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ある日の日記(7)

ロンドンのV&A(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)で、
現在「Pearls」という展覧会が行われている。


ローマ帝国時代から現代にいたるまでに、
パールが人々にもたらしたもの、その歴史にスポットをあてる内容だ。
連動したワークショップも企画され、
私も先日、「Introducing Pearls」という
V&A主催のパールの勉強会へ行ってきた。



当日のタイムスケジュール。

司会役のV&Aの職員Mary。

講師はOrganic Gems(動物や植物の一部がもとになっている、
パールや琥珀といった天然の宝石類)の専門家
Maggie Campbell Pedersen、
「Pearls」展のキュレーターBeatriz Chadour-Sampson、
イギリス王室や大英博物館等が所有する宝石類のコンサルティングと
鑑定を行っている宝石学者Nigel Brian Israelの3人。

参加者は100人ほどで、ほとんどが女性。
皆、ちゃんと何かしらパールのジュエリーを身につけていて、
ムードを大切にし講義を楽しもうとする積極的な姿勢はイギリスらしく、
好ましいと感じた。



Maggieによる、マベパールの断面図と構造のスライド。


X線によるパールの鑑定方法を説明。
パールの中央に核が見えるのが養殖、見えないものが天然。

最初に壇上にあがったMaggieは、
パールの構造と生成に必要な条件、
環境汚染のせいで良質のパールを年々採取するのが
難しくなってきていること、
丸い形状のみが価値あるパールというわけではない、という話題へ。
とくに面白かったのは、
世の中には紫外線に当たると白っぽく劣化してしまう
オレンジ色の特殊なパールがあって、
そうしたジュエリーは夜しか身につけられないため
「Night Time Jewellery」と呼ばれており、
非常に高価な値がついている、という話。
また、彼女は「パールの輝きは永遠には続かない」
という点を強調していた。
それだけデリケートな素材で
常日頃から手入れも大事だということだ。

続いて、キュレーターのBeatrizは、
ビザンティン帝国時代の個性的なパールの装飾品を
スライドで見せながら、徐々に年代を進め、
ルネサンス時代にパールが「愛」のシンボルであったこと、
アールヌーボーの時代には
むしろ変形したバロックパールが自然美としてもてはやされ、
いびつな形に想像力をかきたてられたデザイナーたちが
パールを動物の体や船の帆の部分などに見立てて
ブローチ等を製作した話、
ファッションにおけるパールの歴史を紹介した。

宝石学者のNigelは、
イギリス史上最高額のパール盗難事件の笑い話を披露。
ロンドンの某銀行に保管されていたそのパールのネックレスが、
ある日、白い丸砂糖に糸をとおしたものにすり替えられており、
大騒ぎになった。
そして結局、犯人は見つからなかったのだそう。
また、100年以上前にパールの価格を決める
基準となっていた古書を私たちに見せて、
どういった人物がどのようにパールの研究をしていたか、
という学術的な分野に話を広げた。

Nigelが所有する専門書を映したスライド。

日本人として私が嬉しかったのは、
講義全体を通してたびたび「Mikimoto」の名前があがったことだ。
世界で初めて養殖のパールを作ることに成功した
御木本幸吉のミキモトパールは、
1910年代にイギリスへ進出した際、
イギリスのパール業界を震撼させたという。
偽物でもない、天然でもない養殖パールの登場。
当初は誰もミキモトのパールと天然パールを
見分けることができなかったため、
イギリスでパールの価値が暴落する事態になったそうだ。
その後、X線で撮影して養殖パールと天然パールを
見分ける方法が見いだされたが、
ミキモトパールを本物のパールと呼べるかどうか、
論争が巻き起こった。
(結果、本物と認定され今にいたる。)

真珠の販売において世界一のシェアを誇るミキモトの逸話を、
ここイギリスでいくつも聞かされ、
日本のパールが海外で
このように長らく注目されていることに私はとても感心した。

最後に、2013年から日本の田崎真珠で
M/Gコレクションを展開している
ロンドン在住の若手ジュエリーデザイナー
Melanie Georgacopoulosが、複数のデザイナーによる
パールを用いたコンテンポラリージュエリーを紹介し、
「パールに未来はあるか」というテーマに前向きな意見を述べた。
パールを大胆に半分にスライスしたMelanieのパールジュエリーは、
確かに新時代を感じさせるデザインだ。
そのあと質疑応答の時間があり、勉強会は終了。
午前11時から午後4時半までという長丁場だったが、
充実した時間で私にはあっという間だった。

質疑応答の様子。参加者たちが次々と手をあげていた。

V&Aの展覧会「Pearls」は2014年1月19日まで開催。
※上のそれぞれの写真はV&Aの許可を得て掲載したもの。

(十一月の更新へ、つづきます)


2013-10-20-SUN

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