糸井 |
僕の一番親しい仲畑貴志というコピーライターが
サン・アドという会社にいたんです。
そこにいた品田正平さんという
とても人に教えることもじょうずな、
人格も立派なコピーライターのかたが
仲畑くんのところに
「これを読んで書き写すと文章が上手になるぞ」
とチャペックの「園芸家12ヵ月」を
ポンと置いておいてくれたらしいんです。
文章表現などを学ぶんだったらこれだぞと、
品田さんが言ったということの意味が
ほんとうによくわかる本なんです。 |
重松 |
うんうん。
チャペックには、「山椒魚戦争」とか
たくさん長編もありますけれども、
短い、ほんと断片のような文章に
すごくいいのがたくさんあるんです。
短い言葉って短い分だけダラダラ書けないから、
ひとつひとつの言葉が持っている比重が高い。
チャペックって、新聞でずっと
コラムを書いていたんです。
だから、すべてをびっしり書けないメディアで
書き続けたことが大きいんです。
だから星新一さんってすごいなと思うのが、
小学生でもわかるまさに手垢のついた言葉なんだけど、
やっぱりゆるがせにできない強さがあるんですよ。
そうじゃなかったら、あの枚数で、
しかもあれだけの作品数を書けないわけですよ。
大人にとっての星新一さんといったら、
小学校時代に読んだなで
終わっているかもしれないけど、
もう一回戻ってみたら、
何か別の味わいがあると思うんです。 |
糸井 |
僕、星新一さんの本、
1001編のすごく分厚いやつ。
ここにおすすめで出そうか悩んだんですよ。
すばらしいですよね。 |
重松 |
小学校時代までさかのぼってもいいんだけど、
若いころや子供のころに読んで好きだった本って、
絶対に読み返していいんですよ。
なにかしらの好きな理由があるんだもん。
案外、一冊の本を好きになったり、
ひとつの言葉に胸を打たれたりする部分って
いくつになっても変わらないと思う。
だから僕は40歳を過ぎても
やっぱり永ちゃん格好いいな、
「成りあがり」格好いいなと思っている部分は
おそらく変わっていないと思うんですよ。
結構それって忘れがちだから、
ガキのころ、若いころに出会った言葉と
もう一回出会い直すって
大事なんじゃないかと僕は思っています。 |
糸井 |
うん、まさにそのとおりとしか言いようがないです。
星さんの作品にふれたのと同様に
誰でも一度は病にかかると言われている太宰治。
彼から離れられるということはないですね。
どこまで行っても太宰治はいますよね。
これは驚きますね。 |
重松 |
自分が親になってみると
「桜桃」が理解できるわけですよ。
歳を重ねることで印象もどんどん変わっていくから
何度でも出会ってほしいですね。
で、最後の「21世紀の国富論」の原丈人さん、
これはどのあたりがおすすめですか? |
糸井 |
僕が最近出会った、この人の話を聞いていると
きりがないというおもしろさを持っている人です。
人の会社に投資する人だったり、
人に会社を作らせる人。
アメリカにいて、日米の経済交渉なんかするときには、
アメリカ側のデスクに座っている人なんです。 |
重松 |
慶応からスタンフォードを出て、
シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリスト。
投資家のひとりらしいんですが‥‥。 |
糸井 |
そう聞くとちっともおもしろくないですよね。
考古学をやるためにお金が欲しくて、
お金を得るにはどうしたらいいかと思って、
お金を得るための勉強をしに
スタンフォードに行ったんです。
で、投資家になって大金持ちになり、
中継システムを作ったと思えば、
それらを使った教育システムを開発して
バングラディシュで教育を
普及させるようなことを‥‥って
しゃべっていくときりがないです。
だってそもそもは鉄道模型作る人の
助手だったりするんですよ。
原さんと何ができるだろうか、
というのが今年のテーマのひとつなんです。
でね、ときどき、怒りを感じている節が見えるんですよ。 |
重松 |
それはなぜ? |
糸井 |
日本のいろいろな変なリーダーたちへの怒りなんです。
たとえばいま、
共和党の経済顧問をやっているんですよ。
何でかというと、
自分が言っているようなことをまともに言うと、
コミュニストだとアメリカでは思われる。
コミュニストだと思われると、
もう全部がお釈迦になっちゃう。
でも、共和党の経済顧問をやっていると
絶対コミュニストだとは思われないわけです。
そういう2手、3手先を読む
囲碁の打ちかたみたいな用意周到さがあるんです。 |
重松 |
理由がきちんとしてるんですね。 |
糸井 |
ものすごくうまいんです。
そういう話をする機会がないから、
いろいろと話をしてくれる。 |
重松 |
話ができる場を糸井さんが作るんですね。
相づちに徹するとか。 |
糸井 |
うん、僕はアイヅチストですね。 |
重松 |
アイヅチスト(笑)。でも、わかります。
相づちってやっぱり人の話の肯定ですからね。
相づちを打つ力のほうが大事ですよ。
僕は言葉で生きている人間なので、
やっぱりそういう人と人の対話での言葉だったり、
本の言葉というものによって、
皆さんの人生の中で何かが大きく揺らいで
突破口がバーンと開いたりするといいなと思います。 |
糸井 |
本にしても物事にしても人にしても、
興味あることを探すというのは運もあるから、
本当に探している人は探せるし、
探してない人は探せないんですよ。
「おもしろいことないな」と言っている人は
本当にそう思っているんでしょうね。
でも、ないなじゃなくて、本当に探してないだけ、
単純にそういうことだと思うんですよ。
だから1年過ぎたあとで
「俺の1年ってこんなにいろいろあったんだ」
と思うのがいちばんおもしろいんです。
僕なんか、歳をとるにつれてそうなってきてます。
逆に若いときのほうがおもしろいことを探すのが
下手だったなと思うくらいです。
しり上がりにおもしろくなりますよ。 |
重松 |
うんうん。
おじさんになるのも捨てたもんじゃないな
というのが僕の最近の基本姿勢なんです。
やっぱり自分を肯定しておかないと。 |
糸井 |
自分に相づちを打つかのごとくね。 |