そして、その「たのしい時間稼ぎ」の間に仕上がる料理。
それが「椀物」。
和食のお店の実力は、この椀物を食べればわかる。
そう言われるほど重要で、だから調理人が最も緊張し、
細心の注意とココロを込めて作る料理でもある。
それが椀物。
日本料理の基本は出汁。
その出汁の出来栄えを素直に味わうコトができる料理が
椀物で、つまり「厨房の力量と今日のコンディション」。
それと同時に「お店で働く人達の一体感」が
わかってしまう。
とてもデリケートな出汁。
その日の湿度やその日の温度。
場合によっては、お客様の年齢や性別で、
おいしいと感じる出汁の状態が変わるから、その都度作る。
作っては味をみて、ほどよいところでオーケーを出すのは
厨房の長の仕事で、
その「塩梅」ですべての料理の味が
決まるといってもいいほど。
しかも料理そのものの温度で
味が劇的に変わってしまうのも、椀物という料理の特徴。
厨房の中では、お椀の温度や具材の温度。
そして最後にかけまわし、
仕上げる出汁の温度すべてを計算し、
お客様の手元に届いたときに
一番おいしい状態をつくりだす。
その作り手の企み通りに料理がテーブルに着くように、
サービス係が機敏に、けれど優雅にお椀を配膳していく。
レストランという場所が
「料理でお客様をおもてなしする」
シアワセな場所であるためのチームワークが、
椀物という料理をおいしくさせるのですネ。
椀物を一口すすって、あぁ、おいしいと感心すると、
これから先の料理に対する期待がふくらむ。
あるいはこのお店の料理は
しっかりとした骨太料理なんだろうなぁ‥‥、とか、
繊細でやわらかな料理に違いないとか、
調理長の味の個性を感じることもできたりする。
そういう意味で日本料理の椀物は、
西洋料理における
「シェフの料理の好みを教えてもらえる温かい前菜」と
「メインディッシュへの期待を整えるスープ」という
2つの異なる料理の役割を
同時に果たしているというわけです。
だから椀物がやってきたら、
背筋をのばして香りをたのしみ、
味をたしかめ、給仕係にニッコリしながら、
「とてもおいしゅうございます」と、一言添える。
もし、好みと違った味であれば、さりげなく。
「今日はたくさん汗をかいたからかな‥‥、
ちょっと薄味に感じます」とか、
さらりと意見を告げてみる。
給仕係は急いで厨房に戻って、
あなたの気持ちを調理長に伝えるでしょう。
厨房を「あなた仕様」にするよきタイミング。
よきキッカケが椀物でもある。
さて、そこから西洋料理であれば
メインディッシュがはじまるのだけど‥‥。
はたして日本料理におけるメインディッシュって、
何なのでしょう?
来週一緒に考えましょう。
|