後に母は、この一言の意味をボクにこう説明する。
こちらにどうぞと一旦、案内されてしまったテーブル。
そこがどうしようもなく退屈で、
悲惨なテーブルだったとするじゃない?
でもそこで、ワタシはこんな席に座りたくないと
押し問答をする。
それってスゴく粋じゃないでしょ。
ふくれっ面でごねて別のテーブルを用意されて、
あちらへどうぞと移動する。
あぁ、なんて傲慢な人なんだろうって、
お店の人だけじゃなくて他のお客様からも疎まれる。
おしゃれじゃないでしょ?
何度も通って、なじみになったお店なら、
テーブルの好みを知ったスタッフを
信頼することもできるけれど、
はじめての店ではそんな人間関係もできてない。
だから案内される前に、つぶやくの。
今日はどのテーブルでたのしめばいいの?って。
その質問の答えから、
ワタシがどんなふうにお店の人から思われてるか‥‥、
もわかるでしょう?
来て欲しかったお客様。
どうもてなせばいいのか迷ってしまうお客様。
あるいは、ウェルカムされていない客。
答に応じて、それならこれからどうたのしもうか‥‥、
って戦略立てるヒントにもなる。
さて、木曜日の午後6時50分の答がこれ。
「ワタクシ共のサービスが行き届きますよう、
見通しのよいテーブルをご用意いたしました」。
そう、ボクが先日、友人と一緒に行って
座ったテーブルを示して、続いて
「もし落ち着いたお席がお好きでらっしゃいましたら、
そのようにご用意いたしますが」とくわえる。
あぁ、なんたる大人のやりとりでしょう。
さぁ、母がどう答えるかと待ってたら、
母は無言でボクを見つめる。
その母の右の眉毛の端がピクピク、しきりに動く。
「あなたの出番よ」という合図だろうと、
「エヘン」と軽く咳払い。
「せっかくだから、
サービスをたのしむテーブルをいただきませんか?」
と母に一言。
そのテーブルにどうぞと案内されながら、
母がポソリと「上出来ネ」と、小さくつぶやく。
そして座ったテーブルで、母はニッコリ。
「煮物は冷ましておいしくなるもの」とボクにいう。
熱いうちに煮物を食べてもおいしくはない。
冷ますからこそ、素材に味が入っていくのと
おんなじよ‥‥、と、
つまり「急いては事を仕損じる」の母的表現。
まさに、そう。
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