Sponsored by Nintendo.

宮本茂と糸井重里「ピクミンをめぐる対談」

 

darlingと、任天堂の宮本茂さんの対談の第4回目です。
前回に続いて「言葉」であらわすということについて、
そして、“ホンモノらしく”つくるための
創作の方法論を語ります。
“アニメ界の巨匠のはなし”も、出てきますよ!

糸井 ピクミンって、敵と「戦う」わけですよね。
宮本 んー、別に「戦っている」わけじゃないんですよね。
目の前にあるものにたいして、対応しているだけなんです。
目の前のものにたいしては、ひとつの対応しかしていない。
「弾を撃てば敵に当たって死ぬ」とか。
糸井 そうか、そのことで、ぼくが、言葉の使い方として
興味があると思ったのが、
ゲームの中の「戦う」という言葉なんです。
これってね、プログラム的に単純化すると
ある瞬間の1と0が発生してるということの集積ですよね。
最終的な、いちばん小さな単位はね。
それを組みあわせていって
「ダメージを与える」という形になり
あいまいにしていくと「戦う」ということになっていく。
宮本 そうですね。

イメージ
糸井 それが、より「あいまいな言葉」で
やりとりができるようになったのがピクミンなんです。
それって実は、
とても高度になったってことですよね。
「ツーといえばカー」というのって、じつは、
その中で交わされている情報量というのは、
ものすごいじゃないですか。
「ん」と言ったらお茶が出てくる、というのは、
「ん」の中に、すべての情報が入っているわけです。
お茶っぱを茶筒から取って……というところから
ぜんぶ含まれている。
そうなっていく、というのが一番自然なことで
宮本さんはそれを当たり前のようにやろうとして
できるようになったんです。
ピクミンがそうなんです。
ピクミン一個ずつがAIですよね。
ハードが進歩することって
たいした問題じゃない、
って思いたがっていたんですが……、
宮本 けどね、ピクミンはやっぱり、
これくらい(ゲームキューブ)の
性能がないとできないんです。
ファミコンでは「できないですよ」、
と言われて終わりなんで。
単純なことを大量に処理できるようになってきたというのは
ピクミンがたくさんいる、ということだけじゃなくて
敵として待っててピクミンを食うだけじゃない、
いろんなことをしているやつがいたら、
そういうのが個々に動いているのだって
処理時間がかかってくるし
そういうのは、たぶん、昔の機械では、できないですよね。
糸井 そうですよね!
そんなふうに技術が進化したなかで、
宮本さんがゲーム作りのチーム、現場で
どんなふうにリーダーシップをとっているんだろう、
ということに、とても興味があるんです。

宮本 “敵と戦う”ということを例に言いますと、
自分がゲームを始めたときに、
敵っていうものがいるということが
ゲームのお約束ですよね。じゃあ、
敵がいないゲームはつくれへんのか?
どうして敵がいなあかんのか?
というところから、
ぼくのゲーム作りは、始まってるんです。
糸井 ええ。
宮本 どうしてもステージクリアというものがないと、
ゲームにならへんからって、
その「かたち」のほうを、大事にするんですよね、みんな。
ストーリーはあるんですか?
ステージはいくつあるんですか?
アイテムは?
という文法が、ゲームの中にいっぱいある。けど、
そういうことじゃなくて、もっと単純なことを
みんなが繰り返していたら、
その結果が遊びになっている、というのが、
ぼくの理想なんです。
だから、いま流行のゲームをつくろうとするのとは
逆のほうからつくる、ということを
現場ではいつもチャレンジしているんです。

イメージ

イメージ
糸井 単純なことの繰り返し、かあ。
宮崎駿さんの映画を思い出しました。
「千と千尋の神隠し」、
人間の視野を越えて宮崎さんが描いてますよね。
見逃すに決まっているところを、
ぜんぶ動かしているんですよ。
映画館の、右側で見ている観客と、
左側で見ている観客との視野のズレがあるから
シネスコの画面を
全部把握できないままに映画が終わるんです。
その無意識のいらだちって、あるんです。
だから、また見たくなる。
ほかの人は違う情報をかかえて、映画館から帰るわけですよ。
だから、「あれよかったね!」って言われたら
「ああ、よかったね!」って言うんだけれど、
そこには、見る人によって、違いがあるんです。
宮本 それは「故意」ですか?
糸井 「故意」なんです。

イメージ

宮本 やっぱり。
糸井 宮崎さん、「もののけ姫」の次はなにかといったとき
全部ロジックで考える人ではないから
「全力でものをつくる」ということを考えたと
思うんですよ。
建物ひとつにしたって、
任天堂の建物がなぜこんなに四角いかっていったら
「四角い」という言葉に直したいからだと思うんです。
でも宮崎さんは建物をつくるにしても
どういう建物なのか“言えない”形にしていますよね。
だから、いつでも情報が、作り手の側に多くて
受け手の側に少ないんですよ。
「千と千尋」は特に。
全員が、全部を、わかりっこない! て思えたのが
宮崎さんの自信だったと思うんです。
お客さんは、それに見事に乗って、
「その遊びに参加させて!」っていう気持ちになる。
ただ、かわいそうなのは、2Dのアニメーションというのは
全部を描き込んでおかないとならない(笑)。
でもピクミンは、プログラムを一度組めば、
自由に動いてくれて……

イメージ
宮本 これ、ラクなんですよ。ほんとうに。
前に宮崎さんにこう聞かれたんです。
「ホンモノらしく見せるには
 どうしたらいいかわかりますか?」
って。わかりません、ってこたえたら
「一生懸命描き込むことです」
って! 上手に描くというより、細かいところまで
描き込んでいくことで、ホンモノらしく見えるんだと。
糸井 宮崎さんと宮本さんの間では、
そういう会話が、ずっと続いてるんだ!
宮本 だいぶ前ですけれどね。
背景を描いてはるときに、聞きました。

イメージ
糸井 クレイジーなまでの仕事量を封入することが
オーラを出すことなんですよ、あそこ(ジブリ)は。
以前、ほぼ日に書いたんだけれど
映画の仕事が始まると、
宮崎さんは朝の9時に出勤して
2食ぶん入った弁当を持ってきて
弁当の時間は5分。
朝の5時まで、一切口もきかずに
仕事をしているんですって。
ほかの社員がちょっと外に出ていこうとするのを
防ぐために、出口のそばに、
ジャマになるようにいるんだって!

イメージ
宮本 (笑)
糸井 風邪引くと、怒るんだって!
それを、ぎゅうううううっと凝縮させていく。

宮本 そうか、見習わなあかんな(笑)。
いや、ぼくも、言うんです、
「宮崎さんのところはたいへんだよ」って。
すごいものをつくるチームというのは、
最後は “やってられるか!”っていうところまで行くんだよって。
でも、その“やってられるか!”っていう仕事が
世の中に残っていくんだよ、って。
糸井 「うれしいだろう?」ってことなんですよね。
宮本 そういうふうに説得に使うんですけど(笑)。

イメージ
糸井 宮本さんは、だから、宮崎さんからしたら、
遊び人、ですね。
いいなあ、ああやって仕事できて、って。
オレは、宮崎さんから見たら「ぶらぶらしてる人」。
宮本 うわははは(笑)。
ぼく、出口に座って邪魔する、
っていうのだけ、してますよ(笑)。

イメージ
糸井 してるじゃないか!(笑)
体質的に、「いいものをつくる」ことに集約させる人は
絶対、そうなるに決まってますよね。
それって、悲しいことに、一過性のものになって
倒れてしまうんですが、宮本さんのところは、
“遊び”の成分があるから、
倒れずに人が育っていくんですね。

イメージ
2002-05-10