平日の夜。
今と違って煙もくもく。
スーツ姿のおじさんたちが、ネクタイゆるめて
煙突みたいに煙草の煙を吐き出している。
小さなテーブルに二人で座って、
まず母は、長く伸ばした髪の毛を
後ろで束ねてゴム輪でとめる。
さぁ、飲む準備はできたわよ‥‥、って、
メニューを手にする。
すかさず、お店の人が来て
ホカホカのおしぼりを手渡しながら、
「何をお飲みになりますか?」って。
あら、飲み物注文から先にするのね‥‥、
と、飲み物のメニューを探してあたふたする母。
「こういうところでは、まず生ビールをたのむんだよ」
‥‥、と、訳知り顔で生を2杯。
中ジョッキでネ! と注文をする。
あら、あなたもこういうところじゃ
おじさんみたいに振る舞うのネ‥‥、と母に笑われ、
そうさ、ボクも男だからねと言い返す。
ビールがくるまで、メニューを眺める。
かなりの料理が揃っています。
100種類か150種類ほどもありましたか。
この中から注文を決めるのって、大変だわね‥‥、
と母はそれでもたのしげにメニューの隅から隅を読む。
そうするうちビールが届いて、それと一緒に小鉢が2つ。
「お通し」という奴ですね。
季節の素材でチャチャッと作った粋な料理がやってくる。
母がいいます。
これってまるでアミューズグールみたいなモノネ。
シャンパン飲んで、メニューをじっくり決めるまで、
テーブルや口が寂しくないように
最初に出される小さな料理。
それとおんなじ。
そう思ってみると生のビールはまるでシャンパン。
どちらも悩んで決めるものじゃない。
しかもどちらも泡がおいしく、
お腹をすかせて会話をはずませるに
十分な軽さと爽やかさと持っている。
なんだか私、居酒屋好きかもしれないわ‥‥、って。
ジョッキをガチャガチャあてて乾杯をして
プハーッと大きな息をつきました。
冷えたビールのおいしいコト。
二人はメニューを読み合わせながら、
あれにしようか、これにしようかと
ジョッキを片手にこころおきなくたのしく迷い、
注文が決まった頃にはジョッキはほぼ空。
食べたい料理を注文し、ついでにもう1杯ずつ、
ジョッキを頂戴ってコトになる。
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