詩 人 と T シ ャ ツ 。
ボ ー ズ 、谷 川 さ ん ち に 行 く 。
今年も「ほぼ日」ではTシャツをつくります。
でも、ようやく冬が終わって春が訪れたばかりのいま、
Tシャツだなんて言われてもピンと来ないですよね。
そこで、ちょっと、Tシャツの気分を思い出せるような
読み物をつくってみようと思いました。
誰に登場してもらおうかと考えてみたら、
ぴったりの人をふたり、見つけました。
詩人の谷川俊太郎さんと、スチャダラパーのボーズさんです。
ふたりとも、さり気ないけど、
いつも素敵なTシャツを着ていて、
十代でも二十代でもないけど少年っぽくて、
偶然ですけど、ことばをつむぐ人です。
春の初めのある日、杉並にある谷川俊太郎さんのご自宅を、
ボーズさんが訪ねました。

第1回「けっこう真剣に選ぶんだよね、Tシャツって」



ボーズ 谷川さんって、ふだんからふつうに
Tシャツ着てらっしゃいますよね。
谷川 ええ、僕はもう、
すごくTシャツが好きなんですよ。
ただ、いつごろから着てるのかっていうのは
よく憶えていないんですよ。
というのは、僕らが10代のころって、
まだ「Tシャツ」っていう概念がなかったから。
ボーズ あ、そっか! そうなんですね。
え? じゃあTシャツって、
どういうふうに浸透していったんですか?
谷川 いや、だからそれを考えてみたんだけど、
いつごろから「Tシャツ」っていう名前で、
実際に着だしたかって、よく憶えてないんです。
最初は白の肌着だったわけですよね。
かたちからすると、
Tシャツなのかもしれないけど、
あれは肌着であるという認識だったと思います。
少なくとも、上に着るものではないっていう。
ボーズ そうかそうか。それをいちばん外側に着て
出かけるっていうことはなかったんですね。
谷川 なかった。うん。だから、
戦後、太平洋戦争が終わって
しばらくしてからじゃないかな。
Tシャツっていうふうな言葉が生まれたのは。
どうなのかな? 戦前からあったのかな?
ボーズ ジーンズと同じころに入ってきたんですかね。
やっぱり、スラックスの上に白いTシャツじゃ
成り立たないだろうから。
谷川 やっぱりジーンズと
切り離せないかな。
でも、ジーンズを初めて
履いたときのことは
よく憶えてるんですよ。
なにしろ、僕は、あの、
日本の詩人の中で、
いちばん最初に
ジーンズを履いたという
自慢があるから(笑)。
ボーズ (笑)。それって、いつごろですか?
谷川 そうだな、二十歳のころじゃないかな。
ということは50年代のはじめかな?
ボーズ そのジーンズはどこで購入されたんですか?
谷川 銀座のジュリアン・ソレルっていう洋品店。
いまでいえば、ブティックですよね。
ボーズ 輸入品とかですか?
谷川 そうそうそうそう。
だって、その当時、
国産のジーンズなんかないから。
Leeのジーンズでしたよ。
ボーズ じゃあ、当時は高級輸入品ですね。
「ジーンズという新しいものがあります」
っていう感じで入ってきたんですよね。
谷川 そうそうそうそう。
なんかもうほんとに、
新しい思想が入ってきました、みたいな。
ボーズ そのときはまだ、
Tシャツはなかったんですか?
谷川 それをいま、一生懸命
思い出そうとしてるんだけどねえ(笑)。
うーん、俺、なに着てたんだろう?!
ボーズ あははははは。
谷川 Tシャツの歴史、ちゃんと調べてみたいですね。
ボーズ そうですよねぇ。知りたいですよね。
日本で最初に着だした人がいるんですよね。
谷川 そもそもどこでいつ生まれたか、っていうのも。
だって、西部劇観てても、
ジーンズは履いてるけど、
Tシャツは着てないもの。
みんななんかほら、
コンビネーションみたいなさ、
上下つながってるものとか、
そういうの着てますよね。
あれがいつ、Tシャツになったのか‥‥。
最初は、作業着とか、制服とか、下着とか、
そういう感じのものだったと思うんですけどね。
ボーズ 考えてみるとけっこう
最近のことなんでしょうね。
オトナが着て外に出ても
おかしくなくなったのは。
谷川 完全に認知されたのは
70年代に入ってからくらいかもしれないねえ。
それまではたぶん、
Tシャツなんか着てたら、やっぱり失礼だし。
ボーズ だらしないし(笑)。
谷川 そういう感じだったよね(笑)。
いまはもう、たとえば、
Tシャツの上に背広を羽織るなんていう
着こなしがふつうに成立するものね。
ボーズ そうですね。すごくおしゃれなブランドで、
2万円くらいするTシャツ
売ってたりしますしね。
あれって、外でふつうに着ていいですよ
ってことだと思うし。
谷川 Tシャツって、
いつごろから意識するようになりました?
ボーズ 僕ですか? 僕らは、ええと、なんだろう、
子どものときに、ふつうにありましたね。
プリントの入ったTシャツが。
外に着ていけるものとして。
谷川 うんうん、もう小学生のころから。
ボーズ そうですね、いちばん安い服、みたいな感じで。
だから、ずっと着てますよね、ほんと。
外に行くときも、家にいるときも。
寝巻きにもなるし。
谷川 寝巻きにもするよね(笑)。
ボーズ お気に入りのTシャツを外出着にして、
それが傷んできたら
パジャマにしちゃう、みたいな。
そういうものですね、Tシャツってね。
谷川 うんうん。
ボーズ ぼく、昔はバスケとかやってたんですけど、
バスケやるときのちょっと古いTシャツとか、
出かけるときの小ぎれいなTシャツとか、
なんか、分けてたりしましたね。
谷川 ああ、用途によって替えるのね。
それはあるよね!
ボーズ ありますねー。
いまでもありますからね。
谷川 けっこう真剣に選ぶんだよね、
Tシャツって。
ボーズ そうですね。
谷川 ねぇ。朝着る時にさ、けっこう選ぶし、
外へ出るとなったらもっと選ぶ、みたいな。
ボーズ そうそう(笑)。
今日は、出かけるからこれにしようとか、
デートだったらこっちにしたほうがいいとか。
谷川 でも、人が見ると、
たいして変わんないですよね(笑)。
ボーズ そう! 変わらないです(笑)。
谷川 自分の心理としては、
絶対一枚一枚違っていて、
きちんと選んでるんですけどね(笑)。
(明 日 に つ づ き ま す)
撮影:MIKA POSA

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2004-03-22-MON

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