194 コース料理のたのしみ方。 その2乾杯のタイミング。

飲食店の人件費は原料費との合計で
だいたい55%〜60%になるのが適正と言われます。
原価率が低いとその分、人件費を沢山とれる店になる。
原価率を低くするためには、売価を高くするか、
原価の安いモノを売り物にするか2種類の方法がある。
売価を高くするためにはサービスを良くしたり、
技術や経験を活かして
普通の人が作れないような料理を作るコトが必要となる。
つまり、人件費を沢山とらないと
つじつまが合わないコトになるのです。

一方、原価の安いものといえば
例えばコーヒーやアルコールのようなモノになりますか。
だから、ウィスキーやブランデーを
お水で割っただけのものを、
目玉が飛び出るほどの値段で売っている、
高級クラブなんていうお店は、
相当な給料をキレイなおねぇさんたちに
払うことができる体質、というコトができますネ。

レストランの経営側から考えた場合。
当然、ちょっとでも沢山の給料を
従業員に払えるようなお店にしたい。
ただ、お客様として考えると、
ちょっとでも安くおいしいモノを食べたい。
つまり、原価をたっぷりかけた料理を作って欲しい、
と思うのが、飲食店に対する
正直な気持ちなんじゃないかと思う。


飲食店の人たちはそれで悩みます。
自分たちのシアワセと、
お客様のシアワセを両立させるために、
何かいい方法はないかと悩む。
安い原価の商品で
お客様を十分納得させることができるシアワセな店。
例えばスターバックスの人たちは、あまり悩む必要がない。
あるいは、スターシェフがやっているような
どこよりも高い値段で料理を売って、
それでもお客様が「安い」と
感じてくれるようなお店の人も、
そういう悩みとは無縁かもしれない。
けれど、それ以外のほとんどの飲食店の人たちは、
「お客様にちょっとだけ我慢していただくこと」で、
この問題に折り合いをつける。

飲食店も商売ですから、しょうがないんです。
お客様に「どう我慢していただくか」は、
お店の性格によって3種類。

キーワードは「同時同卓」という言葉。

同じテーブルから頂戴した注文は、
同時に提供しなくちゃいけないという、
レストランのサービスの基本の基本。
それが「同時同卓」という考え方なのですネ。
いろんなお客様に喜んでいただこうと思ったら、
メニューの種類はある程度の品揃えをしなくちゃいけない。
俗にファミリーレストランみたいなお店の場合は
100種類ほど。
ビストロのようなお店でも
50種類前後は料理を用意しないと、
お客様が食べたいものをたのしく選んだという実感を
味わうことができないとも言われます。
4人でひとつのテーブルを囲んだお客様が、
みんな違ったメインディッシュをたのまれた。
そんなときには、4種類の料理を、
ほとんど同じタイミングで完成させて、
同じタイミングで提供しなくちゃいけないワケで、
それこそプロの経験と手際を必要とする
大変な作業になるのです。


お客様に料理を選んでいただくようなレストランだと、
4テーブルから5テーブルに
1人の調理人が調理することが望ましい。
そう言われることもあるほど。
例えば100席ほどのファミリーレストランの場合、
5人から6人ほどの調理人が
必要とされたりするのだけれど、
にもかかわらず人件費を抑えなくては利益が出ない。

ココで我慢のひと皿。
熟練していない調理人でもできる料理で
我慢していただくというモノ。
チェーンストアのほとんどが、
アルバイトやパートも調理スタッフとして使えるように
レシピや調理システムを工夫している。
そうしないと、いくつもの料理を同時に作れるだけの
人数のスタッフを使いながら
人件費を抑えることができないから。

レストランの中には
この「同時同卓」というシステムから
解放された業態もある。
料理を一人前づつではなくて、
1テーブル分づつ作ることができる、
例えば中国料理のレストランでは、
一般的に西洋料理や日本料理のお店よりも
少ない人数で調理ができるといわれてる。
居酒屋という業態はもっと面白くて、
彼らは複数のテーブルの料理を一度に作るコトで、
少ない人数で注文をこなす。
理由は、提供すべき料理の順番が
キチンときまっているわけじゃないから。
普通はまずは前菜、スープやサラダが
それに続いてメインディッシュという順番で
料理を作らなくちゃいけないのだけど、
居酒屋料理はすべてが前菜のようなモノ。
焼き物がまずでて、次にサラダ、
それから刺身という順番でもお客様は怒りはしない。
厨房では注文伝票がたまったものから、
「まずは刺身を10皿、次に焼き鳥を5皿」
といように作っていけばいいのです。

そこで2つ目の我慢が生まれる。
一人前ずつ順番通りに食べることを我慢する、
という我慢であります。

一人前ずつ味わいたい。
同時に料理を順番通り味わいたい。
しかもコストパフォーマンス高くたのしみたい‥‥、
と、そんなときに何を我慢すればいいのか‥‥。

答えはコース料理という料理スタイルの中にある。
さぁ、また来週といたしましょう。



2014-08-07-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN