飲食店において、「おいしい」コトより
「おいしく感じてもらう」コトの方がずっと大事で大変で、
だから彼らは開店当初の身びいきが
いなくなるタイミングで
本当においしくするというテクニックを使うのですネ。
ちょっとズルいけど、
それもお客様をよろこばせるという工夫のひとつ。
大目にみましょう。
回転寿司の経営者の話はなおも続きます。
おいしくなったとお客様が思って、
うちのお店をひいきするようになってくれる。
その頃合いがだいたい、開業から半年目。
そこでもう一度、シャリの味を変えるんです。
「普通においしい」シャリに
「ひと味くわえた」シャリにする。
どんなひと味なんですか? と聞くと、
ワザとおいしくなくするんです‥‥、と。
それは立地やまわりの競争相手の状態に
あわせて変わるひと味なんだともいい、
例えば大人が多くやってくる店。
そこのシャリには酸味をたす。
お店によっては甘みをくわえたり、
苦味をくわえたりすることもある。
ただし本当にちょっとだけ。
よほどの舌の持ち主でなければ、わからないほど
少量、何かを足してやる。
お客様は「この店のシャリはおいしいシャリだ」
と思い込んでいるから、なかなか気づかない。
漠然とした違和感を覚えたとしても、
それを口に出すのははばかられるほど、わずかな一味が、
そのうちそこのお店の個性になっていく。
だって、自分のお店の料理を、
わざとおいしくなくする人はいないですから。
だからその3番目のシャリの味はオンリーワン。
おいしいモノはすぐ飽きる。
けれど、一風変わった「個性的な味」に慣れてしまうと、
なかなかそれから離れられない。
他の回転寿司を食べると
「あれ、これは変な味がする」と思ってしまう。
本当はそっちの方が普通においしい
シャリなのかもしれないのに、
慣れてしまった味をおいしく感じるように、
人間の舌や頭はできているのです‥‥、と。
|