今年『ナイン』は大当たりする! 去年は知らなかったくせに、応援します。 |
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 第六回 「序曲」から見せ場なのです。 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 『ナイン THE MUSICAL』が 『81/2』といちばん大きく違うのは、 登場する男性が「グイド」ひとりということです。 これはトミー・チューン演出の発明──と、 前回お話しましたが、 さらにトミー・チューン版とデヴィッド版とでは、 主人公「グイド」と女性たちの関係が全然違います。 デヴィッドはその違いを、 オープニングの演出から徹底させます。 トミー・チューン版の台本(ト書き)では、 「グイド」は自分の幻想に現れる女性たちを、 オーケストラのように指揮する、と書かれています。 けれどもデヴィッドは、 個性あふれるパワフルな16人の女性たちを、 「グイド」の力でまときれるとは思えない、 というところから演出をはじめています。 それが「序曲(オーバーチュア)」の場面です。 デヴィッドが稽古をはじめて2週間。 きょうはちょうど、冒頭の稽古に戻りました。 この「序曲(オーバーチュア)」の場面で、 デヴィッドが俳優になにを与え、 どういうふうにつくっていくか、 レポートしてみますね。
映画の新作が思い浮かばず、 妻の話も耳に入らない「グイド・コンティーニ」、 彼を女たちが取り囲むシーン。 彼の人生に深く関わった女性16人── それは「グイド」に迫る、セクシーな幻です。 デヴィッドは、「グイド」という男について、 こう説明します。 「好色とは違う、グルメなんだ。 浮気じゃなくて、ひとりひとりに一生懸命、 そのときそのとき相手を本当に愛してる。 でも、すぐに別の女性を愛せちゃう。」 (出演者たちのクスクス笑い) さらに、グイドを演じる別所さんに、 こういう演技の材料を与えます。 「16人の女性たちをみるとき、 グルメなグイドはその量をみるんじゃなくて、 ひとりひとりの質を感じてる、 彼女たちとの具体的なできごとを思い浮べてる。 出会いはほんの一秒でも、 具体的な官能を感じるんだ」 そして、デヴィッドは、 グイドと16人の女性たちの関係を セクシャルなエピソードで解き明かしていきます。 それは台本には書かれていないことです。 予めデヴィッドのなかで練られたイメージと、 演じる女優たちの個性とを、 いま、まさに稽古場で重ねながら、 ていねいに俳優に言葉で渡していきます。 稽古場を動き回り、自ら身振り手振りを交え、 たえず笑いをふりまきながらの姿は、 さながらデヴィッド・ルヴォーの魔術ショウです。
‥‥‥‥ これを16人分。 すべてが新鮮で信じられるエピソードになってます。 たしかに、さすがのグイド・コンティーニでも、 こんな女性たちが目の前に現われたら、 まとめられるはずがありません。 それどころか‥‥ねえ。 こうして俳優それぞれが、 自分の役に具体的なイメージをもって、 デヴィッドがイメージする「序曲」が生まれます。 去年秋の稽古場でも、 こういう時間がありましたが、 内容は少し変化しています。 いま、新しくこの場で演出されているのです。 新しくこの稽古場で、ということが、 俳優たちのエネルギーを引き出しているようにみえます。 女性たちがバラバラにまくしたてる声が、 いつのまにかコーラスへと変わっていきます。 個性の混沌から調和へ。 その美しさ、なんて言えばいいんでしょう。 それが『ナイン THE MUSICAL』の最初の見せ場です。 (つづきます!)
『ナイン』大阪公演初日まで illustration=UNO |
2005-04-22-FRI
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