profile

八月のテーマは 白鳥

白鳥という鳥は、
ジュエリーのモチーフにしたいと人間に思わせる要素を
いくつも持っている。
形、色、習性のどれをとっても個性がある。
だから、この100年の間に白鳥のブローチは
いろんな国で作られてきたし、たくさんの人の手に渡っていった。

そんなわけで、イギリスの蚤の市を見ていても、
白鳥モチーフのヴィンテージのブローチはなかなかに数がある。
つまり、ちょっとグロテスクな白鳥、目つきが鋭い白鳥、
白鳥かどうか怪しい白鳥(!)、などもいて、
こちらも一筋縄には選べないのだ。
気を抜くと白鳥のブローチの海に溺れそうになる。
素材は、ラインストーンやイミテーションパールで装飾されたもの、
エナメルで色づけされたものが多い傾向にあるけれど、
たまに天然石やゴールドがふんだんに使われているものにも出合う。

私のなかでの白鳥の魅力は、
その細い首を曲げたときの優美で繊細なシルエットと、
決してフェミニンではないキリッとした白い色とのバランスだ。
イギリスは白鳥の保護に力を入れている国なので(※)、
川や公園の池へ行くとよく見かけるけれど、
そばまで寄って大人の白鳥を観察すると、その名前にふさわしく、
眩しいほどの白い羽にしっかりと覆われていて見入ってしまう。

自然界にはさまざまな白があって、
具体的にいうと、雪の白はどんなに降り積もってももともとが水だから
どこか透明感があるのに比べ、
白鳥の羽は油脂に覆われているせいか、
他の色が混ざり得ない、強さが感じられる白だ。

私は、たとえ銀やプラスチックといった素材でも、
そんな本物の白鳥の色や水辺を泳ぐ姿がちゃんと伝わってくる
白鳥ブローチが理想的だと思っている。

今月ご紹介する3点は、素材も値段もそれぞれ全く異なるけれど、
上の理想を満たしてくれていたので
即決でヴィンテージディーラーから買い求めたブローチだ。

白鳥は生涯をともにするのはたった一羽だけで、
そのつがいの相手をとても大切にする鳥だという。
そのため、ジュエリーの世界では
「変わらぬ愛」のシンボルとされている。
ひいては夫婦や恋人の贈り物にされることも多いから、
最終的に白鳥(愛)を手にする人の笑顔を想像しながら、
こちらも探す楽しさがあるのだった。


イギリスでは12世紀に、国中にいる白鳥は全て
王の所有物だった時代があった。
その名残で、現在もミュートスワンと呼ばれるコブハクチョウは、
エリザベス女王に認められた業者によって
脚に印がつけられたもの以外は、女王のものとされている。
また、許可なく捕獲すると犯罪とみなされる。
毎年7月に、テムズ川では「スワンアッピング」という
白鳥の生息数と健康チェックを行う伝統的なセレモニーがあって、
そこで得られた数字は白鳥を保護するためのリサーチに使われる。

(つづきます)

 
2013-08-19-MON


まえへ このコンテンツのトップへ つぎへ


感想をおくる
「ほぼ日」ホームへ
ツイートする facebookでシェアする
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN