194 コース料理のたのしみ方。コースにおける料理には、それぞれ役割があるのです。

さて、コース料理。
前菜からはじまって、
デザートあるいはチーズに至るまでの
2時間、あるいは3時間。
世界中の美食に関心を持つ人たちの、
かつて聖地と言われた、
スペインのエル・ブリっていうお店に行ったときなんて、
お店に入ったのが6時前。
食事を終えてお店をでたのが翌日だった。
4時間をむかえる頃には疲労困憊。
みんなで勇気づけ合って、夜の11時を超える頃には
テーブルを囲むみんなの連帯感と、
シェフも含めてお店を満たす人たちの一体感で、
不思議な高揚感を覚えるほど。
とは言え、翌朝の朝ご飯は
カヴァをバレンシアオレンジで割ったミモザを
気付け薬代わりにするのがせいぜいでした。

レストランでの長丁場。
それが面倒くさくなったり、体力的に辛くなると
気軽な定食や、サンドイッチや蕎麦や
うどんがありがたいね‥‥、ってコトになる。
にも関わらずコース料理。
食べに行こうと思うと気持ちが明るく、豊かに盛り上がる。


コース料理とは「テーブルを囲む人たちの
コミュニケーションをなめらかにする」ために
人が発明した、もっとも優れた工夫のひとつ。
‥‥、だと思うのです。
そして、そのコース料理を構成する料理、ひとつひとつには
それぞれ独自の役割がふりわけられているのです。

例えば一般的なコース料理には、
次のような料理が用意されてる。

・アミューズブッシュ
・冷たい前菜
・温かい前菜
・スープ
・メインディッシュ
・デセール(デザート)
・プチフル

結婚披露宴の典型的なメニューでしょうか。
イタリア料理だと、パスタがスープのかわりをつとめる。
これだけ食べるとあっという間に
2時間なんて過ぎてしまう。
より丁寧で入念なもてなしのときには、
メインディッシュが魚と肉の2種類となり、
その両方の合間にグラニテ。
口直しの冷たい氷菓子が挟まったりする。
デザートの前に、チーズはいかが。
ついでに食後酒なんぞいかがでしょうか?
‥‥、となってくると、
3時間をはるかに超える晩餐となる。
それがコースという料理。
そしてそれら料理のひとつひとつに割り当てられた
役割というのが次のようなモノ。

・テーブルをさみしくさせないためのアミューズブッシュ
・厨房にココロの余裕をプレゼントする冷たい前菜
・シェフの料理の好みを教えてもらえる温かい前菜
・メインディッシュへの期待を整えるスープ
 (あるいはパスタ)
・テーブルを囲むみんなが互いに理解し合うための
 メインディッシュ
・会話の花を開かせるデセール
・たのしかった食事の余韻を味わうプチフルとお茶

と、こう考えるとコース料理の楽しみ方が
ちょっと変わってきませんか?


アミューズブッシュ。
テーブルにつくとまずやってくる、
突き出しのような小さな一品。
コース料理ならばコースの値段に含まれている。
けれどアラカルトで自分が食べたいモノだけ
注文するような店でも、
アミューズブッシュが出てくるコトがある。
これをテーブルチャージと思うと、
なんだか無駄なもののように感じてしまう。
居酒屋なんかで、ときおり問題になりますネ。
「お通し」なんていう、必要のないモノを
無理やり押し売りされた‥‥、って。
けれど、料理も飲み物も
なにもおかれていないテーブルを前に、
注文を決めたり、次の料理を待ったりするのは
とても虚しい。
だから「テーブルのために料理を置く」。
そういうココロの余裕が
ステキな食事のスタートを演出してくれると思えば
決して無駄なものとはいえないはずです。

それからコースがまず
冷たい前菜からスタートするというのも
テーブルをさみしくさせない工夫のひとつ。
冷前菜の代表的なモノといえば、
テリーヌのような料理。
事前準備で営業がスタートする前にほぼ出来上がっていて、注文が入ってから切り分け、それを盛りつけるだけで
料理の体裁が整っていく。
つまり、あまり時間をかけるコトなく。
しかもシェフ自らが手を下さなくても、
セカンドシェフやアシスタントで
十分、調理することができる料理がほとんどで、
冷前菜を作りながら
次の料理の準備をすることができもする。
いきなり手間のかかる料理を作れという。
そんな「シェフを不意打ち」するような料理ではない
冷たい前菜。

それで「厨房にココロの余裕をプレゼントする」料理だと、
ボクは思っているのです。

ところで和食においてコース仕立てとは
一体どんな構造になるのでしょうか。
来週ちょっと寄り道です。



2014-08-21-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN