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宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」

 

ちょこっと間があいてしまって、ごめんなさい!
「樹の上の秘密基地」ピクミンのシリーズ第2回は
darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の続きを
お届けいたしますよ!
これまで「マリオ」シリーズや「ゼルダ」シリーズを
つくってきた宮本さんが、
どうしてあえて無名のものを作ろうと思ったのか。
ゲームの目的っていったいなんなんだろう?
そういったお話が、続いています。糸井:
僕が、最後にそこに行きたいって思っているのが
「人が住む、生きる、を設計する」
ということなんです。
ちょっとおおげさに聞こえるかもしれないんですが。
そういうことを考えるのって、
歳をとったせいもあるのかな。

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宮本 歳をとったから、というのとは違う気がしますよ(笑)。
糸井 そうか。たしかに、
子供のときからそうだったかもしれません。
宮本さんにとって、ピクミンの世界観って、
大人になってから発見したものでしたか?
それとも、子供の頃から
宮本さんの中にあったものなんでしょうか?
宮本 子供を自分が育てたとか、
動物を飼うとか、部下との人間関係とかは、
たしかに大人になってからの経験が関係しているけれど、
僕の根底にあるものだ、とも言えるでしょうね。
基本的には、わりと子供のころやっていたことを
論理的に考えれば、とか、
もっと面白くするには何があったかって考えると、
こういうものになったんだろう、と思うんです。
大人になったから考えることができたんだな、
と思うことは……
「スタッフの能力を有効に活かすには
 どうしたらいいんだろう?」
ということですね。
糸井 ああ、おんなじです!
宮本 すごく考えるんですよ、そのことを。
みんなが「おれがつくったんだ」って思ってくれるのが
理想なんですよ。

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糸井 そのこと、この間、書いたばかりなんですよ。
あの仕事は僕がやったんだって
あちこちでホラをふいているのが理想ですよね。
そういえば、歌(愛のうた)、ヒットしましたね。
宮本 「歌」という方法を引き出せたことが凄かったですね。
偉いと思うんです。
ぼくは、これにかんしては
ピクミンというソフトをつくった、というだけで
別に作曲したわけじゃない。
だから、僕じゃないところで、
こういうふうに関係者が動いた、ってことが
面白い、凄い、と思っているんです。
彼らが、「自分のものだ」と思って
作ってくれたわけですから。
ゲームをつくっている最中も、
そういう(スタッフが、自分の作品と
して作っていくプライドを持つ)進め方を
心がけていますよ。
なかなかそこまでケアするのは難しいですけれどね。

糸井 ビジネスだけで世界を見ているひとたちは
「これができる、あれができる」ということを
すべて、商品として成り立たせることができる、
と思っていますよね。
でも、そこに意味はないと思うんです。
そこをやりたいのだったら
そこまでは行くだろうけれど、
そこまでしか行かない、とも言えますよね。
消費のやりとりではなくて、情報の流通だとか、
人間関係がかわっていくだとか、
新しい人に知りあう、新しい出来事に出会う、
なんていうのは「商品化」できるわけではないですよね。
でもそっちが広がらないと「商品」は作れません。
宮本 ええ。
糸井 この大きな流れで言うと、ゲーム作家は、
最終的には金で買えない人間っていう人たちを
“ゲーム”したくなるんです。
そう言うとナマイキに聞こえるんだけれど、
ゲーム作家は、
みんながそう思っているんですよ。
僕らが『売れたら嬉しい』っていう気持ちって
売れて幾らになるかということ以上に、
それだけの人がワサワサした、
ということが嬉しいわけでしょう?

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宮本 そうですね。
糸井 その人数がワサワサするというのが
ゲームの目的なんですよね。
最初から、きっと。
宮本 マーチャンダイジング、ということに関して、
もしイヤなことがおこるとしたら、
そこには何でものせられる、
という考え方が根底にある場合ですね。
糸井 皿が有れば料理がのせられる。
宮本 そう、そこに「のせてもらえる」という考え。
それがすごくイヤでね。
何もしなくても買いに来るのが理想や! と
思いたいですよね。
けれどそれはオトナじゃないよ、って言われますよね。
だから、それは皿にのっているけれど、
それじたいも皿にのっていることで生きている、
と思える展開を考えるし、そういう展開になるものです。
ゲームのなかでも、
「わざとらしいアイデア」と
「溶け込んだアイデア」の差って
そういうものだと思うんですよ。

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糸井 なんでそんなことがやりたいのかわからないけれど
ちっちゃいときからそうですよね。
歳をとったからそのことの意味がわかったんだろうね。
たとえば宮崎さんがジブリ美術館を造りましたね。
あれだって、大きく言えば
「都市計画」ですよね。すごく小さなものですけれど。
あれはビジネスとしてなりたたたないかもしれないと
いうところで、宮崎さん、やっている。
何がしたかったかっていうと、
小さなディズニーランドですよね。
ディズニーがなぜディズニーランドを作ったのかといえば、
アニメを動かしているうちに
人を生み出したくなったわけですよね。
日経から出ている文庫本で、
ディズニーランドの歴史の本があるんですが
彼ら、ずーっと失敗スレスレのことしか
やっていないんですよ。
いつ潰れてもおかしくないのが、
ギリギリで運良く動いているんです。
……“ツキ”ですよ。
宮本さんだって、ピクミンが失敗する可能性だって
ないはずがないですよね。

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宮本 うん、もう、最初からそう言われましたよ。
けっこういけてるなと思っても
「無名のものですからね」と言われるしね。
糸井 ああ、「無名」!
マリオなんかに比べると、
キャラクターをゼロからつくるということは
それだけでリスキーだという考えがあるんですね。
宮本 たいへんですよね、とか、
悪くはないんですけどね、とか、
パソコンゲームに見えますからねえ、とか……
そういうことを言われ続けました。

糸井 それは、ゲームの業界のなかでピクミンを見せたら
そういう反応があったということですよね。
任天堂や、宮本さんは、たしかに
そういうところで逆風を感じているんですよね。
でも、僕もそうだけれど宮本さんもきっと、
風をふかそうとしていないひとたちのほうに、
つねに興味あるんですよ。
ゲーマーのひとに
「パソゲーみたいですね」と言われるのは
ぜんぜんかまわないんだけれど……
宮本 ふだんゲームするひとも大事だけど、
ふだんはゲームをやらないひとたちに
ピクミンに興味を持ってもらうというのが大事だったんです。
話題になるものって、はじめは無名で出てくるんです。
これ、わかってもらいにくいことかもしれませんが
逆に、出る前から成功を約束されているものを
預かるほうがしんどいことなんですよ。
だから、無名のものを出すのはけっこう快適なんですよ。
CMで音楽が流れて人気が出たけれど
「CDは売れてるのにね」なんて……

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糸井 言われるでしょうね。
宮本 もっと言ってくれ、って(笑)。
それが話題になって広がれば、って。(※註)
糸井 今回、いちばん大きな荷物になっていることって
ハード(ゲームキューブ)を買ってもらうことですよね。
そこを通過しないと、CDからゲームへは
一気に行かないので、そこは重いに決まっているわけですよね。
宮本 僕はピクミンを一年くらい売りつづけたいと
思っているんですよ。
みんなもそう思っているけれど、
そういう商品でも、
経営者さえあきらめるという御時世ですから、
せめて、クリエイターくらい
「僕は本気だぞ」ってやっていても
いいんじゃないかなと思っているんです。
糸井 そうすると、もうすこしすると
流通とか営業について見直すことを
宮本さんがしたくなるかもしれないね。
ここを触ると、いままでゲームキューブをさわったことの
ない人に渡せるぞ、という道が
ひょっとして見つかるかもしれないですからね。

※註このインタビューは
2001年12月に行われたものです。
その後「ピクミン」は
大きな話題になりました。

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まだまだ、続きますよ。
お楽しみに!
2002-03-16