今年『ナイン』は大当たりする!
去年は知らなかったくせに、応援します。


べ3

今日は『ナイン』の
冒頭のシーンについて
とっても詳しく書いてもらいました。


シェフ
ぼくらこの景(けい)を見学して
がつーんと、やられちゃったんだよね。

べ3
そうそう! しかもそれは
演出のデヴィッドさんが来日する前の
稽古だったんだけど。
それでも完璧に思えたんだけど。

シェフ
デヴィッドさんが来てからの
演出は、またものすごいらしいです。

べ3
お読みくださ〜い!

               
第六回 「序曲」から見せ場なのです。
               

『ナイン THE MUSICAL』が
『81/2』といちばん大きく違うのは、
登場する男性が「グイド」ひとりということです。
これはトミー・チューン演出の発明──と、
前回お話しましたが、
さらにトミー・チューン版とデヴィッド版とでは、
主人公「グイド」と女性たちの関係が全然違います。
デヴィッドはその違いを、
オープニングの演出から徹底させます。

トミー・チューン版の台本(ト書き)では、
「グイド」は自分の幻想に現れる女性たちを、
オーケストラのように指揮する、と書かれています。
けれどもデヴィッドは、
個性あふれるパワフルな16人の女性たちを、
「グイド」の力でまときれるとは思えない、
というところから演出をはじめています。
それが「序曲(オーバーチュア)」の場面です。

デヴィッドが稽古をはじめて2週間。
きょうはちょうど、冒頭の稽古に戻りました。
この「序曲(オーバーチュア)」の場面で、
デヴィッドが俳優になにを与え、
どういうふうにつくっていくか、
レポートしてみますね。

冒頭のシーンにはこれだけの
ドラマがこめられている!

映画の新作が思い浮かばず、
妻の話も耳に入らない「グイド・コンティーニ」、
彼を女たちが取り囲むシーン。
彼の人生に深く関わった女性16人──
それは「グイド」に迫る、セクシーな幻です。
デヴィッドは、「グイド」という男について、
こう説明します。

「好色とは違う、グルメなんだ。
 浮気じゃなくて、ひとりひとりに一生懸命、
 そのときそのとき相手を本当に愛してる。
 でも、すぐに別の女性を愛せちゃう。」

(出演者たちのクスクス笑い)

さらに、グイドを演じる別所さんに、
こういう演技の材料を与えます。
「16人の女性たちをみるとき、
 グルメなグイドはその量をみるんじゃなくて、
 ひとりひとりの質を感じてる、
 彼女たちとの具体的なできごとを思い浮べてる。
 出会いはほんの一秒でも、
 具体的な官能を感じるんだ」

そして、デヴィッドは、
グイドと16人の女性たちの関係を
セクシャルなエピソードで解き明かしていきます。
それは台本には書かれていないことです。
予めデヴィッドのなかで練られたイメージと、
演じる女優たちの個性とを、
いま、まさに稽古場で重ねながら、
ていねいに俳優に言葉で渡していきます。
稽古場を動き回り、自ら身振り手振りを交え、
たえず笑いをふりまきながらの姿は、
さながらデヴィッド・ルヴォーの魔術ショウです。

具体的には表現されない
女性たちのエピソードは?!

「ジュリエッタは‥‥
 ホテルの部屋のなかを
 追いかけられるのが好きな女性、
 蝶みたいなハートを持ったひと、
 最後にはちゃんと
 自分から捕まるんだけど‥‥」

(出演者、くすくす笑い)

「レナータは‥‥
 新人女優としてグイドに出会った。
 レストランに行ったとき、
 食べてるあいだも、
 やさしく絵の説明をしてくれた。
 そして店に誰もいなくなったとき、
 彼女をテーブルに座らせてから、
 押し倒し、コトにいたった‥‥」

(こらえきれない笑いがふきだす)

「マリアは寝る相手としては最高!
 ガム噛みながらでも
 セックスできちゃう、
 時間はかけない‥‥」

(スタッフも笑ってます)

「ダイアナは‥‥
 イギリスでファッション誌の
 仕事してたんだ。
 そのキャリアを捨てて
 グイドに会いに来た。
 映画の役がもらえると思って
 彼の部屋に──
 するとそこにはマリアがいて、
 グイドは3人で楽しむことに‥‥」

(もう、みんな大笑い)

「リリアンは尊敬の念を
 表すべき相手‥‥
 崇拝してみせなくちゃ、
 フランス人だから。
 フランス人相手のときは
 いつも18世紀にとどまって、
 宮廷夫人のつもりで
 接しなければ、だ。
 例外は許されない。
 彼女たちは目だけで
 オルガズムに達することができる!
 サロンでそういう
 訓練をしてきたから‥‥」

(だれも笑いがとまらない)


「ソフィアはインテリ‥‥
 学位を4つ、博士号も持ってる、
 学生として最高に
 権威ある論文を書いた。
 グイドはその頭脳と愛し合ってる。
 彼女はロマン派も語れるし、
 じつは写真家としても優れてる。
 ふたりは頭脳どうしの
 結合をしたんだ‥‥」

(デヴィッドの身振りもどんどん大きく)

「オルガとは‥‥
 連続8時間ベッドでワーグナー!
 激しく!
 オルガと遊ぶなら
 週末全部潰す覚悟がいる!
 彼女と愛し合うことは交響楽!」

(笑いにかき消されて、
 つづきはもう聞こえません!)

「サラギーナは知ってるんだ、
 とにかくグイドのことをなんでも。
 そのうちやばいことになるよと、
 見抜いていながら楽しんでる。
 イタリア男になりなとすすめた女性、
 彼女はいつもグイドを笑ってる」

(デヴィッド、絶好調)

「アナベラはなにかを覚えてる、
 グイドはなにをしたか覚えてない。
 アナベラの目は語ってる、
 『わたしわかってるから』って…
 たしかになにかあった気もする、
 でもなにがあったか知る日は
 相当きついことになりそう、
 まだ誰にも見られてない面を
 彼女には見られた!」

(別所さん、
 「俺はなにを見られたんだ?」)

「スパのマドンナは‥‥
 グイドがそう呼ぶだけで
 本当の名前じゃない。
 ロシア正教のイコンのように
 スピリチュアルな雰囲気、
 触れがたいものを持ってる、
 でも誘惑してるようにも思える、
 どっちともつかない。
 ゆうべ自分がしたことや、
 あした自分がすることを、
 全部知っているかのようなひと。
 完全に彼女を
 把握することは不可能だ、
 『おはようございます』
 というひと言が
 なにか含みがあるようにも
 感じてしまう、
 永遠に突き止めることはできない、
 彼女は許してくれる、
 平和を与えてくれる。
 なにかの力でグイドを守り、
 グイドになにかを伝えるために
 使わされたひと、天使!」

‥‥‥‥
これを16人分。
すべてが新鮮で信じられるエピソードになってます。
たしかに、さすがのグイド・コンティーニでも、
こんな女性たちが目の前に現われたら、
まとめられるはずがありません。
それどころか‥‥ねえ。

こうして俳優それぞれが、
自分の役に具体的なイメージをもって、
デヴィッドがイメージする「序曲」が生まれます。

去年秋の稽古場でも、
こういう時間がありましたが、
内容は少し変化しています。
いま、新しくこの場で演出されているのです。
新しくこの稽古場で、ということが、
俳優たちのエネルギーを引き出しているようにみえます。

女性たちがバラバラにまくしたてる声が、
いつのまにかコーラスへと変わっていきます。
個性の混沌から調和へ。
その美しさ、なんて言えばいいんでしょう。
それが『ナイン THE MUSICAL』の最初の見せ場です。

(つづきます!)



べ3
さて! いよいよ
東京公演のチケットの「ほぼ日」枠
来週月曜日、25日から
発売されます!

シェフ
大阪公演はすでに
メールで受け付けていますから
どうぞおはやめに!

べ3
ところできょうは
たくさん女優さんの画像が
出てきました。
きょうの更新で、舞台の画像がある方は
昨年からの同じキャストなんですよ。
連載のなかで順にご紹介を
していきますが、
きょうはまずひとり‥‥

シェフ
サラギーナ役の
田中利花さん!

べ3
このかた、愉快だよね!

シェフ
痛快だよね!
稽古を見学に行ったときに
自己紹介で
「吉永小百合です」って
おっしゃるんだもの。
思わず間違えちゃいそうだったよね。

べ3
返答に困ることを言わないでください。
えええと、すごおく、
楽しそうなかたですよね。

シェフ
ぼくも大好きです!
前から気になってました!

べ3
それはともかく
プロフィールを紹介してください。

シェフ
田中さんは初舞台の『ヘアー』で
圧倒的な存在感で
いきなり注目を集めた
ミュージカル女優であり、
パワフルなボーカリストでもあります。
たしか勝新太郎さんの
勝アカデミーの第一期生ですよね。
宮本亜門さんの『I GOT MERMAN』で
諏訪マリーさんや中島啓江さんとともに
大活躍なさいましたよね。

べ3
ミュージカル作品、多いですよね。
『リトルショップオブホラーズ』
『ビッグリバー』『紳士は金髪がお好き』
『下町のショーガール』『スサノオ』
『楽園伝説』‥‥

シェフ
劇団3〇〇にも客演なさってたよね。
『ナイン』は昨年に続いて二度目です。

べ3
あ、いまプロフィール見たら、
昔「保母さん」だったんだって!

シェフ
すごい! 教わりたかったね!

べ3
‥‥(???)
ともかく、とっても期待してます!

 

『ナイン』大阪公演初日まで
あと14日!


── 今までのタイトル ──

illustration=UNO


2005-04-22-FRI
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