まぁ、わかりにくい場所でした。
およそ飲食店がありそうに思えぬ住宅街のどまんなか。
しかも飲食店のように見えぬ事務所のような建物で、
看板なんかも出ていない。
ドアを開けると中はいきなり客席で、
全部で10個ほどのテーブルが並んでいましたか。
一つのテーブルが4人がけで、だから40人も入れば満席。
そんなに目立たぬ場所にありつつ、
人気のお店なのでしょう。
すでに6割方のテーブルが埋まっていて、
ボクらが座ると残りのテーブルもあと僅か。
扉にかかった鈴がなり、
それが新客来訪の合図なのでしょう。
キッチンの中から小さなおばぁさまが出てきて、
いらっしゃいませという。
予約した名前を告げると、テーブルに案内されて、
それからじっくりとお店の中を観察しました。
10テーブルですから普通ならば調理人が最低2人。
できれば3人ほどいてほしいところ。
それにサービススタッフもくわえれば
4人近くが働いていなければ、
よいサービスもよい商品も出てくるはずがない。
とそれが飲食店のセオリーなのでありますが。
なのに、なんと‥‥。
厨房の中にはコックコートを着たおじぃさまが一人だけ。
客席ホールに背中を向けて、しゃんと背筋を伸ばして
重たい鍋をふっている凛々しい姿に
熟練の粋を感じはするのだけれど、彼ひとりだけ。
出迎えてくれたおばぁさまは、
厨房の中で料理を待っているだけという、
これじゃぁスゴく
提供時間がかかってしまうに違いない。
なるほどこれが「怒りどころか」と思っていたら、
厨房の方から「できたよ!」と大きな声が。
そして次々、料理がテーブルの上に運ばれてくる。
まだ注文もしていないボクらのテーブルにも
人数分のお皿が並んだ。
表面が紅色に仕上がった香港風の叉焼。
白いネギを白髪に切って、香菜と一緒に盛り上げ、
沸騰させた白絞油をジュジュッとかけて風味を引き出す。
サイドにサックリ煮込んだ白豆。
五香粉の香りをつけたモノを散らした一皿。
あたたかい前菜のようでもあり、
軽い肉料理のようにもみえる。
ただ、中国料理の一番最初に提供するような料理ではなく、
オモシロイものを出してくるなぁ‥‥、とまずは思った。
思いながら、周りをみると、
なんとどこのテーブルにも同じ料理が提供されてる。
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