積極的にお店を増やし、
チェーン店のようになりはじめてから、
経営者は公私混同しちゃいけないからと、
それで家を徒歩10分の距離に移した父。
けれどときおり、小さな公私混同が続きました。
「シンイチロウ、タレをちょっともらってきて」
と、食事時に言われてテクテク、お店までいく。
小さな密閉式の容器にお店で浸かっているタレを少々。
大抵50ccくらいだったでしょうか。
使い切り分をもらって帰る。
家にタレはあるのですけど、
どうしてもお店で使っているタレでなくては
出せない味があるからと、それでお店にもらいに行く。
「もとダレ」と呼ばれるタレ。
鰻を焼くための炭場の横に置かれた
瓶の中に入った大切なタレ。
串にさした鰻を焼きます。
遠火の直火でジリジリ焼かれ、
脂が滲んだ鰻をタレに串ごとジューッ。
浸すと蒸気を上げながら、脂をタレに落として代わりに
タレをタップリまとわせ再び炭場にのっかる。
煙を浴びてこんがり焦げて、再びジューッ。
それを何度も繰り返し、
おいしい蒲焼きができていくのだけど、
同時に何度も鰻を浸されたタレも
どんどんおいしくなっていく。
脂の甘みや煙の香り。
鰻自体の旨みも混じったタレを使って
炒め物や焼き物を作る。
炊きたてのタレでは出せぬ旨みが手に入るのです。
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