糸井 |
宮本さん、嬉しい? 今回の「ピクミン」。 |
宮本 |
そりゃあうれしいですよ!
いままで思惑はいっぱいあったけど
やっとカタチになったわけだから。
糸井さんに、
「マリオの代わりのキャラクター作りなよ」
って言われたこともありましたね。
キャラといえば、ピクミンも最初から
この姿だったわけじゃなくて、
企画スタートから
何案かの検討を経ています。
で、「よし、このキャラクターで行こう!」
となってから、仕様の決定に
けっこう時間がかかりましたよ。 |
糸井 |
ほんとの理想から言ったら
その絵が決まって「これでできるはずだ」って
なったら、あとはチームに任せて、宮本は去っていく。
……っていうことなんでしょうね。 |
宮本 |
そうですね……。
キャラが決まった時点でも
仕様が固まってたわけじゃないですしね。
でも、かなり現場のレベルは高くなりましたよ。
ちょっとつまづいているところを直すだけで
あとは動きますからね。
今回、僕が(制作に)入ったと言いますけれど、
たしかに“濃く”入ったんですが
期間的に“ものすごく長く”は入っていないんです。
ふつう「入る」っていったら、
初期三ヶ月入り、中盤二ヶ月入り、
終盤三ヶ月入り、とかなるんですけれど
ピクミンは、最初ちょこっと入って、中盤と終盤に
それぞれ一ヶ月ずつ入ったという感じです。
仕様は書いているんですけれど…… |
糸井 |
仕様というのは、ようするに、
宮本さんがやりたかったことで
「ディティールだけど、これだけは入れないと
僕じゃないんだよな」
という部分ですか?
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宮本 |
そういうこともあるんですが、
今回はどちらかというと骨組みの部分です。
こういう骨組みが大事なので、という。
そのなかでこれとこれは外さないように、と。 |
糸井 |
あるディティールにシンボライズされる
骨組みにかかわる部分というのは
本人じゃなければわからないわけですよね。 |
宮本 |
そうですね。 |
糸井 |
ピクミンたちが敵のエサになっちゃうとか、
敵を倒すと死んでしまうとか、
主人公のオリマーが失敗したらどうなるのかとか、
そういう「生きる死ぬ」に関するルールというのは
宮本さんのなかにちゃんとあるわけですよね。
それは、宮本さんだけが指示できることなんですか?
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宮本 |
それが、今回は僕ひとりではなかったんです。
ディレクターがいて、その彼と、
そこは、ずれてなかったんですよ。 |
糸井 |
それは、すごいな。 |
宮本 |
そういうところはずれていなかった。
だから僕の方が、たとえばモニターの意見を聞いて
弱気になると、ディレクターのほうが
「いえ、これで行きましょうよ!」
と強気に言ってくれるくらいだったので、
そこはラクでしたね。 |
糸井 |
ディレクターが、すごくいい「叔父さん」のような
役割をしてくれたんですね。
宮本さんが「お父さん」だとすると。
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宮本 |
どっちが「お父さん」かな?
ディレクターは制作の現場で
「産みの苦しみ」を味わってるし。 |
糸井 |
「不時着したロケット」というコンセプトは
最初から? あれは、あとからでしょう? |
宮本 |
ああいうのは「手法」のひとつなんですよ。
それがいちばんシンプルでわかりやすいから
そうしたんです。 |
糸井 |
隔絶した社会をつくりたかったわけですよね。
あの世界がよその世界と交流したりすると
えらいことになるわけですよね。 |
宮本 |
そうですね。戦略的には
「重厚長大ではなく、シンプルに深いものを作る」
ていう作戦でもあるし
複数の世界が交錯すると、
その分、スタッフに余計な仕事を
いっぱいつくってしまうことになるし。
だからなるべくそういうことはやらないようにしました。
あとね、ゲームもいろいろあるけど
「はじめに世界観ありき」
という作り方もあるでしょう?
でもピクミンは、
「世界観がどーんとあって、
それと格闘しながらゲームを作る」
というやり方ではない。
ピクミンという遊びの骨組みだけをつくって
それに最適な世界、最低限必要な世界は何か、
ということだけで、つくろうと思ったんです。
だから「素材そのもの」みたいなゲームなんですよ。
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糸井 |
うん。 |
宮本 |
ゼルダなんかをつくったとき、
ムービーとか演出にどんどんとらわれて、
つくる本質を見失うみたいなことになりがちだった
ということを反省点として、
ほんとうにピクミンで必要なことはなんなのかを
見失わないようにしよう、と進めたんです。
だから、人数も、すごく少なくてすんだんですよ。 |
糸井 |
えっ。これ、何人くらいでやっているんですか。
50人くらい? |
宮本 |
いや、メインの人たちは……
いい加減に数えたら怒られちゃうかな。
6~7人なんですよ。
それで、本格的に制作に入って
20名ちょっとくらいですよね。
ほんとうの追い込みになって30人弱。
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糸井 |
はあ……(感嘆)。 |
宮本 |
音楽に何人だとか
エフェクトをつくるのに何人応援しているだとか
そういうふうには増えていくんですけれど
ゲームをつくっているのは、
ほんとに20人くらいなんですよ。 |
糸井 |
すごい……。 |
宮本 |
だから、ゲームの大きさを、
買った値段の価値として求める人からは
「ゲームのボリュームがちょっと小さい」
とか言われるかもわかりません。
実際は遊べる時間が長いので
気にしていないですけどね。
同じフィールドで二回目・三回目と
違う遊び方をしていくゲームだから。
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糸井 |
実際、遊んでみると、そんなことはないけどね(笑)。
けれども、小さい・大きいというのを
思わせない「なにか」というのをどうするか、
というところですよね。キャラクターの魅力だとか。
前から宮本さんから聞いていたんですけれど、
「違うタイプの、見たことないゲームを作りたい」
と言っていましたよね。
それでムジュラだとか、ああいうことを繰り返してきて、
いま、ここに来たんだ、と思ったんです。
一本のゲームを宮本さんが永遠に作るんだとしたら、
どんどん磨き込めるだろうし、
いろんなふうに広げられるだろうけれど、
広げることじゃなくて、
「私は何をやりたいんだ」というのを
いっぱい持っているというのが、
人間だと思うんです。
時代劇を読めば時代劇の人になるでしょう?
それが、何かのときに、いろんなニュアンスを
自分の中に入れて、新しい栄養をつけては
違う筋肉を鍛えている、みたいな……。
それで、いま、宮本さんは
「ピクミン」に来たんだなあ、という
感慨が、僕には、ありました。
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宮本 |
なるほど。
ゲームの話ばっかりしてぼくがしゃべっていると
いつも同じ話になるので、
今日はイトイさんに聞いて貰えるから
何が出てくるか楽しみだったんですけれど(笑)。 |
糸井 |
ありがとうございます(笑)。僕もぜひ話したいと思って
ここに、来たんです。
僕はピクミンをやってみて
「ゲームの外側がゲームになったんだ」
ということを、思いましたよ。
そしてそれって、じつは、
いま自分の考えていることと同じなんです。 |
宮本 |
おお? |
糸井 |
つまり、宮本さんはゲームというものをつくっているけれど、
じつはゲームをやるひとと、つくるひとっていうのは、
それぞれに、じつは、別の世界を持っているわけですよね。
みんなが別の暮らしかたをしている。
それを「合同させる」ことが
いちばん面白いゲームだと思ったんです。
たとえば、さっき、広報のクラツネくんが
「僕のポケットからピクミンのストラップが出ていたら
下から、コドモの、強い視線を感じたんですよ」
と言っていたけれど、それって、そのことじたいが、
すでに「ゲーム」じゃないですか。
そこのところに、商品にならないゲームというのが
無数に増えていくわけですよね。
そうかと思うと、このゲームの攻略本を
ほぼ日でも連載している
“テレコマン”の永田くんがつくっている。
それもまたゲームなわけです。
そして僕もまた「宮本さんに会いたい!」って
思って、こうして京都に来ている。
みんな自分が意志をもって動いているわけだけれど
「ピクミン」がなかったら動かなかったわけです。
軸になるものとしてね。
そういうふうに、人が心を動かされて
動いてしまう、その“道すじ”をつくってあげることって
僕も、おんなじように、やりたいことなんです。
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宮本 |
うん。 |
糸井 |
僕がいまそう思っているのと、
宮本さんがいま、ゲームを作りながら
考えていることが重なって、
ちょっと、ジーン、って。(笑) |
宮本 |
(笑)。 |
もちろん、続きます!