ほぼ日 |
望遠鏡のことで、宮本さんからダメ出しが
あったんですか?
望遠鏡っていうのは、リンクが最初に
妹から受け取る望遠鏡ですよね。 |
高野 |
そうです。
今回の「ゼルダ」は、望遠鏡っていうのが、
物語のきっかけになってるんですけど、
最初、青沼と僕が考えてるときっていうのは、
それはまあ、「ただのきっかけ」だから、って
サラリと流すようなエピソードだったわけです。
望遠鏡を妹からもらう、
誕生日祝いにもらうっていう行為自身は、
きっかけとしてもおかしくないし、
それは別にいいんじゃないか、っていうことで、
最初は「妹からもらう」という設定でした。
そこにいきなり、宮本が、
「こんな高価なものを、妹がくれるっていうのが
おかしいだろう?」って。
最初、え? なんでそこまで気になるの?
って思いました。でも宮本は、
「そんな小っちゃい子がお兄ちゃんに、
いくら誕生日だからって、
買ってあげるっていうのは、
おかしいんじゃないか?」って。
宮本には、
一生懸命に貯めて買ってあげたんですよって
言ったんですが、
「貸してあげるっていうほうが、
絶対に、導入としてはいいじゃない」って。 |
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春花 |
ぜんぜん違和感なかったですよね。
あげるっていうバージョンでも。 |
青沼 |
いや、だからそこがね。 |
高野 |
そうなんです。
ゲームをやってくうちに、
望遠鏡を「妹から貸りた」っていうことが、
どんどんどんどん大きくなってくんですよ。 |
ほぼ日 |
それは、リンクの中の気持ち、
プレイヤーの気持ちが。 |
高野 |
そうですね。だから、これを大事に持ってなきゃ、
とかっていうのが、
後々にゲームを長いこと続けてくと、
マッチしていくんです。
妹からもらったっていうふうだったりすると、
話はおかしくはないんですけど、
重みがないんです。
そのことに、僕らは最初、気づかなかった。 |
ほぼ日 |
ただの「アイテム」になってしまう。 |
高野 |
そう。で、それを、借りたっていうことに
なってくると、この望遠鏡を出したときに、
そのことを思い出したりするんです。
そうすると物語に深みが出てくる。
そういうことが後々わかって。
宮本から言われたときは、
なんでそんなこと言うんだろう?
って思ったけれど。 |
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青沼 |
でもね、それはね、‥‥高野くん、忘れてるでしょ。 |
高野 |
ん? |
青沼 |
「借りたことにしよう」と言い出したのは、
きみですよ!
(一同爆笑) |
青沼 |
借りたことにしよう、って言ったのは、彼なんです。 |
高野 |
えっ!? えっ ?えっ?
ホントに!? まーた。 |
青沼 |
そうですよ。憶えてないやろ?
そうですよ。その、高価なものを、
くれるっていうのがおかしいっていうふうに
言われたのに対して、
じゃあ、どうしよっか? って考えたのが、
誕生日だから貸してあげるって
いうことにしよう、って言ったのは高野です。 |
高野 |
そうだっけ‥‥??? |
滝澤 |
そうですよ。 |
高野 |
そうか、「借りるってことでどうですか?」
って言ったときに、
宮本がピクリときたんで、
あー、これかなー? っていうふうに思ったんだ‥‥。 |
青沼 |
そうそうそう。
で、結果的にそれが、
物語の中で膨らんだっていうのは、
結果論ですけどね。
そこまで読んで、宮本が、
そう言ってたかどうかは抜きとしても。 |
高野 |
宮本ってね、冗談で言ってるのか、
本気なのか、あんまりよく
わからないところがある。
(一同爆笑) |
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高野 |
それで、あ、これ、
冗談で言ってるんだなーって、
放ってたりすると、しばらくたって、
「あれ、どぉ?」とかって言うから、
あ、これ、変えなきゃいけないんだ、
やっぱり、って(泣)。 |
青沼 |
だから、最近は宮本が言った言葉も、
すぐにそれで、なんか反応するんじゃなくて、
しばらく置いとくんですよ。
3回ぐらい言われると、
そろそろやらなきゃ、っていう話になるという(笑)。 |
高野 |
で、まあ、それも、強く言わないんですよ。
「いや、別に大したことないし、いいんだけど」
っていうのを何回か言われる。
そういうものは、やっておいて間違いない。 |
ほぼ日 |
宮本さんはたしか、
「ストーリーは最重要ではない」
とおっしゃっていましたよね?
それはやっぱり変わらないですか? |
高野 |
僕らの中でもやっぱり、それはすごくあります。
ストーリーにがんじがらめになったからといって、
ゲームの根本的な面白い部分が
もっと面白くなるわけでは、ないです。
そういうのは、うちの青沼も同じでね、
ぼくらに指示をするとき、
骨格みたいな、ポイントポイントみたいなのを、
落語みたいに、言うんですよ。 |
青沼 |
落語!? |
高野 |
そうなんですよ、青沼の言い方は落語です!
お題はこれとこれね、って。 |
ほぼ日 |
「三題ばなし」ですか。 |
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高野 |
そうなんです。
あとは任せるよ、みたいな感じで。
で、お題っていうのが、
また、難題なお題が多いんですよね(笑)。
ウチの青沼も。
だけど、それはストーリーのことじゃないんです。
こういうふうにしたいから、
とかっていうんじゃなくて、
このお題をやると、
ゲーム的には面白くなるから、って。
このポイントだけは入れて欲しい、
っていうのだけを決めて、
あとはスタッフたちに、
これさえ入れてくれたら、
自由にやってくれていい、みたいな。 |
青沼 |
そんなカッコイイことなんか
やってません(笑)。 |
滝澤 |
カッコイイ‥‥。ほんまに落語や‥‥。 |
高野 |
僕はだから、
落語のお題だと思って、いつも。 |
青沼 |
でも、そうでしょうね。
なんか、お題ぐらいを振っといたほうが、
僕が一人だけで考えるよりもっと面白いこと、
みんな考えてくれるんですよ。
たいがい全部、
僕がゼロから10までをやると、
あんまり面白くないんですよ。 |
ほぼ日 |
そこはすごく、宮本さん的というか、
任天堂的らしいところかな、と思いますよ。
ひとりがぜんぶ決めて指示してるだけじゃなくて、
みんなからアイデアを、
どんどんどんどんと出せるような環境があって、
っていうのは、なかなか難しいですよね。
実際に、それをやろうとするのは。
ひとりで決めちゃったほうが、
ほんとは、早いじゃないですか。 |
春花 |
あ、早いでしょうね。 |
青沼 |
早いんだけど、
やっぱ面白くないと思うよ。それはね。 |
春花 |
そういうことですよね。 |
ほぼ日 |
早いけど面白くないっていうのがわかってて!
どんなに忙しくても? |
青沼 |
もうジリ貧でね(笑)。
そ、こんっな短いスケジュールでも、
それを選ばずに。 |
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滝澤 |
もうムチャクチャですね。 |
青沼 |
っていうか、それしか、ゼルダって、
作る道ないんじゃないかな?
って気がしてしまう。
そこまでをカットされて、
誰かがぜんぶ独断で決めるようなもので
作れっていわれたら、
多分ゼルダじゃないものしか
出来上がらないんじゃないかっていう。
だからこそ、みんな‥‥ |
滝澤 |
子供の成長も見られない!
(一同爆笑) |
青沼 |
そう、見られないと。
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ほぼ日 |
何人ぐらいの人がいるんですか? |
青沼 |
最終はね、全部で何人になったんだっけ?
最後はもうスゴイ人数になっちゃって、
誰がどれをやってるんか、
ハッキリとはわからないッスね、その頃は。
ま、何をやっているのかは、
だいたいわかっていたし、
スタッフの出してくる仕上がりの
レベルが高かったですから。
OK、OK、みたいなのを
パンパンパーンって、
もう、ノリでいってるようなとこも
あったりとか(笑)。
でも、その頃には、それぞれがみんな、
こういうものに向かって行けばいいんだ、
っていうことはもうわかってる
レベルのときだったので、
間違いはないだろうな、
っていうところが、ありましたから。 |
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ほぼ日 |
ちょっと時間がさかのぼっちゃうんですが、
今回の制作期間はどのくらいでしたか? |
青沼 |
スタートをどこにするかっていうの、
難しいんですが、ちゃんと作り始めたのは、
1年半ぐらいなんですよ。
実際は2年半くらいやってるんだけど、
最初の1年は、準備段階で色んなことをやっていて、
‥‥キャラクターが動き始めたりとかも
してましたけど、まだ全然ゲームだなんて
呼べるようなものになってなかったですから。
だから、実際ゲームとして
成り立ち始めたのは1年半くらいですよね。 |
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ほぼ日 |
でも、1年半って、ゲームの業界では、
むっちゃくちゃ早いですよね。 |
青沼 |
早いほうだと思いますね。 |
高野 |
その代わり、マラソンの距離を、
全力疾走で走ってる(笑)感じですよ。 |
ほぼ日 |
ゴールがあるわけだから、
そこに走ってかなきゃいけないわけですよね。
そういうときって、人間関係みたいなのって、
ピリピリとかするもんなんですか? |
高野 |
確かに当然ピリピリはくるんですけど、
みんながみんな、目指してるものが
1コだったりするんで。 |
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春花 |
仲は、いいですよ、みんな。 |
高野 |
自分の担当がおわったら、
普通だったらもう
「しんどいからやらないです」とか
「僕はそれ言われてませんから、やらないです」
っていうのが、仕事としては
多いと思うんですけど、それがないのが、
任天堂の開発なんです。
「ここが僕は気に入らないですから、
直させて下さい」と、なる。妥協がない。
どんどんどんどん自分からやってってしまう。
‥‥学生のノリかもしれませんね。
だから、青沼が止める方が多かったんじゃないかな? |
|
青沼 |
最近、宮本も口癖です。
「やり過ぎるな」とか
「頑張りすぎるな」って。
ウチはね、褒めるわけじゃないですけど、
皆ね、志がね、メチャクチャ高いんですよ。
で、もう、ほっときゃホントに
死ぬまで仕事するんですよ。
いいもの作るために(笑)。 |
ほぼ日 |
笑い話じゃないんですよね、意外と。 |
高野 |
「ここをこう変えたい」と直訴しに行くときも、
当然、勝手に変えることはできないですから、
「僕はこう思うんですけども、
あれ、どう思いますか?
直したいんですけど」って言ったきますよね。
自分ではそんな気にならないんだけどな、
とかって思うところも、
熱意をもって言われますよね。
そうすると、「よし、直そうか」。 |
滝澤 |
そうやったんか‥‥。 |
ほぼ日 |
向こうはね、それこそ一世一代の覚悟で、
それこそ死ぬ気で来てる‥‥。 |
高野 |
みんな、体大丈夫なんかなー?
とかって思いながらも‥‥。 |
|
ほぼ日 |
そういう例って、いっぱいあるんですか? |
青沼 |
そんなことばっかりですよ。
っていうか、だいたいね、僕なんか
偉そうにディレクターなんて言ってますけど、
僕がやれたことなんてのは、ほとんどもう、
(1センチ幅くらいを指でしめして)
こんなもんぐらいで。
最初にどんなもん作ろうか?
っていう道筋作っただけで、
それを増幅してくれたのは、
他のスタッフのおかげですよ。 |
高野 |
スタッフは、すごい頑張ってくれてましたよね。
「こんなことしたいね」って言ったらもう、
どんどんどんどん変わってたりとか。
一応これでOKとかってなってるんだけど、
次の日見たら、いきなり絵が変わってたりとか、
パワー・アップされてたりとかして(笑)。 |
青沼 |
それで違う方向いっちゃってるときも
あったりしますけど、全体的にやっぱり、
そうやって皆がいいものにしたいという
気持ちで頑張ってくれてるんで、
間違いは、そんなにはないですよ。
僕が、伝えるときに、
「こういうことをしたいから、こうしてね」
っていう話をちゃんと伝えてないところは、
違うものになったりしますけど。
ゆったり時間があれば、ゆっくり話をして、
こうだよねーなんて話ができるんですけど、
これだけ時間がなかったりすると、
「こんな感じー!」
とかって言って、そのまんま走ってく。
そうすると、どんどん違うものに
なってったりとかっていうのが、
あったりするんで、そのへんが今回、
やっぱり、難しかったですね。 |
ほぼ日 |
でも、その失敗はほとんどなかったと。 |
|
青沼 |
少なかったです。
で、それは何でかって言ったら、
ゼルダっていうゲームを、
みんながわかっていたからですね。 |
ほぼ日 |
ゼルダには歴史がありますよね。
歴史があるだけに、今回当然、
初めて参加したっていう若い人は‥‥。 |
青沼 |
いっぱいいます。 |
ほぼ日 |
彼らの中でも、共有されてるものが、
あったんですよね。 |
高野 |
そういう意味で、ゼルダっていうのは
凄いなーって思うんです。
スタッフ達からしてみたら、
参加するんだから凄いものにしなきゃいけない、
っていうのがありますから。
「それは、ゼルダ的ではない!」
とか言って(笑)。
じゃあ何がゼルダ的なんだ!?
とか思いながらね。 |