194 コース料理のたのしみ方。和食のお店の実力は、椀物でわかります。

西洋料理のコースにあたるモノ。
それが会席料理というコトになりましょうか。
そしてその会席料理はだいたい、
こんな流れで料理が提供されることになっているのです。

 ・先付(冷たい前菜)
 ・椀物(吸い物)
 ・向付(刺身)
 ・鉢魚(焼き物)
 ・強肴(煮物)
 ・止め肴(酢の物、または和え物)
 ・食事(ご飯・止め椀・香の物)
 ・水菓子

これを西洋料理的に読みとくと、どうなるか‥‥。


まず、一番最初の先付けは、
西洋料理における「アミューズブッシュ」と
「冷たい前菜」の両方の役目を果たす料理
というコトになるのでしょう。
日本の料理は目で味わうモノ。
そういわれるほど、見目麗しく装われた前菜料理に
調理人は力を入れます。

いくつかの前菜が何度かにわけて
提供されることもあります。
けれど、繊細な料理をより華やかにみせるため、
調理人はうつくしき舞台を用意する。
それがお膳であるとか、大きなお皿。
いくつもの料理を並べて、
あたかもひとつの宇宙をそこにつくりだすがごとき
趣向を最初にこらす。
そのため、毎日、毎日。
入念にして丁寧な下準備を
営業前にするのが和食の板場の仕事。

その目にうつくしい料理の数々を愛でながら、
酒をたしなむ。
目の前に並んだ料理には、
気の利いた会話のヒントがこめられています。
料理が盛りつけられた様々な器。
季節感にあふれた素材。
手の込んだ盛り付けに、
食材ひとつひとつに施された見事な手際。
見慣れた野菜が切り方ひとつで、
こんなうつくしい料理になるんだと、
おいしさ以外に口に出して
思わずいいたくなるようなおいしい発見が
テーブルの上のあちらこちらに。

食卓を囲むみんなの気持ちをほぐし、
次の料理への期待をふくらます。
その間、厨房の中では
次の料理への準備が着々とすすんでいる。
つまり、日本料理の先付けは、西洋料理の
「テーブルをさみしくさせないための
 アミューズブッシュ」と、
「厨房にココロの余裕をプレゼントする冷たい前菜」の
両方の機能をもった料理だ‥‥、

というコトができるのですね。


そして、その「たのしい時間稼ぎ」の間に仕上がる料理。
それが「椀物」。
和食のお店の実力は、この椀物を食べればわかる。
そう言われるほど重要で、だから調理人が最も緊張し、
細心の注意とココロを込めて作る料理でもある。
それが椀物。

日本料理の基本は出汁。
その出汁の出来栄えを素直に味わうコトができる料理が
椀物で、つまり「厨房の力量と今日のコンディション」。
それと同時に「お店で働く人達の一体感」が
わかってしまう。

とてもデリケートな出汁。
その日の湿度やその日の温度。
場合によっては、お客様の年齢や性別で、
おいしいと感じる出汁の状態が変わるから、その都度作る。
作っては味をみて、ほどよいところでオーケーを出すのは
厨房の長の仕事で、
その「塩梅」ですべての料理の味が
決まるといってもいいほど。

しかも料理そのものの温度で
味が劇的に変わってしまうのも、椀物という料理の特徴。
厨房の中では、お椀の温度や具材の温度。
そして最後にかけまわし、
仕上げる出汁の温度すべてを計算し、
お客様の手元に届いたときに
一番おいしい状態をつくりだす。
その作り手の企み通りに料理がテーブルに着くように、
サービス係が機敏に、けれど優雅にお椀を配膳していく。
レストランという場所が
「料理でお客様をおもてなしする」
シアワセな場所であるためのチームワークが、
椀物という料理をおいしくさせるのですネ。

椀物を一口すすって、あぁ、おいしいと感心すると、
これから先の料理に対する期待がふくらむ。
あるいはこのお店の料理は
しっかりとした骨太料理なんだろうなぁ‥‥、とか、
繊細でやわらかな料理に違いないとか、
調理長の味の個性を感じることもできたりする。
そういう意味で日本料理の椀物は、
西洋料理における
「シェフの料理の好みを教えてもらえる温かい前菜」と
「メインディッシュへの期待を整えるスープ」という
2つの異なる料理の役割を
同時に果たしているというわけです。

だから椀物がやってきたら、
背筋をのばして香りをたのしみ、
味をたしかめ、給仕係にニッコリしながら、
「とてもおいしゅうございます」と、一言添える。
もし、好みと違った味であれば、さりげなく。
「今日はたくさん汗をかいたからかな‥‥、
 ちょっと薄味に感じます」とか、
さらりと意見を告げてみる。
給仕係は急いで厨房に戻って、
あなたの気持ちを調理長に伝えるでしょう。
厨房を「あなた仕様」にするよきタイミング。
よきキッカケが椀物でもある。

さて、そこから西洋料理であれば
メインディッシュがはじまるのだけど‥‥。
はたして日本料理におけるメインディッシュって、
何なのでしょう?

来週一緒に考えましょう。



2014-08-28-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN