ジューン・ブライド。 幸せになりたいと願う6月の花嫁が今年もどれほどいることだろう。
結婚式は、自分の心に寄り添ってくれる相手をそばに 「これから二人で頑張っていきます」と宣言する場で、 夫婦という時間は翌日からずっとずっと続いていく。
20代の後半に、私は親友の結婚式でスピーチを頼まれた。
新郎新婦は大学時代にアルバイト先のカフェで仕事仲間として知り合い、 大恋愛の末に晴れの日を迎えていた。 私は新婦と同じ大学のクラスメイトで、 彼らの出会いから結婚までをつぶさに見届けるに至ったので、 式当日は嬉しくて胸がいっぱいだった。
「大恋愛」と書いたが、彼らの結婚はそもそも、 彼女のひたむきなアプローチの結果でもあった。 彼の素朴で温かい人柄に惚れ込んだ彼女は、 とにかく一生懸命だったのだ。
二十歳やそこらの学生当時、 新婦はまだ友達にすらなれていない「気になるひと」のことを、 放課後の講義室で私にこう説明してくれた。 「アルバイトが終わる時間になって、 自分の仕事が先に片付いても彼はすぐに帰ったりしない。 誰に言われるでもなく、 人手が足りない仕事をさっと見つけては黙々と手伝っている。 それは、よく見ていないと誰も気づかないほどさりげない。」のだと。
ほんの少し共有したアルバイト先での時間で、 そうやって、新郎の人となり、人間の実の部分を 見る目を持っていた親友のことを私はさすがだと思っている。 二人にはどうか永く幸せな夫婦でいてほしい。
そう私がスピーチを終えたとき、新郎のお父さんが泣いていた。 予想外の展開だ。 けれども何だか嬉しかった。 私からの「結婚おめでとう」の気持ちは、 きっと新郎の家族にも伝わったに違いない。
今月ご紹介するブローチは、 100年以上の時を経た、夫婦二人の幸福な時間のかけら。 どれも、イギリスとアメリカの アンティーク・ディーラーから仕入れた品だ。
1890年代から1910年代ごろまで流行した、 平均して直径2〜3cmの小さな三日月のブローチ。 これらは夫が結婚したばかりの伴侶へ贈る特別なジュエリーで 「ハネムーン・ピン」と呼ばれた。 「ハネムーン」という言葉は、 現代では新婚旅行という意味で使われるが、 本来は結婚後最初の1ヶ月間のこと。 ハネムーンを示す三日月(ムーン)に、 愛情の深さや幸運を意味するモチーフ (つばめ、忘れな草、すみれ、クローバーなど)を 組み合わせたデザインが当時は一般的だったようだ。 多くは金製で、 ダイヤモンド、ルビー、シードパールなどで華を添えたものもある。
そんな中で、 私は三日月とクローバーのコンビネーションに一番心がときめく。 「しんとした夜に、三日月に照らされた小さなクローバー」なんて、 なかなか素敵だと思うのだ。
四葉のクローバーはご存じのとおり、幸せを運ぶとされるモチーフ。 さらに、ヴィクトリア時代には「私のものになってください」 という意味があったのだそうだ。 私は、夫から贈られた 三日月とクローバーのブローチを身につけた女性が、 周りも羨む幸せのオーラに包まれていた姿を想像する。
これらのブローチが、 これから結婚する誰かのもとにも幸せを運んでくれますように。
(つづきます)