シンイチロウくん。
あのお店から電話がかかってきたんだけれど、
何かあったの?
ボクをそのお店に連れて行ってくれた件の先輩が、
ボクに聞きます。
デビュー失敗の数日後。
渋々、その日のことを報告しなくちゃいけなくなった。
思ったテーブルに座れなかったコト。
しかもそのテーブルには結局、
その日、誰も座ることがなかったコト。
以前、食べておいしかったからと
たのんだ料理がなかったコト。
恥をかかないよう、
高い料理やワインをたのんでしまったら、
思ったよりも高くなってしまったコト。
そして一緒に行った友人に、
以前来た時にはこうじゃなかった、
というようなコトを話してしまったコト。
それでそのとき、
先輩と一緒に来たと
いうようなコトを言ったんです‥‥、と。
どうして、行くときにボクに言ってくれなかったの?
もし、一言、教えてくれたら、
ボクから電話を入れてあげたのに‥‥、と、
そういう彼に、ボクはこう言う。
予約からひとりでやってみたかったんです。
人の力を借りないで、
おなじみさんになってやろうと思ってそれで。
けれどどうも上手くいかなかったようなんです。
ご迷惑をかけたようで、申し訳ありませんでした‥‥、
と謝った。
先輩、言います。
世の中にはネ。
自分で片付くことと、
自分だけではどうにもならないコトがある。
誰もにドアが開かれている、
気軽なレストランのなじみになるということと、
誰にでも開かれているわけではない、
特別なレストランのなじみになるということは、
まるで違ったことなんだ。
よほどの経験。
よほどの知識。
そしてその場の空気を理解する力量がないと、
永遠に特別なレストランは
ボクらのものにはならないんだよ。
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