ロンドンで私がよく行くいくつかの蚤の市では、 アンティークやヴィンテージの品物を扱うディーラーたちの年齢は 50〜70歳といったところだ。 そして、新たに加わった若手ディーラーの数より、 もう隠居するからと店をたたみ去っていくベテランのほうが多い。 だから、それぞれの会場の規模は年々小さくなってきている。
10年前に私がこの国にやってきたときは、 もっとたくさんのディーラーがいた。 珍しいデザインの古ボタンをストール(出店)に ぎっしり並べていた老夫婦、 アンティークレースのコレクションが見事だったおばあさん。 いつの間にかいなくなっていた。 あれ、おかしいな。今日はあの人お休みかな、と思い、 数回そんなことが続いて、店を閉めたんだと分かったときの淋しさ。
人が歳をとるのは止められないし、 お気に入りのディーラーが ビジネスを永遠につづけてくれる保証なんてどこにもない。 けれど、できることならずっと彼らのもとで宝探しをしていたい。 掘り出し物が見つかるのは、やっぱり何十年と品物を探し、 審美眼を鍛えてきたディーラーの、年季の入ったストールなのだ。
上の写真は、5年前に撮った大好きなヴィンテージディーラーと 彼女のストール。 1920-60年くらいに作られたジュエリーや 布小物で素敵な品物が必ず見つかるので、通うのが楽しみだった。 ところが、ある時から彼女も姿を見せなくなり、 今は娘さんがかわりに店を切り盛りしている。品揃えも少し変わった。
仕事以外でのつきあいはなかったけれど、 品物の中からこれとこれを見たいです、とお願いすると、 いつもこんな笑顔で、素材や出どころについて丁寧に説明してくれた。 たくさん勉強させてもらったこと、ちゃんとお礼も言えていない。
娘さんを蚤の市で見かけるたび私は 「お母さんはお元気ですか?」と尋ねる。 「疲れやすいってこぼしてるけどね、元気よ。」などと聞き、 心の中でホッとする。 たまには顔を出してくれないかな、会いたいな、と思いながら、 私はいつもそのストールを後にするのだ。
(九月の更新へ、つづきます)