194 レストランでの大失敗。その8。予約の心得、だいじな3つのコト。

さて、約束の木曜日。
6時40分を目指してお店に母と向かった。
6時40分なんて、
また中途半端な時間に予約を入れたわねぇ‥‥、
という母に、
記憶に残る時間を指定するといいんだってと説明し、
続けてそのとき、先輩から聞いた話を母にする。

先輩いわく。
はじめてのお店にいくときは、
ファーストゲストにならないことが無難なんだよ‥‥、
と、その日の予約の時間を選んだ理由をいいます。

どんなに熟練したサービスの達人も、
営業がはじまったばかりのときには調子がでない。
今日、最初のお客様がどんな方かと緊張するもの。
いらっしゃいませとドアをあける手もぎこちなく、
笑顔にもどこか緊張が混じってしまうモノなんですね。
オペラ歌手がステージに立つ前の
発声練習をみているような感覚とでもいえばいいかなぁ。
よほどの好事家はそういう場面を好んだりする。
けれど、はじめていく店を舞台裏をみて評価するのは
アンフェア。
お店そのものもエンジンがかかる前だから、
お客様の立場としてもどのようにふるまえばいいか、
良いサービスのキッカケを得るのに苦労する。
だからファーストゲストにはならぬこと。

そのお店に何度も通い、
その雰囲気がわかってきたら
あえてファーストゲストになるのもたのしい。
今日一日の営業がステキなモノになるように、
一緒にエンジンを回しましょうかと景気付けにお店に入る。
今日のおいしい食材だとか。
まだ本格的に忙しくはないシェフと話をしてみたり。
おなじみさんだからこそのたのしい時間を過ごせたりする。
でも初心者にはいささかハードル高い高等テクニック。



それからネ‥‥、標準的な日を選ぶコト。

飲食店には忙しい日や季節がある。
どんなお店も週末の金曜日には忙しくなる。
住宅地に近い店なら土曜、日曜。
オフィス街に近い場所なら週の前半。
月曜日は定休日をとるお店が多いから、
その日にやっている接待上手なお店は
かなり混雑することが多いのです。

季節で言えばクリスマス、
忘年会のシーズンなんかに、
今までいったことのないお店にいってみようか‥‥、
とお店選びのキッカケにするコトが良くあるけれど、
その時の状態でお店を判断するのは大きな間違い。

普通の日。
特別忙しくなく、
お店の実力が存分に発揮できるような日、季節。
特別暇で、お店の中にいると
寂しくなっちゃうようなことがない日を選ぶコト。



そして最後に、関係性のはっきりした人といく。

レストランにおけるサービスは、
テーブル単位でおこなわれるんだよね。
誰か一人だけをサービスするのでなくて、
テーブルを囲んだ人、みんながシアワセになるように、
いいお店の人たちは気を配る。
例えば、テーブルで交わされる会話を聞きながら、
お客様の今日の気持ちとか、何を目的に来たのかだとか、
お客様に合わせたサービスのキッカケを探そうとする。
そのとき。
テーブルを囲んだ人たちが、
どういう関係の人たちなのかがわかっていると、
さまざまなヒントは伝わりやすくなる。

その関係性が曖昧だと、お店の人は「気を使う」。

気を配る。
気を使う。
似ているけれど、気持ちの向かっていく方向性はまるで逆。

例えば、同じくらいの年齢の男女であれば夫婦か恋人。
さぁ、どちらだろう。

俗に、同行の女性よりも男性が先に座るときには夫婦。
女性を先に座らせてから、ニコニコしながら
ユッタリ着席する二人連れは恋人同士か大人の関係。
男性が女性の椅子を引いてあげるようなことがあれば、
それは秘密の関係で
女性に向かって「奥様」と呼ぶコトは控えたほうがいい。

‥‥、とそんなふうに「気を使われたり」するのです。

ただレディーファースト精神を
奥さんに対しても発揮しているだけなのに、
変な気遣いをされないですむように、
予約のときに一言添える。

「妻と一緒にまいりますから」‥‥、と。

お店の人もココロ構えができる。
ご主人と一緒に、奥様をおもてなしすれば
喜んでいただける‥‥、って。

だから「母をつれてまいりますから」という一言。
お店の人を味方につけて、
良いサービスを引き出すステキなキーワードなんだよ。

そう、先輩が言ってたよ。
と、そういうボクに母は
「あら、私を出汁にいい格好をしようっていう魂胆なのね」
と、いたずらっぽく笑います。
「母だなんて言わなければ、
 あの二人ってどんな関係なんだろう‥‥、って、
 ミステリアスなカップルを演じるコトもできたのに」
と、悔しそうにいたずらっぽく。

さて時間は6時35分過ぎ。
ドアを開けます。
また来週。

 

2014-11-20-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN