hobo Nikkan itoishinbun





第6回 眠れない夜
糸井 ぼくは、喘息になってよかったとまでは
とても言えませんけれど、
喘息のおかげで自分が得たものも
少なからずあるように思うんです。
たとえば、直感力とか、
何かを感じ取る力とか。


清水 ああ、わかります。
喘息を経験すると、敏感になりますよね。
自分の肺に対する意識であったりとか、
知覚について意識がものすごく強くなる。
そういう意味では、
プラスに働いている部分もあるとぼくも思います。
糸井 うん。自分のボディーを感じたり、
ほかの人がボディーを感じてるのがわかったり。
たとえば、今日、清水さんとはじめてお会いしても
呼吸のやり方みたいなものに覚えがあるんですよね。
「ああ、喘息の経験のある人だ」って。
清水 (笑)
糸井 喘息で発作が出てるときって、
横になってることがつらいから、
眠れなくて、起きますよね。
体がまっすぐになってると、まだましだから。
そういうときって、なにをしてました?
本読んだりとか、なにか、してました?
清水

ぼくは、イスに座って寝ます。
逆向きになって、背もたれにのしかかって。
そうやるしか、寝る方法がなくて。
ぼくの場合、喘息が起きる時間帯って、
夜中から朝方にかけてなんですけど、
絶対眠い時間じゃないですか。
でも、横になってしまうと、
ヒューヒュー音がして、寝れない。
そうすると起き上がる。それでも寝れない。

糸井 翌日、試合とかあったりするんですよね。
清水 あるので、無理やり寝るんだけど、
その体勢で寝るのは限度がありますよね。
それで、体力がどんどんどんどん低下していって、
悪循環に陥っていきますよね。
糸井 ぼくの場合は、つらくて眠れないときは、
起きてゲームをしてたんです。
当時は、ファミコンが出はじめたころで、
夜中にずいぶん助けてもらいましたね。
夢中になって『マリオ』とかやってると、
少し、治まるというか、忘れられたんですよ。
清水 ああ、意識がそちらに。
糸井 そうそう。
で、ゲームに疲れて、咳も治まってという
いいタイミングが来ると、寝られたんです。
清水 へぇー。
糸井 ぼく、それがきっかけで
ゲームを作る人になったんですもん。
感謝したんですよ。
これがオレを助けてくれた、みたいに。
清水

ああ、そうなんですか。
じゃあ、喘息じゃなかったら‥‥。

糸井 ゲームはつくってなかったでしょうね。
というか、あんなに熱心に
ゲームをやってなかったと思う。
もう、「喘息で眠れぬ夜の友」でしたから。
マリオをジャンプさせているときは楽なんです。
ゲームが直接に咳をとめてくれた
わけじゃないんですけど、
なにか、別のものに夢中になることが
自分を助けてくれることは学びましたね。

清水 喘息って、精神的なものも
すごく大きいんですよね。
ちょっとでも、変な空気吸ったりとかして、
「あ、ヤバイ」って思うと、
意識がどうしても肺に集中してしまったり。
糸井 自分の呼吸を必要以上に
意識しちゃうんですよね。
清水 そうなると、どんどん、どんどん、
弱いほう弱いほうへ流れてしまう。
糸井 そうですね。
だから、心の問題で解決しよう、
というのは、ずいぶん努力しましたね。
清水 それは、ぼくもそうとう。
糸井 「気合だ!」ってね(笑)。
清水 ええ(笑)。
糸井 それが、薬できちんと治るってなったら、
ある種、人生変わっちゃうくらいの
喜びありますよね。
清水 ありますね。
糸井 どんな感じでした?
清水 細かいことでいえば、
移動が怖くなくなったってことですね。
ぼくらは試合があるので、どうしても、
海外にせよ、国内にせよ、
いろんな地域のいろんな部屋を、
転々としていくわけじゃないですか。
それは喘息の人にとっては
ものすごいストレスなんです。
もう、つぎのホテルは
どんなところかというだけで‥‥。
糸井 怖いですね。
清水 はい。友達の家に泊まりに行くというだけで
ものすごく気をつかってましたし。
糸井 はいはいはい。
清水 若いころの友だちって、たいてい、
だらしなくて、部屋も汚くて(笑)。
糸井 わかる、わかる(笑)。
清水 友だちの家に遊びにいくたびに
発作を起こして帰ってきたりとか。
そういうのが、ものすごく怖かったんですけど、
いまは、移動に対してのストレスは
なくなりましたね。
糸井 それって、すごく大きな変化ですよね。
清水 それは、やはり、私生活において
ものすごい広がりですよね。
糸井 心も変わりますよね。
清水 はい。
 
(続きます)
2007-10-31-WED
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