのは
ピエロのドナルド・マクドナルド。
彼と一緒にニコニコしているのは、
おいしそうにハンバーガーを頬張る子どもたち。
創業者はその理由を得意げにこう説明したものでした。

飲食店で成功をするためには、
どれだけ長く贔屓にしてもらうことができるかを、
考えるべき。
その究極の成功は、生まれたときから死ぬまで一生、
使ってもらえるお店になること。
子供の純真無垢な舌にアピールできれば、
そんな夢も決して夢では終わらない。
だから子供にアピールするんです。
25年先を見てください。
マクドルドを食べて育った子供が成人して、
子供を作って彼らと一緒にお店に戻る。
50年先には、マクドルドで育った人が中年になり、
子供の頃をなつかしがってマクドナルドにやってくる。
そんなブランドにするんです‥‥、と。

その考え方は飲食店の成功の王道でもあって、
みんなさすがスゴいなぁ‥‥、と感心したもの。
そして今年はマクドナルドが日本にやってきて、43年。
日本でも有数の規模の会社になりはしたけど、
果たして子供の頃をなつかしがって行こうと思う
お店であるかどうかは、はなはだ疑問なところではある。

有名なお店です。
日本でおそらく知らない人はないとも言える。
しかも目立つ場所にお店を作るから、
新しいお客様を今更努力して
獲得しようなんて思わなくても、
お店があければ人は次々やってくる。
問題は、同じお客様に何度も何度も、
足を運んでもらい続ける努力をするというコトでしょう。
それを知っている彼らは、
おそらく日本でももっともすぐれた
メール配信のシステムをもって、
おどろくほどに大量のクーポン・チケットを送りつづける。


マクドナルドに限らずチェーンストアは手を変え品を変え、
お客様にもう一回きていただこうと工夫する。
最近、はやりの言葉で言うと
「顧客囲い込み策」なんてことになるでしょうか。
ポイントカードや、次回お越しになったときに
お使いくださいと、割引券を出したりします。
ただ、それだけでは「また行ってみようか」
というキッカケにはなかなかならない。
それでイベントのようなコトを頻繁にする
お店が出たりする。

例えば定期的に、今しか食べるコトができない
季節商品を導入し、テレビで知らせる。
あるいは、玩具や雑貨をくれるイベントや、
中にはもっと直接的に「今だけ半額キャンペーン」とか。
そういう努力が報われて、
一時的にお客様がもどってくることもあるけれど、
続かないからまた別のキャペーンをして、
クーポン配ってのくりかえし。
マクドナルドだけでなく、
ファストフードのお店の中には
キャンペーンをしているときだけお客様で混雑してる。
お客様がやってきても、通常営業というコトを聞いて
帰っていくようなコトもあるんです‥‥、と、
そういうお店が結構多い。

本来は、商品のおいしさとかサービスの良さ。
そして人と人とのつながりで、
お客様に何度も何度も来ていただける努力を
しなくちゃいけないんです‥‥、飲食店という場所は。
仕掛けではなく、お店の構造や仕組みそのものが、
もう一度行ってみようと思わせるのにふさわしい店。
「今だけ企画をやってますから」
とお店の方からアプローチされたからでなく、
「そろそろあの店に行ってあげなきゃ」
と気になってしょうがなくって行ってしまうような、
そんな店。
そういうお店の話を来週いたしましょうネ。
今からワクワクいたします。


2014-02-06-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN