194 レストランでの大失敗。その10。料理の選び方は、スタッフに聞こう。

テーブル担当のスタッフがメニューをもってやってきます。
まず母に。
そしてボクに手わたして、
「いらっしゃいませ」とあらためて挨拶をする。

ボクは早速、メニューを開いて何を食べようかと
料理の名前をおいかける。
ところが母はメニューをそのままテーブルにおき、
スタッフの顔を見ながらニッコリ笑う。
そして一言。

「今日はどのようにたのしめばよろしいのかしら‥‥」
と、聞くのです。

そういえば、母は常々、
レストランでメニューがお客様を出迎えるそのあり方が、
料理のたのしみ方に対するメッセージだと言う。
テーブルについたときにすでにそこにメニューがあるとき。
それは、ご注文はお客様で自由に決めてくださいな‥‥、
という意思表示。
一方、お店の人からじかにメニューを手渡されたとき。
それは、私共からメニューを提案させていただいます、
というメッセージなんだと。
だから手渡されたメニューをしげしげと見るのは、
お店の人のメッセージを正しく受け取っていない、
というコトなんじゃないかと思うの。
あくまで私の素人考えなのだけれどネ‥‥、
と、付け加えながら言うのだけれど、
案外それは真理をついてる。
特に、初めて行くお店で
メニューをお店の人から直接手渡されたら、
メニューを開かずお店の人をじっと見る。
笑顔で見ながら、
「どのように注文すればいいのでしょうか?」
とまず聞いてからメニューを開く。
それが私の流儀なのと‥‥。

なるほど今日がそういう日。
ボクもメニューをテーブルにおき、お店の人の顔を見る。



まずは前菜をお一人様、ふた品ほど。
パスタをお二人でひとつシェアされ、
メインディッシュをひとつづつと、おすすめしております。
前菜でしたら、生ハムは
みなさまに召し上がっていただきたい当店自慢の一品。
モッツァレラチーズも本日は
水牛の乳で作ったものの用意がございます。
バジリコのスパゲティーを、
まだお召し上がりでないようであればぜひに。
それから、少食のお客様ならば、
メインディッシュもひとつシェアされても
十分な量かと存じます。

すかさず母は
「あら、メインディッシュをひとつずつ食べて、
三皿目を二人でシェアってコトじゃございませんのネ」
‥‥、と、いたずらっぽくクスッと笑う。

もしそのときには、仔牛のグリルを。
取り合いになってもう一皿、
お替わりしたくなること必至でございます故と、
あっさり見事な切り返し。
そうそう。
温かい前菜の代わりにシェフがぜひ、
ズッパディペッシェをおすすめしたいと言っておりました。
エビやイカ、白身の魚をトマトと煮込んだスープで、
体が芯から温まる季節のおすすめなんですよ。
では、ご注文がお決まりになられた頃に、
戻ってまいります。
ご質問がございましたら、
いつでもワタクシをお呼びください、
といいつつテーブルを後にする。



なるほどこれで、このお店の注文のルールや、
何を食べるべきかのイメージが頭の中にぼんやりできた。
それから開いたメニューの分かり易いコト。
なるほど、ここからここに書かれた料理の中から、
まずひとつ。
これらの料理からひとつ選べばいいんだなぁ‥‥、って、
メニューの中にガイドラインがひかれるのです。
しかもこんな大切なアドバイスを、
メニューを見ながら聞くのはなんとも申し訳ない。
顔を見ながら。
時に目と目を合わせながら。
互いの表情で反応をたしかめながら聞けば、
頭に自然に言葉が染みこんでくる。
レストランとたのしむというのは、
お店の人とのコミュニケーションを
たのしむことでもあるんだなぁ‥‥、と実感します。

しかもこの店がとても正直で、
良心的なお店だというコトがわかって感心もする。

さて、一体、どんなところに感心したのか。
来週といたします。

 

2014-12-04-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN