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もうすぐ『ゼルダ』がやってくる!

 
いよいよ今週(12月13日)発売の
「ゼルダの伝説 風のタクト」
その制作チームの代表者4人に話を聞く
座談会の、第2回目です。
今回は、宮本茂さんが、どんなふうに
みんなにダメ出しをするのか、
その具体例を聞くとともに、
チーフディレクターの青沼さんが
「宮本化」しているようすも
うかがうことができましたよ〜!
それにしても、おそろしいチームです。
だって、このゲーム、
スゴイ早さでつくっちゃったんだよ!?!?
驚きの連続の座談会、さあどうぞ〜!

任天堂 情報開発本部 制作部制作課 係長
ディレクター

前作から引き続き、全体を統括するディレクターとして活躍。
携帯の待受け画面に設定した、生まれたばかりの息子
(でもなかなか会えない)の写真を支えに、がんばりました。
任天堂 情報開発本部 制作部制作課
スクリプト&イベントプランニング
フリスクを口に、娘の写真を胸に、
リリー・フランキーのエッセイを支えに、
書いて書いて書きまくりました。
任天堂 情報開発本部 制作部制作課
デザインマネージャー

プレイヤーキャラクターデザイン。
アイテムや街の人々などの監修も。音楽とふかふかのタオルと
妻の愛情を支えに、ここまでたどり着きました。
任天堂 情報開発本部 制作部制作課
デザインマネージャー

キャラクターデザイン、なかでも敵キャラを全般的に監修。
海洋堂の「激戦/兜コレクション」を見つめ、
髷物の音楽を聴きながら、描き続けました。


ほぼ日 望遠鏡のことで、宮本さんからダメ出しが
あったんですか?
望遠鏡っていうのは、リンクが最初に
妹から受け取る望遠鏡ですよね。
高野 そうです。
今回の「ゼルダ」は、望遠鏡っていうのが、
物語のきっかけになってるんですけど、
最初、青沼と僕が考えてるときっていうのは、
それはまあ、「ただのきっかけ」だから、って
サラリと流すようなエピソードだったわけです。
望遠鏡を妹からもらう、
誕生日祝いにもらうっていう行為自身は、
きっかけとしてもおかしくないし、
それは別にいいんじゃないか、っていうことで、
最初は「妹からもらう」という設定でした。
そこにいきなり、宮本が、
「こんな高価なものを、妹がくれるっていうのが
 おかしいだろう?」って。
最初、え? なんでそこまで気になるの?
って思いました。でも宮本は、
「そんな小っちゃい子がお兄ちゃんに、
 いくら誕生日だからって、
 買ってあげるっていうのは、
 おかしいんじゃないか?」って。
宮本には、
一生懸命に貯めて買ってあげたんですよって
言ったんですが、
「貸してあげるっていうほうが、
 絶対に、導入としてはいいじゃない」って。
春花 ぜんぜん違和感なかったですよね。
あげるっていうバージョンでも。
青沼 いや、だからそこがね。
高野 そうなんです。
ゲームをやってくうちに、
望遠鏡を「妹から貸りた」っていうことが、
どんどんどんどん大きくなってくんですよ。
ほぼ日 それは、リンクの中の気持ち、
プレイヤーの気持ちが。
高野 そうですね。だから、これを大事に持ってなきゃ、
とかっていうのが、
後々にゲームを長いこと続けてくと、
マッチしていくんです。
妹からもらったっていうふうだったりすると、
話はおかしくはないんですけど、
重みがないんです。
そのことに、僕らは最初、気づかなかった。
ほぼ日 ただの「アイテム」になってしまう。
高野 そう。で、それを、借りたっていうことに
なってくると、この望遠鏡を出したときに、
そのことを思い出したりするんです。
そうすると物語に深みが出てくる。
そういうことが後々わかって。
宮本から言われたときは、
なんでそんなこと言うんだろう?
って思ったけれど。
青沼 でもね、それはね、‥‥高野くん、忘れてるでしょ。
高野 ん?
青沼 「借りたことにしよう」と言い出したのは、
きみですよ!

(一同爆笑)
青沼 借りたことにしよう、って言ったのは、彼なんです。
高野 えっ!? えっ ?えっ?
ホントに!? まーた。
青沼 そうですよ。憶えてないやろ?
そうですよ。その、高価なものを、
くれるっていうのがおかしいっていうふうに
言われたのに対して、
じゃあ、どうしよっか? って考えたのが、
誕生日だから貸してあげるって
いうことにしよう、って言ったのは高野です。
高野 そうだっけ‥‥???
滝澤 そうですよ。
高野 そうか、「借りるってことでどうですか?」
って言ったときに、
宮本がピクリときたんで、
あー、これかなー? っていうふうに思ったんだ‥‥。
青沼 そうそうそう。
で、結果的にそれが、
物語の中で膨らんだっていうのは、
結果論ですけどね。
そこまで読んで、宮本が、
そう言ってたかどうかは抜きとしても。
高野 宮本ってね、冗談で言ってるのか、
本気なのか、あんまりよく
わからないところがある。

(一同爆笑)
高野 それで、あ、これ、
冗談で言ってるんだなーって、
放ってたりすると、しばらくたって、
「あれ、どぉ?」とかって言うから、
あ、これ、変えなきゃいけないんだ、
やっぱり、って(泣)。
青沼 だから、最近は宮本が言った言葉も、
すぐにそれで、なんか反応するんじゃなくて、
しばらく置いとくんですよ。

3回ぐらい言われると、
そろそろやらなきゃ、っていう話になるという(笑)。
高野 で、まあ、それも、強く言わないんですよ。
「いや、別に大したことないし、いいんだけど」
っていうのを何回か言われる。
そういうものは、やっておいて間違いない。
ほぼ日 宮本さんはたしか、
「ストーリーは最重要ではない」
とおっしゃっていましたよね?
それはやっぱり変わらないですか?
高野 僕らの中でもやっぱり、それはすごくあります。
ストーリーにがんじがらめになったからといって、
ゲームの根本的な面白い部分が
もっと面白くなるわけでは、ないです。
そういうのは、うちの青沼も同じでね、
ぼくらに指示をするとき、
骨格みたいな、ポイントポイントみたいなのを、
落語みたいに、言うんですよ。
青沼 落語!?
高野 そうなんですよ、青沼の言い方は落語です!
お題はこれとこれね、って。
ほぼ日 「三題ばなし」ですか。
高野 そうなんです。
あとは任せるよ、みたいな感じで。
で、お題っていうのが、
また、難題なお題が多いんですよね(笑)。
ウチの青沼も。
だけど、それはストーリーのことじゃないんです。
こういうふうにしたいから、
とかっていうんじゃなくて、
このお題をやると、
ゲーム的には面白くなるから、って。
このポイントだけは入れて欲しい、
っていうのだけを決めて、
あとはスタッフたちに、
これさえ入れてくれたら、
自由にやってくれていい、みたいな。
青沼 そんなカッコイイことなんか
やってません(笑)。
滝澤 カッコイイ‥‥。ほんまに落語や‥‥。
高野 僕はだから、
落語のお題だと思って、いつも。
青沼 でも、そうでしょうね。
なんか、お題ぐらいを振っといたほうが、
僕が一人だけで考えるよりもっと面白いこと、
みんな考えてくれるんですよ。
たいがい全部、
僕がゼロから10までをやると、
あんまり面白くないんですよ。
ほぼ日 そこはすごく、宮本さん的というか、
任天堂的らしいところかな、と思いますよ。
ひとりがぜんぶ決めて指示してるだけじゃなくて、
みんなからアイデアを、
どんどんどんどんと出せるような環境があって、
っていうのは、なかなか難しいですよね。
実際に、それをやろうとするのは。
ひとりで決めちゃったほうが、
ほんとは、早いじゃないですか。
春花 あ、早いでしょうね。
青沼 早いんだけど、
やっぱ面白くないと思うよ。それはね。
春花 そういうことですよね。
ほぼ日 早いけど面白くないっていうのがわかってて!
どんなに忙しくても?
青沼 もうジリ貧でね(笑)。
そ、こんっな短いスケジュールでも、
それを選ばずに。
滝澤 もうムチャクチャですね。
青沼 っていうか、それしか、ゼルダって、
作る道ないんじゃないかな?
って気がしてしまう。
そこまでをカットされて、
誰かがぜんぶ独断で決めるようなもので
作れっていわれたら、
多分ゼルダじゃないものしか
出来上がらないんじゃないかっていう。
だからこそ、みんな‥‥
滝澤 子供の成長も見られない!

(一同爆笑)
青沼 そう、見られないと。
ほぼ日 何人ぐらいの人がいるんですか?
青沼 最終はね、全部で何人になったんだっけ?
最後はもうスゴイ人数になっちゃって、
誰がどれをやってるんか、
ハッキリとはわからないッスね、その頃は。
ま、何をやっているのかは、
だいたいわかっていたし、
スタッフの出してくる仕上がりの
レベルが高かったですから。
OK、OK、みたいなのを
パンパンパーンって、
もう、ノリでいってるようなとこも
あったりとか(笑)。
でも、その頃には、それぞれがみんな、
こういうものに向かって行けばいいんだ、
っていうことはもうわかってる
レベルのときだったので、
間違いはないだろうな、
っていうところが、ありましたから。


ほぼ日 ちょっと時間がさかのぼっちゃうんですが、
今回の制作期間はどのくらいでしたか?
青沼 スタートをどこにするかっていうの、
難しいんですが、ちゃんと作り始めたのは、
1年半ぐらいなんですよ。
実際は2年半くらいやってるんだけど、
最初の1年は、準備段階で色んなことをやっていて、
‥‥キャラクターが動き始めたりとかも
してましたけど、まだ全然ゲームだなんて
呼べるようなものになってなかったですから。
だから、実際ゲームとして
成り立ち始めたのは1年半くらいですよね。
ほぼ日 でも、1年半って、ゲームの業界では、
むっちゃくちゃ早いですよね。
青沼 早いほうだと思いますね。
高野 その代わり、マラソンの距離を、
全力疾走で走ってる(笑)感じですよ。
ほぼ日 ゴールがあるわけだから、
そこに走ってかなきゃいけないわけですよね。
そういうときって、人間関係みたいなのって、
ピリピリとかするもんなんですか?
高野 確かに当然ピリピリはくるんですけど、
みんながみんな、目指してるものが
1コだったりするんで。
春花 仲は、いいですよ、みんな。
高野 自分の担当がおわったら、
普通だったらもう
「しんどいからやらないです」とか
「僕はそれ言われてませんから、やらないです」
っていうのが、仕事としては
多いと思うんですけど、それがないのが、
任天堂の開発なんです。
「ここが僕は気に入らないですから、
 直させて下さい」と、なる。妥協がない。
どんどんどんどん自分からやってってしまう。
‥‥学生のノリかもしれませんね。
だから、青沼が止める方が多かったんじゃないかな?
青沼 最近、宮本も口癖です。
「やり過ぎるな」とか
「頑張りすぎるな」って。
ウチはね、褒めるわけじゃないですけど、
皆ね、志がね、メチャクチャ高いんですよ。
で、もう、ほっときゃホントに
死ぬまで仕事するんですよ。
いいもの作るために(笑)。
ほぼ日 笑い話じゃないんですよね、意外と。
高野 「ここをこう変えたい」と直訴しに行くときも、
当然、勝手に変えることはできないですから、
「僕はこう思うんですけども、
 あれ、どう思いますか?
 直したいんですけど」って言ったきますよね。
自分ではそんな気にならないんだけどな、
とかって思うところも、
熱意をもって言われますよね。
そうすると、「よし、直そうか」。
滝澤 そうやったんか‥‥。
ほぼ日 向こうはね、それこそ一世一代の覚悟で、
それこそ死ぬ気で来てる‥‥。
高野 みんな、体大丈夫なんかなー?
とかって思いながらも‥‥。
ほぼ日 そういう例って、いっぱいあるんですか?
青沼 そんなことばっかりですよ。
っていうか、だいたいね、僕なんか
偉そうにディレクターなんて言ってますけど、
僕がやれたことなんてのは、ほとんどもう、
(1センチ幅くらいを指でしめして)
こんなもんぐらいで。
最初にどんなもん作ろうか?
っていう道筋作っただけで、
それを増幅してくれたのは、
他のスタッフのおかげですよ。
高野 スタッフは、すごい頑張ってくれてましたよね。
「こんなことしたいね」って言ったらもう、
どんどんどんどん変わってたりとか。
一応これでOKとかってなってるんだけど、
次の日見たら、いきなり絵が変わってたりとか、
パワー・アップされてたりとかして(笑)。
青沼 それで違う方向いっちゃってるときも
あったりしますけど、全体的にやっぱり、
そうやって皆がいいものにしたいという
気持ちで頑張ってくれてるんで、
間違いは、そんなにはないですよ。
僕が、伝えるときに、
「こういうことをしたいから、こうしてね」
っていう話をちゃんと伝えてないところは、
違うものになったりしますけど。
ゆったり時間があれば、ゆっくり話をして、
こうだよねーなんて話ができるんですけど、
これだけ時間がなかったりすると、
「こんな感じー!」
とかって言って、そのまんま走ってく。
そうすると、どんどん違うものに
なってったりとかっていうのが、
あったりするんで、そのへんが今回、
やっぱり、難しかったですね。
ほぼ日 でも、その失敗はほとんどなかったと。
青沼 少なかったです。
で、それは何でかって言ったら、
ゼルダっていうゲームを、
みんながわかっていたからですね。
ほぼ日 ゼルダには歴史がありますよね。
歴史があるだけに、今回当然、
初めて参加したっていう若い人は‥‥。
青沼 いっぱいいます。
ほぼ日 彼らの中でも、共有されてるものが、
あったんですよね。
高野 そういう意味で、ゼルダっていうのは
凄いなーって思うんです。
スタッフ達からしてみたら、
参加するんだから凄いものにしなきゃいけない、
っていうのがありますから。
「それは、ゼルダ的ではない!」
とか言って(笑)。
じゃあ何がゼルダ的なんだ!?
とか思いながらね。
(つづく)

その2 高野さんの場合
「フリスク・ガム」


任天堂には喫煙所がありまして、
たばこはそこでしか吸ってはいけないんですね。
開発チームの面々も、休憩時間をそこで過ごす人が
多くて、ちょっと吸ってる最中に、
ミーティングめいたことがされてて、
決められてることもあったりとかするんです。
闇ミーティングですよ。
ところが、僕はたばこを吸わないので、
喫煙所には行かない。そうすると、僕の知らないところで
いくつかことが決まっていたりして、
「それいつ決まったん?」
「あ、言うてへんかったっけ?」みたいなね。
それで、フリスク・ガム。
座りっぱなしの仕事の眠気覚ましの意味もあったんだけど、
喫煙室の「闇ミーティング」に参加するアイテムでも
あったんですよ。いっぱい食べたなあ。
皆が、たばこを吸う量と
おんなじくらい買ってたんじゃないかな?
青沼さんの証言:
闇ミーティングはですね、喫煙所で部署の他のスタッフが
和んでいるところで、いきなり始まるものだから、
嫌がられまして・・・「ここで、何で会議すんねん!」て。
でも言い出しやすい雰囲気があるんですよ、
「あれ、どうしましょーかー?」っていうのを。
べつに、高野くんをのけものにしてたわけじゃないんです。
ほんとだってば。

撮影協力:
THE RIVER ORIENTAL KYOTO
http://plandosee.co.jp/tro/

この座談会は、鴨川沿いの大きなレストラン
「ザ・リバー・オリエンタル・キョウト」で
収録されました。
昭和初期の巨大な木造建築は、
もともと豪奢な割烹旅館「鮒鶴」だったもの。
アジアのリゾートふうのしつらいを加味し
レストラン、バー、パーティールーム、
結婚式もできる教会などをもつ施設に
生まれ変わりました。

京都市下京区木屋町通り松原上ル美濃屋町180
Tel. 075-351-8541
Fax. 075-351-5688
阪急河原町駅より徒歩6分、
京阪五条駅より徒歩3分、
JR京都駅からタクシーで約10分

営業時間:
ブライダル 10:00〜20:00
レストラン 17:30〜23:00
バー 21:30〜03:00
2002-12-10-TUE