おいしい店とのつきあい方。

128 ごきげんな食いしん坊。その22
サンドイッチづくりに必要な包丁とまな板。

「切る」。
あるいは「切らない」ことで完成する料理。
サンドイッチとはそういう料理。
具材をパンで挟んで、そのまま切らずに噛むときと、
切って食べるのではまるで違った料理に感じる。
切る形でも食感、味わいが違って感じる。
長方形に切るとどこを食べても均一な食感、
三角形に切ると食べるところで
大きさ、食感が異なる不揃いな驚きを
楽しむことができたりする。
なによりキレイにスパッと切れたサンドイッチは
食欲をさそいます。

サンドイッチをキレイに切る!
‥‥、ということを
今日はいろいろ考えてみることにいたします。

用意するのはまな板と包丁。
まな板は2枚。
ひとつはいつも使っているまな板で、
具材を仕込むためのモノ。
もう1枚は、食パンが2枚、
ゆうゆうのる程度の小さなまな板。
できればイギリスパンをのせて
はみ出さない高さがあって、
パンを2枚並べて握りこぶしひとつ分ほどの
余裕がある幅のまな板が使い勝手が一番いい。

大きなまな板ではない方がいい理由は、
小さいほうが取り回しがききやすいから。
サンドイッチを切るとき、
切りやすい位置や角度があって、
サンドイッチを動かしたくなる。
でも、切る前のサンドイッチは
ただ重なりあっているだけのデリケートな料理です。
だから動かしちゃうと崩れてしまったり、
ズレてしまったりすることがある。

サンドイッチを動かすのでなく、まな板を動かす。
そのためには小さなまな板がとっても便利。

2枚、まな板を用意するのは乾いたまな板を使いたいから。
サンドイッチの具材のほとんどは水分を含んでいて、
それを仕込むと当然、まな板は濡れてしまう。
濡れたまな板の上にパンを置くと
パンも濡れてしまいます。
トーストなんて乾いていることが
おいしく食べるポイントだから、
濡れたまな板にのせると台無し。
だからサンドイッチを組み立て、
切り分けるためだけのまな板が1枚あると、
サンドイッチはおいしく出来る。

そして包丁。
サンドイッチをキレイに切ることができる包丁は
一体どんな包丁か?
これはかなり悩みました。
とあるフランス料理の有名店が、
サンドイッチ屋さんをオープンさせたい。
どんな包丁が一番キレイに
サンドイッチを切ることができるんだろうか? と、
100種類ほどの包丁を集めて試したコトがありました。

「よく切れる」包丁を次々試してみるのだけれど、
最初はほとんどが失敗でした。
パンが潰れてしまうのです。
理由は包丁の構造にありました。
ほとんどの包丁は、歯の部分が薄く、
上に向かっていくにしたがい分厚くなっていく楔構造。
切ろうとする食材に楔を打ち込み、押し切る切り方。
それでパンが潰れてしまう。

では、刃が薄く、しかも包丁の
どの部分も同じ薄さである包丁は?
そういう包丁は構造的に「切れ味の悪い」包丁です。

どうしようか‥‥、と悩みました。
そう言えばブレッドナイフの刃はそういう構造。
切れ味の悪さを、刃を波刃にすることで
パンの表面をとらえてはなさず、
固いパンもやわらかいパンも
スパッと切ってくれるナイフ。
取り寄せたブレッドナイフは10種類ほど。
確かにパンはキレイに切れる。
けれどサンドイッチとなると
具材によって得意不得意があるのです。

柔らかい具材が得意なナイフ。
チーズのような粘る素材が得意なナイフと、
これ一本でいろんな種類のサンドイッチを
切り分けることができるナイフがなかなか見つからない。

そんな中で、1本。
もともと冷凍食品を切るために
最適化されたナイフに出会いました。
ウェンガーというブランドの波刃スライサー。
凍った魚や肉というのは切るのに厄介な食材で、
赤身があったり脂があったり。
凍っているということはカチンカチンに固いようにみえて、そのかたまり方は均一じゃない。
いろんな硬さのものが混じり合った食材を
スパッと切ることができるナイフは、
つまりサンドイッチを切るのも
得意じゃないかと試してみると、
これが本当にキレイに切れる。
ボクにとっても、運命の一本との出会いでした。
それから15年ほど。
毎週必ず使いながら、今でも切味はびくともしない。

ちょっとしたコツがあります。

[1]パンは強くおさえない。
[2]ナイフを握らぬ手の親指と人差し指をそっと置く。
[3]2つの指の間にナイフをすべらせ、
細かく前後に動かしてナイフをパンになじませる。
[4]ナイフがパンをとらえたところで力をくわえて
ザクッと一気に下まで下ろす。
[5]このときなるべくナイフを前後に動かさぬこと。
[6]ナイフがまな板に当たったことを感じたら、
ナイフを左右に動かし、
サンドイッチがキレイに切れているか
どうかをたしかめる。

文字ではなかなか伝わらないですね。
動画を撮りたくなっちゃった(笑)。

あらあら、今日の本題のつもりでいた
「たっぷり卵サラダを挟んだサンドイッチの
フィリングをはみ出さないよう切る方法」。
そこにたどり着くまででページがつきてしまいました。
また来週のおたのしみ。

サカキシンイチロウさん
書き下ろしの書籍が刊行されました

『博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか
半径1時間30分のビジネスモデル』

発行年月:2015.12
出版社:ぴあ
サイズ:19cm/205p
ISBN:978-4-8356-2869-1
著者:サカキシンイチロウ
価格:1,296円(税込)
Amazon

「世界中のうまいものが東京には集まっているのに、
 どうして博多うどんのお店が東京にはないんだろう?
 いや、あることにはあるけど、少し違うのだ、
 私は博多で食べた、あのままの味が食べたいのだ。」

福岡一のソウルフードでありながら、
なぜか全国的には無名であり、
東京進出もしない博多うどん。
その魅力に取りつかれたサカキシンイチロウさんが、
理由を探るべく福岡に飛び、
「牧のうどん」「ウエスト」「かろのうろん」
「うどん平」「因幡うどん」などを食べ歩き、
なおかつ「牧のうどん」の工場に密着。
博多うどんの素晴らしさ、
東京出店をせずに福岡にとどまる理由、
そして、これまでの1000店以上の新規開店を
手がけてきた知識を総動員して
博多うどん東京進出シミュレーションを敢行!
その結末とは?
グルメ本でもあり、ビジネス本でもある
一冊となりました。

2017-09-07-THU